赤い出口、青い出口 第23回「あきらめるのは悪いことか?」

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

第23回 あきらめるのは悪いことか?

【辞めた理由はあきらめたから】

「なんでウチの会社辞めたんだっけ?」
後になって、私が社員としてお世話になった社長に聞かれます。
実は、自分でも明確な理由はなかったりします。

営業のマネージャーでしたので、売上や利益に目標を持ちます。がむしゃらにそれを追いかけるのですが、あるとき気がつくのです。「ああ、別に自分がいなくても数字はできるんだろうな。」と。メンバーがどんどんできることが増えていくと、自分がこのポストにいるのが苦痛になってしまい、辞めてしまったというのが本当です。
待遇も、メンバーにも不満はないですし、誰かから辞めろと言われたわけではない。逆に、居心地がよくてずっと居たいのに、そのポジションに居続けるのを、「あきらめて」しまったのです。

【政治家の進退】

政治家の先生はよく、「出処進退は自分で決める」という言葉を使います。
私はあの言葉にとても納得がいきます。私の「あきらめる」と似た意味に感じるのです。
議員は一般の人からの投票によって、職につくことができるので、同じ議員でも総理大臣であってもその職を解くことができません。気に食わないことがあったとしても、最終的に議員を決めるのは選挙区の人なわけです。公約を達成する意欲さえあれば、他の人がなにを言おうと議員生活を続ける理由になります。
議員をやめるときは、働く意欲がなくなったり、体調を崩したりして、その職務を全うできないと自分で判断したときは議員を「あきらめる」のだと思います。
プロ野球選手が残りの契約期間を残して引退するというのも同じで、年齢やケガで努力を続けても最高のプレーを見せることができないときに、自らその職を「あきらめる」のだと思います。

【所属するのをあきらめる】

私のお客様である中小企業でも、時々辞めていく人がいます。それはある意味、その会社で働くことを「あきらめる」ことになります。社内コミュニティにいる人からすれば、辞めていく人は、「あきらめた人」としてのレッテルを貼ってしまいます。我慢が効かないとか、能力が低いとか、それ相応の理由をつけて。
そして面白いことに、新しい人が入ってくるとまたコミュニティに受け入れます。その人は前の会社を「あきらめた人」であるにも関わらず、自社の持つコミュニティに合うのか、合わないのかを吟味し始めます。

よく考えると、「あきらめない」というのは、同じコミュニティや同じレイヤーに所属するために必要な行動や努力だということがわかります。所属するために必要な条件が他にあって、それに対する努力をし続けることが、「あきらめない」。
「あきらめる」も「あきらめない」も、人間の資質や能力をあらわす言葉ではないのです。


【あきらめるのは悪いことか?】

ということは、私が会社をやめた理由も、一生懸命仕事をやったけど、自分にはその資格がないと感じたからでしょう。私が辞めて文句を言う人なんて、聞いたことがないですし、私も全く後悔はしていません。私はそのポストに居座ることを、「あきらめた」のです。
中小企業の転職にしても、組織に順応できたかできなかったかを「あきらめる」という表現で表しているに過ぎません。

「あきらめる」のは悪い。「あきらめない」のが良い。という信仰みたいなものは、所属するコミュニティやレイヤーから試される、踏み絵のようなものに過ぎないということになります。

そう理解をしていくと、あきらめることは別に悪いことではないのです。
「あきらめる」のは自分で出口を決めたということ。
所属するコミュニティやレイヤーとの関係を断って、新しい旅にでるということ。
そして、そこに新しい入口を自分自身でつくったということなのです。

 


- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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