変と不変の取説 第18回「地方移住とプロ市長」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第18回 「地方移住とプロ市長」

前回第17回は「国家の役割はどう変わる?」

安田

「国の役割が少なくなっていく」っていうことでしたけど。

そういう方向に進んでいくでしょうね。

安田

じゃあ会社は、どうなんですかね。

会社も間違いなく、その役割が変わるでしょうね。

安田

ですよね。昔ほど「雇うメリット」や「雇われるメリット」が、なくなってきてますから。

売る人と買う人が、どんどんインターネットで繋がってますし。

安田

国がなくなる前に、まず「会社の枠がなくなりそうな」気がするんですけど。

安田さんも言ってましたけど、衣食住の基本だけが残るんじゃないですか。

安田

たとえば服であればユニクロとか?

はい。必要最低限のものは大企業が安く大量に提供して、あとはなくなっていくんじゃないですか。

安田

じゃあ、残りはどうなるんですか?

個人のつながりで「価値が流通する社会」に、変わっていくんじゃないですか。

安田

じゃあ、もの凄く大きな会社と個人事業が、二極化する感じ?

そんな感じですね。

安田

いわゆる中小・中堅っていうのは、なくなるイメージですか?

形を変えるんじゃないですか。

安田

どういうふうに変わるんですか?

「雇う」「雇われる」という感覚じゃなくなると思います。

安田

企業が「雇わなくなる」ってことですか?

「雇う」という感覚自体が、なくなっていく。

安田

プロジェクト的になるってことですか?

そうです。指揮する人がメンバーを集めて「1年間のプロジェクトでやります」みたいな。

安田

そうなったら、働く価値観も変わるでしょうね?

かなり変わるでしょうね。

安田

それこそ半年単位ぐらいで「属する会社がどんどん変わっていく」みたいな。

もはや「属する」という感覚自体がなくなるでしょうね。属するというよりも、参加する感じ。

安田

かなり軽い関係というか、ゆるい関係になりますね。

それが理想ですね。

安田

国家と国民の関係も、そのくらい軽くなるといいですね。

プロジェクト的に?

安田

はい。「この3年は日本人でいきます」「次、2年ほどイタリア人になってきます」みたいな。

いいじゃないですか!それ。

安田

先進国の人たちは、反対するでしょうね。

移民がどんどん入ってきますからね。

安田

実際どうなんでしょう?たとえば国境をぜんぶなくして「好きなとこに住んでください」って言ったら、大移動が起こりますか?

起こる可能性は高いですね。

安田

やっぱり先進国に集中するんでしょうか?

短期的にはそうなるでしょうね。

安田

長期的には?

他国に行って、初めて「自分の生まれ育った国のよさ」が分かるんじゃないですか。住んでみないと見えないものって、たくさんあるので。

安田

なるほど。じゃあ長期的には、またそれぞれの国に戻っていくと?

そうなる人もいるでしょうけど、多くは先進国に残るかもしれません。

安田

たとえば「北方領土に住んでた人たち」っているじゃないですか?

はい。

安田

「1日でも早く故郷に帰りたい」って、言っておられますけど。ずっとそこに住みたいんですかね?

いやぁ、微妙じゃないですか。お墓もあるでしょうし、故郷には行きたい。でもずっと暮らしたいかどうか。

安田

かなり過酷な環境っぽいですもんね。便利なところに慣れたら、戻れないかもしれませんね。

戻れない人もいるでしょうね。でも「やっぱり戻りたい」という人もいる。

安田

生まれたところで暮らしたい気持ちって、本能なんでしょうか?

私いま、地方創生のお手伝いをしてるんですけど。

安田

地方創生?

はい。高校・大学で都会に出た子って、ほとんど帰らないんですよ、地元に。

安田

やっぱり、帰りませんか?

帰らないですね。

安田

帰巣本能よりも、便利さなんでしょうか?

おじいちゃん・おばあちゃんばっかりだし、仕事もないし、やっぱり刺激がない。

安田

刺激ですか?

はい。どんどん人口も減っていくので、未来の希望もない感じがするんですよ。

安田

たとえば今、外国人の観光客って都心に飽きてるじゃないですか。

何度も来てる人には、飽きられてますね。

安田

「買い物に飽きた」って言われてますけど、都会に飽きたんだと思うんですよ。

東京にあるものって、海外でも都心部に行けば、だいたいありますから。

安田

そうですよね。最近は佐賀県がすごい人気だとか、あと、スキー場に行ったら9割方中国人とか。

場所にもよりますけど、地方の観光客はどんどん増えてます。

安田

大阪とか東京に集中してた人が、地方に分散して行ってる気がするんですけど。

観光に関しては、そうですね。

安田

これから地方は観光で潤うんじゃないですか?

潤ってくるでしょうね。

安田

そしたら、地方に住みたい人とかも、増えないんですか?

観光で行くのと、そこで住むのって、またぜんぜん次元が違うので。

安田

違いますか?

非日常で経験するのと「日常がそこになる」っていうのは、ぜんぜん違います。

安田

でも「佐賀県が好きだ」という外人さんがいるように、「仕事があるんだったら、ここに住みたい」っていう日本人もいると思うんですけど。

まさに「そこで仕事が生み出せるか」でしょうね。

安田

じゃあ、仕事さえあれば「自分の好きな街を見つけて住む」っていう流れもありですか?

あると思いますよ。

安田

都会に合わない人とか、人ごみに疲れた人とかは、絶対にいいと思うんですけど。

ただ、地方でも「先見の明をもっていてやっている所」と、まったくやってない所があるので。

安田

ちゃんとやれば、日本の地方って人気出そうな気もするんですけど。現場ではあんまり、そういう動きはないんですか?

ポツポツ出てきてます。若い人たちが集まって、自分の能力を生かした街づくりを考えたり。

安田

本気で地方創生するんだったら「ミニ東京」みたいのじゃなくて、メリハリがあったほうが人は集めやすいと思うんですけど。

そうなんですよ。私もそれを、いろんな町長さんとかに提案するんですけど。

安田

どういう提案をするんですか?

何か1本「めっちゃ尖らせたこと、やりましょう」って。

安田

反応はどうですか?

だいたいが「それはできません。なぜかというと議会が通りません」と。

安田

議会?

はい。マーケティング感性みたいなのは、ほぼゼロです。できない理由ばかりが、バーッと出てくる。

安田

できない理由?

「そんなことしたら、それ以外の産業の人たちどうすんの?」とか「公平性がなくなるじゃないか」とか、すごいです。

安田

そんなこと言ってたら、それこそ「何の特色もない街」になっていきますよ。

はい。結果は、もう目に見えてます。

安田

その人たちは、分かってないんですか?

分かってます。でも自分がいる間は、そういう「たたかれたり」「大変な思いをしたり」したくない。

安田

なんと!

ほどほどに、無難なところで、問題も起こさずに終わったほうがいいっていう。

安田

行政主体では変えられないってことですね。

とんでもなくエネルギー高い人が出てこないと、無理でしょうね。

安田

外国人の市長さんとか、どうですか?

いいと思いますよ。サッカーの監督みたいに、外国からプロ市長を呼んでくる。

…次回へ続く…


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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