第7回「生き残る会社の境目」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第7回「生き残る会社の境目」

久野

「法人インフォ」っていうサイトが作られまして。
※法人インフォ https://hojin-info.go.jp/

安田

法人インフォ?

久野

内閣官房と経産省が作ってるんですけど。これ、ここに法人名入れると、どの会社がどんな届出してるかっていうのが一発で分かるんです。

安田

じゃあ、労働者にも一発で分かってしまう。

久野

そうなんですよ。

安田

ちょっと休みの話に戻したいんですけど。

久野

はい。

安田

1日8時間労働だったら「105日は休ませなくちゃいけない」って話でしたよね?

久野

そうです。

安田

あれって、有給休暇も入ってるんですか?

久野

有給なしで105日ですね

安田

有給なしですか。有給って、年間何日とか決まってるんですか?

久野

決まってます。まず、週5日以上の労働契約になってる人は、6カ月勤務すると10日です

安田

6カ月勤務すると10日。その10日は、何カ月以内に取らないといけないとかあるんですか。

久野

時効は2年です。6カ月から今度は1年おきに、つまり通算で1年6カ月目に11日が追加で発生します。

安田

ということは、合わせて21日になる。

久野

そうです。そこから、また1年すると、今度は12日。ただその時には、始めの6カ月の10日は時効で消えます。

安田

ということは、21日の次は23日になると。

久野

そう23日ですね。

安田

その半年ごとの増加は、ずっと増え続けるんですか。

久野

6年6カ月で20日になるんですが、そこで打ち止めです。

安田

ということは、マックス20日。

久野

そうです。だから時効までに貯まるのはマックス40日です。

安田

じゃあ、その40日を「2年の間に消化しなくちゃいけない」ということですか?

久野

消化しなくちゃいけないわけじゃなく、40日間有給があるってだけです。

安田

あるってだけ?でも今後はそれを、強制的に取らせることになるわけでしょ?

久野

強制されるのは年間20日のうち、5日間だけです。

安田

え?そうなんですか。全部じゃないんですか?

久野

5日間だけです。

安田

ということは、15日は別にいいよと。えらくゆるい法律ですね。

久野

逆に言うと、1日も取れてない会社があるってことですよ。

安田

そうなんですか?

久野

それに100人いたら500日分の人工がなくなるわけですから。ぜんぜん緩くないんです。

安田

ということは、1日8時間勤務の会社だったら、105+5で110日は絶対休ませなくちゃいけないと。

久野

そういうことですね。

安田

5日休ませたかどうかって、どうやって調べるんですか?

久野

法定3帳簿とていうのがありまして。

安田

3帳簿?

久野

労働者名簿、出勤簿、賃金台帳の3つが、労働3帳簿です。

安田

なるほど。それで管理していると。

久野

それにプラスして、有給管理簿っていうのが4月1日から追加される。

安田

その帳簿に嘘を記入すると?

久野

違法ですね。

安田

じゃあ、帳簿をごまかす人はいない?

久野

帳簿ちょろまかす以前に、社員を洗脳してますね。

安田

社員を洗脳?

久野

はい。だから、働き方改革のセミナーをやると「敵扱い」されるんです。

安田

敵扱い?

久野

「お前は厚生省の回し者か!」みたいな。「従業員が有給あることに気付くだろう!」みたいな。

安田

じゃあ、有給あることに気づいていない社員さんが、いるんですか?

久野

いないと思います。ネットとか調べたら分かるんで。実際は経営者の顔色を伺ってるだけでしょうね。

安田

有給5日取得が義務化するってことでしたけど。

久野

はい。

安田

残りに関しては、どうなるんですか。15日は買い取るんですか?

久野

買い取りは禁止なんです。

安田

従業員からしたら「せめて買い取ってくれ」ということになりませんか。

久野

もともと有給の理念っていうのは、従業員に休んでもらうことなんです。会社が買い取ったら、金で解決しちゃうわけじゃないですか。

安田

まあ、そうですけど。じゃあ結論的に言うと、取らない有給は「なかったこと」になるんですか?

久野

そうです。

安田

じゃあ強制の5日っていうのは、どうなんですか。今後、増えていくんですか?

久野

増えてくと思いますね。

安田

どのくらい増えるんですか?

久野

政府としては、有給の取得率70%以上という目標を掲げてます。

安田

今は、どれくらいの取得率なんですか?

久野

厚生労働省が発表した就労条件総合調査によると、17年大企業の年中休暇の取得率は51.1%です。

安田

結構、高いんですね。風邪ひいて休むとかも、有給に入ってたりするんですか?

久野

もちろん、そういうケースもありますね。

安田

中小企業は、どの程度の消化率なんですか?

久野

有給取得ゼロの割合が40%ぐらいです。

安田

え!「1日も取ってない会社が40%ある」ということですか?

久野

そうです。まったく取れてない人が4割いるんです。

安田

じゃあ、きちんと休んでいる会社と、まったく休んでいない会社と、かなり大きな差があると?

久野

そうです。だからそこのルールを揃えることが、今回の改正の目的です。

安田

ルールを揃えて、やっていけない会社は撤退しろと。

久野

そういうことですね。従業員30人未満の企業って、勝手にローカル・ルールを作ってる場合が多いんで。

安田

ローカル・ルール?勝手に作ってる?

久野

うちは有給3日ですとか。

安田

今までは、それが許されていたと。

久野

今までも許されてないですけど。

安田

許されてはいないけど、バレなかったと。

久野

なんとなく、うやむやになってたような感じですね。

安田

ちなみに70%取得という目標は、何年後ぐらいのイメージなんですか?

久野

具体的な期限は決めてないんですけど、目標としては2020年で掲げてますね。

安田

2020年ですか。

久野

はい。そしてロードマップでは、働き方改革のゴールが2027年になってます。

安田

2027年までには、生産性の高い会社だけにしたいと?

久野

そうでしょうね。選挙とか考えると大々的には言えませんけど。

安田

中小企業でも、そこまでたどり着けますか?

久野

私の肌感覚で言ったら、かなり難しいです。

安田

実際、休めと言われて、どのくらい休みを増やせるものなんですか?中小企業って。

久野

2〜3日ぐらいですね。

安田

5日に届かない?

久野

そこは無理やり届かせるでしょうけど。

安田

どうやって?

久野

さっき、安田さんが言ってたように、風邪引いたときに有給取らせるとか。

安田

なるほど。風邪引いた時でも、昔なら「這ってでも来い」って言われましたけど。

久野

そんなことしたら、永久に来なくなっちゃいますよ。

 


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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