【あとがき】これからの採用が学べる小説『HR』

HR  あとがき 執筆:ROU KODAMA

この小説について
広告業界のHR畑(求人事業)で勤務する若き営業マン村本。自分を「やり手」と信じて疑わない彼の葛藤と成長を描く連載小説です。突然言い渡される異動辞令、その行き先「HR特別室」で彼を迎えたのは、個性的過ぎるメンバーたちだった。彼はここで一体何に気付き、何を学ぶのか……。これまでの投稿はコチラをご覧ください。

これまでの投稿

 


『HR』あとがき


 

はじめまして。2018年1月よりここanotekonoteにて、小説作品『HR』を連載させていただきました児玉です。

詳しいプロフィールはコチラコチラをご覧いただけると幸いですが、現在は個人事業主(フリーランス)としてライティング、デザイン、プランニングなどをしている傍ら、いや傍らというよりこちらが本来メインなのですが、プロデビューを目指して小説を書いたりしています。いわゆる“小説家志望”というやつです。

キッカケは村上龍の『コインロッカーベイビーズ』でした。

「こんなすごい小説があるのか」と衝撃を受け、それ以降は村上龍に傾倒。『限りなく透明に近いブルー』『海の向こうで戦争が始まる』などの偏執的純文学、『五分後の世界』や『愛と幻想のファシズム』『希望の国のエクソダス』などのアナーキーエンタメ、『エクスタシー』『タナトス』『メランコリア』の三部作を筆頭としたSM・エログロ系など、とにかく村上龍の小説を読み漁り、気づけば「自分もこんな刺激的な小説を書きたい」「村上龍みたいに読者をドキドキさせる作家になりたい」と夢見るようになっていたというわけです。

その後、自分はいったい何作の小説を書き、何作の小説が(一度も一般読者の目に触れることのないまま)消えていったでしょう。文學界新人賞、群像新人文学賞、文藝賞、すばる文学賞、新潮新人賞。文芸誌なんてまともに読んだこともないくせに、ひたすら書いては応募、次の日からまた新しい作品を書いて応募、次の日からまた新しい作品を……と、評価や名声を得ることより「書くことそのもの」が目的だというような、ある意味ではストイックなアーティスト気取りで小説を書き続け、それでも審査結果の発表日を忘れるほどの度胸もなく、ドキドキしながら近所の本屋まで行っては、自分の作品が一次審査にすら通らなかったことを立ち読みで知る。

皮肉なことに、と言うべきか、書いても書いても評価されないせいでずっと書き続けていた自分は、いつの間にか「文章を書く能力」が向上し、いわゆるライターとしての信頼をいただけるようになっていきました。小説で生計を立てることのできない自分は、食べていくための仕事としてライター職を選び、こちらではそれなりの評価を得ていたのです。

「これはいい小説を書くための訓練なんだ」そんな、誰に対する言い訳かわからぬ言い訳を繰り返しながら、ひたすらに原稿を書きまくる。職場に行ってたくさんの原稿を書き、家に帰って小説の続きを書き、夢で見た突飛なストーリーを、「これはネタになる!」と目覚めて速攻メモし……。そんな毎日は確かに「訓練」でした。自分は文章を書くことに「慣れて」いったのです。

話を進めましょう。

そんな生活を続けた後、僕はそれまで勤務していた広告代理店を退職し、フリーランスになりました。2017年夏のことです。

そして、以前勉強会の講師としてお世話になったコピーライターの佐藤康生さんを通じて株式会社ブランド・ファーマーズ・インクを知り、やがて安田佳生さんとも知り合ったのです。その安田さんから「ウチのWebメディアで小説を書いてみませんか」というご依頼をいただいたのは、2017年も終わりに差し掛かった冬の日でした。BFIが運営するWebメディア「anotekonote」のコンテンツとして、僕が数ヶ月前までいた「採用業界」をテーマとした小説を書いてみないかと、そう仰るのです。

実を言うと、当初の自分はこの話にあまり乗り気ではありませんでした。

自分にとって小説はある種の「聖域」です。かつて村上龍は「才能とは欠落のことだ」と言いましたが、実社会で嫌なことがあったりうまくいかないことがあったときほど執拗に「執筆」に没頭してきた自分は、むしろ作品が評価されず、日の目を見る機会を得られなかったことでその「聖域」を守ることができていました。BFIという、業界内でも独特の存在感を持つ会社のWebメディアで、本名を晒して、一般の人が読んでも「顔をしかめない」小説を書く。その一歩を踏み出すことが、当時の自分にはとても難しいことのように思えたのです。

一方で、自分はこの話を受けるだろうこともわかっていました。

書いて書けないものはない。過去何百本、何千本もの原稿を書いてきたライターとしての自分が、「まさか、書けないとか言わねえよな?」と凄んできた。

「そうじゃない。書けないわけじゃない。ただ、ただ、さ――」

小説家志望が職業としてライターを選ぶことの自然さ、そして同時に「悲しさ」を、このときほど感じたことはありません。小説家とライターは、文章を書くという意味では同じでも、メンタリティとしてはほとんど正反対と言ってもいい。自分はそのことを無視し続け、自分の中にある意味「2つの人格」を持つことになってしまいました。ビリー・ミリガンのごとく、自分の頭の中で2人が議論する様子を、彼ら2人の「容れ物」としての第3の自分がぼんやりと見ている。そして自分(傍観者たる第3人格)は、これまで逃げ続けて何の成果も出すことができなかった小説家としての自分が、それなりに多くの評価をもらってきたライターとしての自分に、ゆうゆうと論破される姿を見たのです。

2018年1月4日、『HR』最初の投稿。

今思えば『HR』は、ライターの自分と小説家の自分がはじめて「共作」した作品だと言えます。

そしてまた、はじめて「読者」を得た作品だとも。

「HR、読んでますよ」
「Webメディアで小説なんておもしろいですね」
「文才がありますね」
「書籍化だって夢じゃないんじゃないですか?」

ほとんどはじめて聞いた「読者」の声に、戸惑いつつも喜びを感じました。

 

2月2日、第2話スタート。

主人公の村本が、M社の失注という挫折を胸にHR特別室にやってくる話です。小柄な冴えない室長が実は運動神経がいいこと、超クールに見えて実は誰よりも熱い保科、上場企業の社長からバンバン誘いの電話がかかってくる美人おばさん高橋。こういう設定は最初から決めてありました。

しかし、どれだけ細かい設定がされてあろうが、彼らが本当に<動き出す>のは作品の本文を書きはじめてからです。保科が村本を連れてクーティーズバーガーに行き、そこで社長を説得して本気の採用プランを提案する、という「あらすじ」は決まっていても、書いている自分自身、保科がどんな言葉で社長の心を変えるのかは知らないのです。

 

3月30日、第3話スタート。

室長の呑気だが本質的な態度と、プロレスラーのような風貌ながら誰より優しいタカちゃんのやりとりが書きたくてプロットを書きました。しかし第2話同樣、室長がどんな方法で中澤工業の「採用課題」を解決するかはわかりません。

言うなれば、村本は自分でした。

「なんだこいつら、頭おかしいんじゃねえか?」と思いながら、室長の提案を見ている。そして室長やタカちゃん、そしておっかさんの言葉や態度に、心動かされる。この頃になると、読者の方からいただく感想もなんだかすごくなっていて、「3回読んだんですが、3回とも泣いちゃいました」「この小説を読んで、人生観変わったかもしれない」。嬉しさと同時に、少しだけ怖くもなりました。

 

6月15日、第4話スタート。

満を持しての高橋さん話です。個人的にも気に入っているキャラなので、書いていて楽しかった。でも、いやだからこそ、高橋さんにはちょっと悪いことをしたかなあとも思ったりします。小説には「クライマックス」が必要です。その作品的な都合を、高橋さんに無理やり担わせてしまったという印象があるのです。逆に言えば、それを担えるのが高橋さんしかいないと、第3話(中澤工業の話)を室長担当にした時点で自分は分かっていたのでしょう。小説の世界では、登場人物とプロットがこういう形でぶつかる、あるいは食い違うことはよくあります。作者としては既に生き物として作品の中で生きている彼彼女らにすまないと思いつつ、「ここでこういう出来事が起こらないと作品として終われないんだよ」と言い訳を繰り返すしかありませんでした。

そして10月12日、エピローグ。

これが先週の投稿です。ここで告白しますが、最後の数ヶ月間は、毎週金曜にUPする分をその週に書いていました。ひどいときには、木曜の夜遅くにやっと完成させたこともあります。だから正直いまは、「なんとか終わらせることができた。よかった」という安心感が一番強い。終わってしまって寂しくはないのか、と言われたりもしますが、寂しさは感じません。なぜなら、登場人物たちは作品が終わったところで別に死ぬわけではないからです。HRの世界を舞台にした続編に取り掛かれば、彼らは自然と、(こちらが想定しているよりずっと傍若無人に)動き回ってくれます。

 

さて、「あとがき」などというものを書くのはこれが初めてです。ちゃんと「あとがき」になっているのか、というのも甚だ疑問であります。むしろ、なぜだか自分は今、「はじめに」を書いているような気もするのです。まるでここからもう一度『HR』を書き始めるような、保科や室長や高橋に(昨日と同じ様に)会いにいくような、そんな気分なのです。変なの。

いずれにせよ、僕は『HR』の執筆、そしてその連載の過程で、長らく自分の中にしまいこんでいた「聖域」を、自分以外の皆さんに晒すことの快感を知ったように思います。あるいは、ライターとしての自分と小説家としての自分を溶け合わせること、平野啓一郎っぽく言えば自分が持ついくつかの「分人」を一つにすることの<幸福に似た楽しさ>を。

ということで、「ちゃんとした小説」という意識で書き続けてきた『HR』のあとがきとしてはひどく散文的ですが、これにて〆させていただきます。

あ、でも、来週から、「第1話」「第2話」「第3話」「第4話」と、各一話分を1エントリーにまとめたものをUPさせていただく予定です。マンガアプリの「まとめて読む」的なやつですね。ぜひあなたももう一度、HR特別室の面々に会いに行ってみてください。

最後に、作品を読んでくださった皆様と、このような機会をくださったBFIに感謝いたします。ありがとうございました!

児玉達郎

 

著者情報

児玉 達郎|Tatsuro Kodama

ROU KODAMAこと児玉達郎。愛知県出身。2004年、リクルート系の広告代理店に入社し、主に求人広告の制作マンとしてキャリアをスタート。デザイナーはデザイン専門、ライターはライティング専門、という「分業制」が当たり前の広告業界の中、取材・撮影・企画・デザイン・ライティングまですべて一人で行うという特殊な環境で10数年勤務。求人広告をメインに、Webサイト、パンフレット、名刺、ロゴデザインなど幅広いクリエイティブを担当する。2017年フリーランス『Rou’s』としての活動を開始(サイト)。企業サイトデザイン、採用コンサルティング、飲食店メニューデザイン、Webエントリ執筆などに節操なく首を突っ込み、「パンチのきいた新人」(安田佳生さん談)としてBFIにも参画。以降は事業ネーミングやブランディング、オウンドメディア構築などにも積極的に関わるように。酒好き、音楽好き、極真空手茶帯。サイケデリックトランスDJ KOTONOHA、インディーズ小説家 児玉郎/ROU KODAMAとしても活動中(2016年、『輪廻の月』で横溝正史ミステリ大賞最終審査ノミネート)。

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