第40回「仕事のコスパ」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第40回「仕事のコスパ」

安田

Twitterで投稿すると賛否両論に分かれるテーマがありまして。

久野

何ですか?

安田

仕事のコスパについて。

久野

へえ。ちなみにどんな投稿ですか?

安田

「同じ給料だったら、仕事が遅いほうが得じゃないか」って。

久野

またアンタッチャブルなところにいきましたね(笑)

安田

言わずにいれない性格なので。

久野

まあ働いてる側からしたら、その方がコスパはいいでしょうね。

安田

ですよね。

久野

いかにサボるか、みたいな。

安田

だって時間内に終わらなければ残業代は出るし。次の日に持ち越そうが給料は変わらないわけだし。

久野

今の法律だとそうなりますね。

安田

他の人が8時間かかってる仕事を「3時間で終わりました」っていっても、帰っていいわけじゃない。

久野

帰れませんね(笑)。追加で何かやらされますから。

安田

でしょ。そう考えたら仕事が遅い社員ほど得するっていう。すごく矛盾する状態が起きちゃうわけですよ。

久野

そうなりますよね。

安田

これまでは「一生懸命頑張って、どんどん仕事を終わらせて、会社の役に立って」みたいなことを盲目的にやってたと思うんですけど。

久野

「そこがおかしい」って気が付くように法律も変えてますからね。

安田

ですよね。ネット情報もあるし。

久野

もう会社って、そんなに守ってくれるわけじゃないですから。

安田

会社に利益を残したり、会社がどんどん大きくなることが「自分にとって果たして意味があるんだろうか」って考えるようになった。

久野

ネットの影響は大きいですよ。他の会社では「すごくゆったり働いてる」ってわかっちゃう。「なんで自分だけこんなに血眼になってんだ」みたいな。

安田

簡単に比較できますからね。

久野

Instagramでリアルが充実してる人を見て、日曜出勤してる自分に疑問を持つとか。

安田

それでも猛烈に頑張ってくれる子とかもいるんですけど。他の子の3倍ぐらい仕事こなしてたり、後輩の育成までやってくれたり。

久野

そういう社員もいないと会社はもちませんから。

安田

でもそういうありがたい人が、実際そんなに給料もらってなかったりするじゃないですか。

久野

逆にいうと、そこで全体のバランスを取ってるんですよ。それでなんとか成り立ってるっていう。

安田

でも普通に考えたら「頑張っても大して変わんないじゃん」ってなると、頑張んなくなりますよ。

久野

まあそうなりますよね。

安田

受験でも、効率よく必要なことだけ勉強するのが、正しい努力だと言われるわけじゃないですか。

久野

はい。

安田

働くのも同じですよ。お金にならない労働はせず、マイペースで8時間乗り切ればちゃんと給料は出るわけなので。

久野

だから、これからは理念が大事になるんですよ。

安田

昔は理念なんてなくても、会社に入ったらとにかくガンガン働いてましたけど。「24時間働けますか」って言われて「よっしゃっ」ていう。

久野

結果が出る時代でしたからね。右肩上がりで、時間=売上=賞与っていうのが、確実に成立してましたよね。

安田

頑張っても払えなくなっちゃいましたから。やっぱり人口減少が大きいですか?

久野

マーケットが縮小したのが大きいですよね。物が足りないっていう世界はもうないわけなので。時間を切り売りするだけではもうお金が入ってこない。

安田

でも逆に言うと「物が必要ない」ってことは「そんなにお金がいらない」ってことでしょ。つまりそんなに稼ぐ必要もないってことですよね。

久野

そうですね。それこそ、Netflixとかを見てれば1日過ごせるじゃないですか。楽しいし。Amazonなんか見放題だし。

安田

都会の遊びと田舎の遊びが、ほとんど変わらなくなってるらしいです。

久野

そうなりますよね。

安田

家帰って、スマホでLINEするとか映画見るとか。周りが都会だろうが、田んぼだろうが、やってることは一緒。

久野

Wi-Fiがあればどこにいても同じですからね。

安田

買い物だってできちゃいますし。

久野

ホントそうですね。

安田

でも会社としては同じ給料払ってるんだったら、できるだけたくさん仕事をさせたい。社員の側から見ると同じ給料だったら、できるだけ仕事したくない。

久野

時間で管理すると、どうしてもその矛盾に突き当たりますよね。

安田

そりゃそうなりますよ。同じ1000円なのに死ぬほど働いてる人は「あいつバカじゃないの?」って言われる。

久野

経営者から見ると「ふざけんな」って感じだと思うんですけど。

安田

でも「仕事の報酬は仕事です」みたいなのは、もはや成立しないですよ。とは言え、すごく頑張ってる子に「じゃあ時給3000円払うわ」って言えないし。

久野

言えないですよね。稼いでる人が稼いでない人の面倒を見てる図式なので。

安田

頑張ってる子が、頑張んない子の分もカバーして、ようやく会社として回ってるって感じですもんね。

久野

はい。

安田

そう考えたら今頑張ってる人も、どこかで「バカらしいからもう辞めよう」ってなっちゃう気がするんですよ。

久野

なっちゃいますよね。このままだったら。

安田

中堅クラスのバリバリ仕事ができる人が一番しんどくて、一番ひどい目に合ってる。

久野

終身雇用が約束されて「将来の面倒を会社が見てくれる」という前提のもとで、成り立ってましたから。

安田

そうですよね。40歳過ぎたらあとは部下が稼いでくれて、会社で新聞読んでれば60歳まで面倒見てくれるみたいな。しかも給料は右肩上がりで。

久野

もうそれは無理じゃないですか。

安田

ですよね。そしたら上の年寄りとか、まだ仕事できないぺーぺーのために、自分が3倍4倍働くのはバカバカしくなって当然ですよ。

久野

はい。一番稼いでいる人たちが一斉に会社から飛び出す可能性があります。

安田

でも会社を支えてるのは、まさにそのゾーンでしょ?

久野

だからやっぱり理念なんですよ。例えば「ロケットつくって宇宙に行く」みたいな。

安田

そういう面白さがあれば残ってくれると。

久野

それがないと、残る理由がなくなってしまう。

安田

でも会社の理念って、だいたい「お客様の感動のために」みたいな感じですよ。

久野

そういう理念では厳しくなりつつあります。

安田

厳しいですよね。「なんじゃそりゃ」って感じですよ、社員からしたら。

久野

「ロケット飛ばす」までいかなくても、何かしら社員がやりたくなる理念が必要です。

安田

でもそんなのつくれますかね?今さら。

久野

そんなの必要ないと思ってる経営者がまだまだ多いですからね。一生懸命働くことが当たり前だと思ってる。

安田

その根底が変化したことに気づくかどうか。

久野

はい。気がついて受け入れられるかどうか。そこが分かれ道ですね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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