第6回「合法と違法の境目」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第6回「合法と違法の境目」

安田

労働法の変更について「知らない」という経営者が、半分くらいいるらしいですよ。

久野

マズイですよね。

安田

簡単に言えば、月々の労働時間が決まってるんですか?

久野

原則は「週40時間」がベースになってます。

安田

週40時間以上は働いちゃいけない?

久野

原則はそうです。だけど「1年間に平均して週40時間労働だったらいいよ」って制度なんです。

安田

どっかで、帳尻合わせてくれりゃいいよっていう。

久野

そうです。

安田

1年限定なんですか。2年で帳尻合わすのは駄目?

久野

2年は駄目です。

安田

なるほど。1年だったらオッケーと。じゃあ1年で何時間だったらOKなんですか?

久野

1年で2085時間。

安田

2085時間。なぜそんな半端なんですか。

久野

計算式がありまして。365日を7で割るんですね。そうすると、52.1428…。

安田

割り切れませんけど。

久野

だから約52。よく52週間って言うじゃないですか。

安田

なるほど。

久野

365を7で割り、これに40を掛ける。すると2085.71429…

安田

また割り切れませんけど。年間2085.7時間だったらOKということですか?

久野

OKなんですけど、あまり細かいと1秒単位で時間管理が必要になります。

安田

なるほど。だから2085で覚えとけと。

久野

はい。それで2085を8で割ると260.625になるんですね。

安田

8で割る?

久野

要は、1日8時間労働の会社が圧倒的に多いので。そうすると年間260日は働けることになる。

安田

じゃあ、年間休日は365-260で105日ってことですか?

久野

そうです。

安田

じゃあ、1日7時間労働だったら、割る7。

久野

そうです。2085÷7で297日働ける。

安田

ということは、365−297で68日休めばいいってことですか?

久野

そういうことです。

安田

たった68日で、合法なんですか。

久野

細かく言うと、ダメなんですけど、とある条件だったら合法です。

安田

そうなんですか。じゃあ、極論すれば1日5時間だったら1日も休みなしでもオッケーってことですか?

久野

そこは、もうひとつルールがあります。一応「週に1日休まなきゃいけない」というルール。

安田

一応って、どういうことですか?

久野

これもちょっとねじ曲げられてて、4週を通じて4日っていう原則があるんです。

安田

4週を通じて4日。ということは、年間52日ってことですか?

久野

53日です。切上げなんで。

安田

じゃあ、年間 53日以下の会社は、誰がどう見ても違法ってことですね。

久野

違法です。ただし、36協定を結ぶと許されます。

安田

36協定?またややこしいですね。何ですかそれは?

久野

予定で53日以下だと許されないんですけど、36協定を結ぶと「休日労働させても残業させても罰しないよ」というルールです。

安田

ってことは、それを結ばないと残業もダメ?

久野

本当は、残業って1秒でもしちゃいけないんです。

安田

何と!そうなんですか?

久野

はい。

安田

ってことは、世の中のすべての会社は、36協定を結んでる?

久野

いや、残業がない会社がありますんで。

安田

そんな会社ないでしょう?

久野

あるんですよ。まれに。

安田

でも、一応出しといたほうが、いいんじゃないですか。

久野

それは、出しておいたほうがいいですね。

安田

じゃ、みんな出してるんじゃないですか。出してない会社もあるんですか?

久野

ほとんど出してない。

安田

え!どういうことですか?

久野

出さなきゃいけないのを知らないのと、今までは罰せられなかったから。

安田

今後は罰せられる、ということですか?

久野

「罰せられなかった」というのは、法律的には正しくないんですよ。「調査しない限りは、それを見つけ出す手段がなかった」というのが正しい。

安田

じゃあ、これまでは「見つかってなかった」というだけ?

久野

そうです。

安田

なぜ見つからなかったんですか?

久野

紙で管理してたからです。

安田

紙で管理?

久野

「36協定を結んでいるかどうか」を確認するためには、膨大な紙の書類をチェックしないといけなかったわけです。

安田

「データが整理されていなかった」ということですか?

久野

あいうえお順に並べるぐらいのことは、やってたでしょうけど。データベースは整備されていなかったと言われています。正式には「あいうえお」でさえなく、「イロハ」順らしいですけどね。

安田

イロハ順!? ずいぶんアナログな管理をしていたんですね

久野

そうなんですよ。

安田

今回、労働法改正後は、確実にそれがデータベース化されると?

久野

間違いないです。

安田

ちなみに36協定って、何の略なんですか。

久野

労働基準法第36条ですね。

安田

なるほど。これからは「1分でも残業がある会社は、必ずそれを結ばないといけない」ということですね。

久野

そうです。

安田

そのことは、みんな知ってるんですか?経営者さんとか。

久野

社労士が教えてる会社は、知ってると思いますけど。

安田

顧問社労士がいたら「教えていない」なんてことはあり得ない?

久野

いや、たくさんあります。

安田

あるんですか!じゃあ、社労士の先生も知らない場合もあると?

久野

それは、考えられないですね。

安田

考えられない?

久野

知らないと、社労士試験に受からないです。

安田

じゃあ、何で教えないんですか?

久野

管理が大変だからです。

安田

管理が大変?

久野

社労士事務所って、人がいないじゃないですか?

安田

そうなんですか?

久野

スタッフが少なくて、仕事が回ってないんですよ。

安田

だから教えないと?

久野

「出しといてくださいね」みたいに言うだけ。でもお客さんが自分で出すわけがないので。

安田

結果的に出していないと?

久野

そういうことです。

安田

それは社労士さんの売り上げには、ならないんですか?

久野

なります。

安田

じゃあ、すごく手間がかかるとか、手数料が高いとか?

久野

ウチだったら1万5000円ぐらいです。そんなに手間もかかりません。

安田

だったら、なぜやらないのか意味不明ですね。

久野

そうなんですよ。本当だったら「36協定出してますか?」「出してないんですか!」くらいのオーバーリアクションで話しをするべきなんです。

安田

なるほど。

久野

すると、お客さんはだんだん心配になってくるので、「教えて」って言われて「じゃあ、出しときます」みたいな。

安田

いや、それが普通でしょ。どうして、そうしないんですか?

久野

シャレにならないんですけど、社労士事務所自体が労働法ギリギリのところで働いてるんですよ。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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