日曜日には、ネーミングを掘る #032 It’s a Sony

今週は!

わたくしどものような
文案家業をしておりますと、
まあ、職業病とでもいいますか、
なにをしていても広告が目に入って
見てしまうわけですが。

今週のブログのテーマは、
そんななかで思わず
チェックしてしまうもののひとつ、
企業スローガンについて
32センチほど掘ってみる
ことにしましょう。

「ココロも満タンに」
「あなたとコンビニ」
「お口の恋人」

と聞いたら、多くの人たちが、

「コスモ石油」
「ファミリーマート」
「ロッテ」

を思い浮かべるのではないでしょうか。

これらは企業スローガンと呼ばれ、
(ほかにショルダーフレーズ、
タグライン、ステイトメントなどと
呼ばれることもあります)
いわばその企業が
社会に伝えたいメッセージを
ワンフレーズに凝縮して
言語化したもの。
企業名のそばに置かれて
使われることが多く、
上で紹介した3社などは
企業名とスローガンが一体化し、
大きなブランド力になっている
良いい例かと思います。

わたくしもこれまでに
大中小さまざまな企業の
スローガン開発に
かかわらせていただきましたが、
このスローガンというものと
企業との関係に5年ほど前から、
大きな変化が起きているように
感じています。

どういう変化かと申しますと、
スローガンを持たない企業が
目に付くようになってきた、
ということです。

例えば、ソニー。

ソニーは、
「It’s a Sony」という
誰もが目耳にしたことがあるであろう
企業スローガンを
長く使用していましたが、
21世紀になり「like.no.other」
というApple「Think different.」の
二番煎じにしか見えない
スローガンになり、その後、
「make. believe」に変わったあと、
とうとう外してしまいました。

ほかにも日本企業でいえばキリンなども、
少し前からスローガンを外していますし、
いま世界を席巻しているGAFAは、
企業理念こそあれ、
特定のスローガンは持っていません。

なぜスローガンを持たない
大手企業が増えているのか。
そこには大きく2つの理由が
あるように思います。

ひとつは、
世の中の変化の速さです。

大手企業のスローガンは、
通常1年以上の時間をかけて開発し、
5年10年の長期で使う
といったことが多かったのですが、
もはやこのスピード感に
スローガンが追いつけない。
これはスマートフォンが登場してから
10年と少しで起きてきたことを
考えるとよく理解できます。

もうひとつは、
カスタマー(生活者)の多様化です。

スローガンは企業のトップなり
その意を受けたコピーライターなりが
考えているケースが多いわけですが、
いずれにせよそれは生活者にとって
企業の価値観の押し付けと
とらえられかねない。

企業名を見て
そこになにを感じるかは、
個々の生活者のなかにあればいい。
企業と生活者との
約束でもあるスローガンは
企業が決めるものではなく、
一人ひとりが決めるもの。
大手企業は、
そう考えているように思えます。

Amazonという社名ロゴを見て、
本を思い出す人もいれば、
猫の砂を思い出す人もいる。
AWS(アマゾンが提供する
クラウドサービス)
を思い出す人がいれば、
ジェフ・ベソスの坊主頭を
思い出す人もいる。
企業に対する生活者の
多様なイメージの結晶体が
Amazonという強力なブランド力を
創り出しているのだと思います。

そんなわけで、
少なくとも知名度のある
巨大企業にとって、
スローガンを持つことは
むしろリスクであるという時代が
やってきているということなんですね。

ただ、日本の企業の場合、
スローガンを持たないのではなく、
持てないという面もあるのかもしれません。

それはそれで寂しい話なのですが。

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