第42回「社員化する経営者たち」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第42回「社員化する経営者たち」

安田

外部の講演をする機会って結構多いんですか?

久野

そうですね。呼ばれて行って、いつもみたいな感じで「世の中こんなふうになりますよ」みたいな話をしますね。

安田

たとえばどんな話ですか?

久野

たとえば「働き方改革は中小企業を淘汰する改革です」とか「多くの会社が将来的にはなくなります」とか、そういう話。

安田

まあその通りですもんね。

久野

あと「時間イコール生産性だよ」という話。経営者が儲かる仕事を取って来ないと、働き方改革にならないよって。

安田

反応はどうですか?

久野

「先生の言ってることは分かりますけど、きれいごとです」みたいな(笑)

安田

きれいごと?

久野

「うちの業界のことが全くわかってない」「現場が全く見えてない」って言われます。

安田

そんな感情論で乗り切れると思ってるんですかね?

久野

働き方改革を感情で捉える人は多いんじゃないですかね。「こんなんじゃ日本は駄目になっちゃう」みたいな。

安田

でも、こんなんじゃ日本が駄目になっちゃうから、働き方改革やってるわけですよね。

久野

そうなんですけど。

安田

中小企業をなんとか生き永らえさせようとして、いろんな補助金をばらまいて、どんどん生産性が下がった。というのが現状じゃないですか。

久野

延命したのに生産性上がってない会社がめちゃめちゃ多い。それが現状ですね。

安田

ですよね。「国がなんとかしろ」って言いますけど、今まで散々国に助けられてきたわけじゃないですか。

久野

はい。

安田

で「延命したから生産性が上がらなかった」という結論に国が達したってことですよね。

久野

そうです。「投資先を間違えた」って思ったんじゃないですか。だからbetする場所を変えた。

安田

変えましたよね。明確に。

久野

はい。「ちゃんと生産性アップしそうな会社にしかbetしません」っていうのを明確にしてるんだと思います。

安田

ということは「生産性の高い会社がより発展してく政策」を今後も推し進めていくと。

久野

と思いますね。

安田

そりゃそうですよね。そういう会社が増えれば増えるほど国は潤うわけですもんね。

久野

やっぱ「株式会社日本」という目で見ると、儲かってる部署にいい人材と資金を投入したいと思うんですよ。

安田

そりゃそうですよ、普通に考えたら。なんで、それが分かんないんですかね。自分も同じ立場で経営やってるのに。

久野

なんで分かんないんでしょう(笑)

安田

いざ自分のことになると感情的になるんでしょうか。

久野

部門のリーダーみたいな感じになっちゃうんじゃないですか、社長が。

安田

部門のリーダーだったら「他の部門よりも給料を高くしたい」って思わないもんですかね。

久野

やれるかどうかは別として「給料上げます」って絶対言わなきゃいけないです。今の世の中。

安田

そうですよね。もう業界全体で諦めちゃってる人とかいますけど。

久野

大体出てくるのは、業界か地域の話ですね。「この業界は」って話と「この地域では」っていう話。

安田

「この地域はみんな貧乏でもしょうがない」とか「この業界は社員の給料低くていいんだ」って社長が思ってるってことですか。

久野

はい。でも多分、儲かってる業界とか地域なんてないんですよ。

安田

そりゃそうですよ。儲かってる人は努力してるんです。

久野

同じ業界の中に儲かってる会社と儲かってない会社があるだけ。一般的に儲かってない業界でも儲かってる経営者って必ずいますから。

安田

いますよね。どんな地域でも生産性の高い会社ってありますし。

久野

儲かってない人が「人のせい、国のせい」にしてるだけ。

安田

そういう経営者さんって、自分も収入少なくていいと思ってるんですかね。

久野

いや、思ってはいないと思います。

安田

自分と社員は別ってことですかね。「社員には払えないけど俺は社長だから」みたいな。

久野

でも実際はそんなに取れないと思いますよ。社長も。

安田

じゃあ自分もひっくるめて、もう爪に火を灯しながら「月給20万でみんな我慢します」って感じなんですか。

久野

実はそういうところが一番たちが悪いんですよ。

安田

「俺も我慢してんだ」って?

久野

はい。「だから社員も我慢しろ」っていうのが一番良くない。そういう会社はもう見切られちゃいますから。

安田

社員は我慢する必要ないですからね。転職すればいいだけ。

久野

なかなか厳しい時代ですよね。社長だけ給料が高い会社っていうのも無理ですし。

安田

もう無理ですよね。社長だからっていうのは。

久野

「うちは社長が搾取してる」って感じちゃうんですよ。

安田

「給料が安いのに社長がベントレー乗ってる」って理由で辞めた人がいました。

久野

これから成立するのは 「社長も稼いで社員も稼ぐ」というモデルだけです。

安田

社長が安くて社員だけ高いっていうケースは見たことないですもんね。

久野

それはさすがに社長がやる気でないですよ(笑)

安田

ってことは「社長も高く、社員も高く」しかないと。まあそうなればみんなハッピーなわけですからね。

久野

つまりそれが生産性の高い状態なんですよ。

安田

なおかつ「休みを増やす」ことも入れなきゃいけないですよね。

久野

そうですね。

安田

でも実際に稼いでる人って、単位時間当たりの生産性がものすごく高いですよね。

久野

時間はみんな限られてますから。そうならざるを得ないんですよ。

安田

ですよね。社長は「今の倍の給料払っても利益が出る」というビジネスモデルを考えないと。

久野

「考えなきゃ」とは思ってるんじゃないですかね。

安田

その割には「国が悪い」だの「環境が悪い」だの文句ばかり言ってますけど。

久野

現実は厳しいですからね。どうしても目を背けてしまうんじゃないですか。

安田

見えてないわけじゃなく見ないようにしてる?

久野

そうだと思います。社長も人間なのでやっぱしんどいですよ。

安田

実感こもってますね(笑)

久野

私も経営者ですから。立場は同じなんです(笑)

安田

もし社員に「一生懸命働いてるのに給料が上がらない」「どうやったら上がるんですか?」って聞かれたら、「もっと自分で努力しろ」って思いせんか。

久野

思います。

安田

それと同じだと思うんですけど。

久野

まあ同じですよね。社員が「会社が悪い」って言ってるのと。

安田

でしょ。国が悪いとか、景気が悪いとか。同じ人が言ってるとは思えない。

久野

「お前らがもっと稼いだら、もっと上げてやるよ」って平気で言いますもんね。

安田

そうですよ。国が会社に対して言ってることも全く同じ。

久野

はい。肝に命じておきます(笑)


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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