変と不変の取説 第6回「高学歴よりも高弟子歴」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第6回 「高学歴よりも高弟子歴」

前回「OSを変えることはできない」では、大企業は事業規模を維持しながら人員減少・売値安価になるとの具体的見解があがりました。変化を目の当たりにしつつも、仕組みを変えることができない理由はどこにあるのか。

安田

会社の形って、きっとこの先変わっていきますよね?

変わるでしょうね。「びっくりするような会社」が出てくるんじゃないですか。

安田

会社で働く以外の選択肢も、増えていきそうな気がするんですが。

それも間違いないでしょうね。前にも話しましたけど、物々交換なんかも増えていきますよ。

安田

つまり「働き方がすごく多様化する」ってことですよね?

そういうことです。

安田

この先「大企業には人が要らなくなる」って話だったじゃないですか?

クリエイティブな人以外は要らなくなる。

安田

そうなった時、「大企業に行く予定だった人」がみんな中小企業に行くかというと、そんなことないと思うんですよね。

ないでしょうね。

安田

じゃあ、どうなると思いますか?

会社と距離を置きながら、ちゃんと稼いで生きていく。そういう人が、どんどん生まれて来るんじゃないですか。

安田

フリーランスってことですか?

いわゆる「今までのフリーランス」とは、ちょっと違うような気もしますが。

安田

どのように?

会社との距離感が変わる。

安田

確かにそうかもしれません。これまでのフリーランスって「雇われてはいないけど下請け」的な人が多いですもんね。

はい。もっと自由に稼ぐイメージですね。

安田

小さいマーケットって、無数にあると思うんですよ。だから個人が食べていく分には余裕なのかもしれませんね。

余裕でしょう。

安田

会社は減っていくんでしょうか?

会社は分からない。ただ、職はどんどん増えると思います。

安田

会社も減っていくんじゃないですか?

新しい形になって生まれ変わるのか。それとも会社自体が減っていくのか。それは、まだ分かりませんね。

安田

じゃあ、新しい形に生まれ変わらないとしたら、減っていくと?

それは間違いないでしょうね。ただ前にも言った通り、大企業は残ると思います。

安田

大企業は人が減って残っていくんですよね。

はい。結果的に会社員が減り、職業人が増える。

安田

職業人ですか?

そうです。

安田

何らかのスペシャリストってことですよね?

その種類が「ぶわーっと」広がっていくんじゃないかと。

安田

ただそうなると、爆発的なお金持ちは少なくなってきますよね。

少なくなるでしょうね。

安田

大企業のオーナーは、大金持ちであり続けますよね?

マーケットで勝っている限りはそうでしょうね。

安田

マーケットは世界で3〜4社が寡占化する状態になるんですよね。

はい。競争は激しいです。

安田

でも一度その3〜4社に入ってしまえば安泰?

いやいや、そこを狙うやつらが、またウヨウヨ出てきますよ。

安田

寡占化した大企業も、入れ替わっていくということですか。

そうです。シェアを取れば取るほど株価が上がり、株主からのプレッシャーも大きくなる。だから止められない。もっとシェアを取りに行く。その連続。

安田

ZOZOがどんどんシェアを取ったら、ユニクロはその分小さくなっていく?

そうなるでしょうね。

安田

前澤さんみたいな大金持ちになろうと思ったら、その競争に勝たなくてはならない。

そういう競争もあっていいと思うんです。大金持ちになりたい人って、絶対にいなくなりませんから。

安田

それは多くの人が憧れているからですよね。人々が憧れなくなっても「大金持ち目指す人」っているんですかね?

いるんじゃないですか。

安田

たとえば40〜50年前の人にしてみたら、コンビニや100円ショップがすぐ近くにあるのって、夢のような世界ですよね。

そうですね。

安田

でも今では、そんなの嬉しくないですよね。あって当たり前だから。

ですね。

安田

大金持ちが自家用ジェットに乗って「香港に飲茶を食べにいく」のも同じじゃないですか?

どういう意味ですか?

安田

今はみんな羨ましいですけど、それが普通になったらどうですか?

香港に飲茶を食べにいくのが普通になる?

安田

自家用車だって昔は庶民の憧れだったじゃないですか。でも今は単なる移動手段。若い人は別に欲しいとも思わない。

自家用ジェットもそうなると?

安田

自家用にはならなくても、運賃が激安になる可能性はあります。バスや電車みたいになる。

そうなったら「香港の飲茶」には憧れないと。

安田

はい。近所の美味しい中華料理屋で十分。

そうなったとしても、なんらかの新しい「憧れ」はずっとありつづけると思いますよ。

安田

その「憧れ」って、金持ちじゃないと叶えられないんでしょうか。

お金が必要な憧れもあるんじゃないですか。

安田

なるほど。では「お金を儲けること自体が憧れ」って場合もありますか?

あるでしょうね。

安田

たとえばトイレットペーパー大手が世界に3社あって、大金持ちになるために「そのうち1社を俺たちがとる」みたいなこと。あるんですかね?つまらなそうですけど。

それが面白いと感じる人が、いるんじゃないですか。

安田

なるほど。

「競争が楽しい」「世界をとりに行くのが楽しい」っていう人。

安田

確かに競争好きはいますよね。

はい。そういう人はいなくならない。ただ会社の中身は変わる。

安田

今、大企業は生き残るために、必死で人を減らそうとしてますもんね。

してますね。

安田

一方で中小企業は、仕事さえあれば人を増やそうとしてますけど。大丈夫なんでしょうか。

大企業の下請けをやっていたらリスクが高いと思います。

安田

下請けじゃないとしても「人がいないと回らないんだよ」っていう中小企業は危なくないですか?

単に仕事を回しているだけなら危ないでしょうね。

安田

いずれは日本も解雇ができるように、法律が変わるんでしょうか?

変わってきてるんじゃないですか。解雇しやすいように派遣社員という制度もつくってきたので。

安田

じゃあ中小企業は、まだまだ人を採っても大丈夫ですか?

いや「オリジナルのモノを作っていく」という精神でないと、危ないと思います。

安田

でも実際に採用しているのは、今の仕事をこなしてくれる人材ばかりですよ。

それが一番マズいです。

安田

そういう会社がほとんどですよ。「何か生み出すかもしれない人材」をガンガン採用してる会社なんて滅多にないです。

下町ロケットみたいな、ああいう会社はないですか?

安田

見たことないですよ。

ないですよね(笑)ドラマの世界なんでね。でもごく一部はあるような気がします。

安田

そうですね。でもそういう会社は、業界の中ではまだまだ異端扱いですね。

私は最終的には、個人に回帰して職業人たちが集団をつくると思います。

安田

そうですよね。雇う雇わないではなく、人が集まって「何か面白いビジネスやろう」みたいな。

会社にリストラされたら、そこで得たスキルで新しい仕事やっていけば良いだけ。そのほうが身軽ですよ。

安田

でも「会社を出たら通用しないスキル」しかない人も、たくさんいますよ。

そうなんですよ。だからこれからは、中学卒業したら「誰かの弟子」になった方がいいです。

安田

マイスター制度みたいな。

そうです。1年に1回いろいろなところに修行にいって、自分の専門性を見極めていく。

安田

いいですね。

そしたら親も教育費がかからなくて楽だと思います。教育費があるから「一生懸命サラリーマンを頑張らなくちゃ」ってなる。

安田

私も社員を雇う気はありませんが、弟子を育てたい気持ちはありますね。境目研究家の弟子。

私もあります。場活師の弟子にしてあげるから「いつでもおいで」って言ってます。

安田

自分がせっかく研究してきたことを、誰かに継承したいという気持ちはありますよね。

でも「誰を師匠にするか」はすごく重要ですよ。

安田

確かに。

これからは「学歴よりも弟子歴」の方が重要な時代になりますから。

…次回第7回へ続く…


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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