変と不変の取説 第84回「正義感と錦の御旗」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第84回「正義感と錦の御旗」

前回、第83回は「国家と国民の悪循環モード

安田

泉さん “自粛警察”って知ってます?

ああ、はい。

安田

あれって日本特有の現象ですか。「戦争中はこんなんだったんじゃないの?」ってよく書かれてるんですけど。

「非国民を探せ」みたいな。

安田

まさにそんな感じ。

正義感を振りかざすことで「自分の価値」を探している人が一定数いるんですよ。

安田

自分の価値を探してる?

そうです。自分の正しさがあって、その正義感を世の中に振りかざすことによって「自分の存在価値」が高まる。

安田

なるほど。

ネットがあることによって、やりやすくなった。

安田

本人はぜんぜん悪気ないんでしょうか?

確信犯の人もいると思います。遊びでやってる人とマジメにやってる人が混在してる。

安田

戦争中もこんな感じだったんですかね。「この非国民め!」って。大義名分があれば「何やってもいい」みたいな空気。

虎の威を借る狐じゃないですけど。錦の御旗があると「ちょっと強気になる」人が出てくる。

安田

日本人にはそういう性質があるんですか?それともこれは人類共通ですか?

たぶん人類共通だと思う。

安田

人間ってまだまだレベルが低いですね。

ただ日本の場合は、オープンにそういうことを言い合える場が少なすぎるので。

安田

さらにエスカレートすると。

はい。ストレスがたまってくるんですよ。「俺はこれを言いたい!」って。

安田

言いたいけど言えない。

そうです。だから落書きしたり。

安田

ちょっと歪みすぎですよ。

落書きをする人たちって対話力があんまりない。だから陰で書くわけです。

安田

対話する場がないとより陰湿になっていく。

そういうことです。

安田

あれ見て「よくやってくれた!」って人はいるんでしょうか?

いや、いないでしょ。

安田

「みんなの代わりにやってあげたのに、心外だ」って思わないんですかね。

愉快犯もいますから。世間を騒がせてマスコミに報道されることに喜びを得る人。

安田

この前、凄いニュースがFacebookで回って来て。思わず拡散しちゃいました。

どんなニュースですか。

安田

マンションの管理組合から「子どもが泣くのは迷惑なので黙らせてください」「ここはみんなの生活の場なので」って回覧板がきた。

それは夜泣きとかですか。

安田

昼間も夜も。どっちにしろ「子どもが泣くのは近所の迷惑です」と。

わかってても止めようがないですからね。子供が泣くのは。

安田

そうなんですよ。自分に子どもができたら「どうすんの?」っていう。想像力が働かないんでしょうか。

それも同じですね。「みなさんで話し合いましょう」という場がないので、回覧板でやっちゃう。

安田

でもこれって管理組合がやってるんですよ。「子どもは泣かしちゃいけない」「このマンションでは子どもが泣くのは迷惑行為です」って。

それは話し合って決めたことではないと思う。

安田

じゃあどうやってその結論に至ってるんですか?現に回覧板が回ってきてるんですよ。

たぶんマンションの管理組合はクレームを聞いてるだけ。「なんとかしてくれよ」みたいな。

安田

聞いちゃっていいんですか。そんなクレーム。

だいたいの管理組合は管理会社がやってるので。クレームをもとに決められた対応をやってるだけ。

安田

でも現実的に赤ん坊なんて黙らせようがないですよ。

そうですね。

安田

「迷惑だからやめてください」って言われてもできないし。

やめさせようとしてるわけじゃないんですよ。

安田

どういうことですか。

だから「クレームは回覧板で回しました。うちの責任は果たしてます」ということ。

安田

ああ、なるほど。「うちは責任果たしました」ってことですか。

そうです。責任逃れですね。

安田

なるほど!そういうことなんですか。

はい。政府も責任を負いたくないから「専門家会議が決めました」って言うじゃないですか。

安田

言いますね。

同じ構造ですよ。

安田

じゃあ自粛警察とはちょっと構造が違うんですね。

ぜんぜん違う。単なる責任逃れ。

安田

なるほど。マンションの平和を守るためにやってるわけじゃなくて、「自分はやるべきことをやってますよ」というアピール。

そのとおりです。

安田

だからこういうことが起こるんですね。管理会社にクレーム言う人も、自分では言えないから。

そうです。

安田

じゃあ管理会社にクレームを入れるような人が、自粛警察に近いんですか。

そうでしょうね。「組合費払ってるやないか。だから俺はクレーム言う権利あるでしょ」みたいな。

安田

ちなみに自粛警察の人って本名を隠してますけど。自分でも悪いことをしてると思ってるんですか。

 怖いんですよ。「自分もやられる」と思ってる。

安田

自分も?

自分みたいなやつは世の中に一杯いるから。「何かを発信すれば叩かれる」とわかってる。だから名前は絶対出さない。

安田

「自分は人のことを叩くけど、自分が叩かれるのが嫌だ」ってことですか。

そうです。

安田

めちゃくちゃ卑怯じゃないですか。正義感なんてかけらもない。

それがあるんですよ。正々堂々とした責任をとる正義感ではなくて、自分の正しさを人に押し付けることで快感を得る正義感。

安田

それって正義感なんですか?

ニセ正義感です。でも本人はニセモノだとは思ってない。

安田

なんとも迷惑で扱いづらい人たちですね。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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