第33回「高プロ制度の裏側」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第33回「高プロ制度の裏側」

安田

高プロっていうシステムが、よく分からないんですけど。いわゆる管理職と高プロって違うんですか?

久野

違いますね。

安田

どういう定義なんですか?すごい技能を持ったプロフェッショナルってことですか。

久野

簡単に言えばそうですね。

安田

でもそんなの、会社によって変わるじゃないですか。

久野

正確に言うと「高度の専門的知識を有し、職務の範囲が明確で、一定の年収要件を満たす労働者」ということになってます。

安田

じゃあ管理職じゃなくて労働者なんですか。

久野

労働者です。労働者なんだけど、高度の知識を持っていて、一応職業の縛りも決まってる。

安田

つまり高プロっていうのは、時間管理じゃない専門職の労働者ってことですか?

久野

そうです。

安田

ある程度スキルがあれば、自分で時間管理してくれていいよと。それに対して報酬払うから、残業代はないよってことですよね。

久野

そうですね。

安田

高プロ側としては、何かメリットあるんですか。残業代も出ないし。社員のような束縛からは解放されるんですか?

久野

ある意味、一番恐ろしいですよね。

安田

恐ろしい?

久野

1075万円以上なんですけど、それ払うから成果出せってことですもんね、要は。何時に帰ってもいいけど、やることやれよみたいな。

安田

具体的な仕事の指示とかはないんですか?

久野

ないですね。

安田

じゃあ、目的だけコミットして、やり方は任すみたいな感じ。

久野

そうですね。

安田

その高プロに認定されてる人って多いんですか?

久野

5月までは1人しかいなかったんですけど、そこからちょっとずつ増えてます。

安田

ちなみに申請するのは会社ですか。それとも個人ですか。

久野

最終的に申請するのは会社なんですけど、合意が必要です。

安田

じゃあ会社も個人もお互いに求めてないと、高プロにはなれないってことですか。

久野

なれないですね。業務の内容と責任の程度と求められる成果に関して、合意を得て署名をもらう。

安田

なるほど。

久野

4月から始まったんですけど、5月の時点で1人だったんです。

安田

たったひとりですか?

久野

そうです。ちょっとずつ増えてますけど、すごく少ないです。

安田

99.9パーセントは時間管理が続くってことですね。

久野

そういうことです。本当はこれ働き方改革の目玉なんですけど。

安田

高プロが?

久野

はい。本来は時間という概念にとらわれず、成果で仕事の量はかりたいっていう。

安田

そうですよね。それを労働者側もオッケーしてるんだったら、選べるようにしようよってことですよね。

久野

そうそう。それが骨抜き法案にされた。

安田

誰が骨抜き法案にしたんですか?

久野

「なし崩にされる」っていう意見の人。

安田

なし崩し?

久野

要はこんなの1回通しちゃったら、1075万の下限が900万になって、800万になって、600万まで下りてくるぞみたいな。

安田

そうなる可能性があるんですか?

久野

「固定金額で会社にいいようにこき使われる」みたいな考えの人って、一定数いるじゃないですか。

安田

いますね。

久野

そういう人たちの力によって、なんとなく使えない制度になっちゃってる。

安田

なんとなく使えない制度ですか。

久野

合意をちゃんとしましょうとか、業務の内容を決めましょうとか。どんどん細かくなっていって、使いにくくなってる。

安田

高プロが生まれにくいように、不必要に細かくなってると。

久野

そうです。「こんな面倒なことをやるぐらいだったら、もういいや」となるぐらい細かいルールが決められてしまった。

安田

今回この法案を潰そうとした人は「会社が時間管理を徹底すること」に賛成なんですか?

久野

絶対そうでしょうね。

安田

残業代をきっちり払ってほしいから?

久野

そうです。

安田

でも時間で管理される以上は、好きな働き方もできないし、一定以上の成果とかも出しにくいじゃないですか。所詮は時給仕事なので。

久野

それでいいと思ってるんじゃないですか。

安田

労働者側としては、そっちを望んでると。

久野

拘束されてる時間は「きっちりお金もらえたほうがコスパがいい」と思ってるんじゃないですか。

安田

やっぱり日本人って、基本的には時間で管理してほしいんですかね。成果で働きたいっていう人もいると思うんですけど。

久野

すごく少ないんじゃないですか。

安田

時間で拘束されずに、成果出したら早く帰れて、お金もたくさん稼ぎたい。みたいな人も一定数いると思うんですけど。

久野

そういう人は会社員として残ってないと思います。

安田

なるほど。フリーランスになるなり経営するなり、自分でやっちゃうと。

久野

世の中全般的にそういう方向ですよね。

安田

じゃあ、これから社員として残っていく人は、時間拘束してもいいからしっかり給料を払って欲しいと。

久野

そう思います。

安田

これって日本特有の傾向なんですか?

久野

基本的には、世界のどこでも時間で報酬を払います。

安田

でも日本ほど厳格じゃないでしょ?

久野

いや、世界のほうが時間と労働の対価はシビアだと思います。日本がいびつなのは、上のほうまでそうなっちゃってること。

安田

単純労働だけじゃなく、上のほうの人材まで時間で管理していると。

久野

たとえばアメリアとかだったら、時間に対して給与払ったとしても成果出なかったらクビになるじゃないですか。

安田

成果出なかったら解雇ですね。

久野

つまり時間で測ってるように見えて、結局は成果で報酬を払ってる。でも日本はクビにならないので。

安田

日本人は成果報酬に向かないんですかね。

久野

そういう風土を作りたかったんだと思いますよ。高度プロフェッショナル制度によって。

安田

でも潰された。ってことは日本ではこれからも時給制度が続くってことですね。

久野

それに馴染めない人は副業するか、起業するか、フリーランスになるか。

安田

日本では成果報酬的な風土は生まれないと。

久野

絶対に無理でしょうね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから