第47回「年金は誰のため」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第47回「年金は誰のため」

安田

稼いでいる高齢者は年金が減るっていう話。

久野

はい。これまでも制度はありましたけど。

安田

そうなんですか?

久野

はい。これまでは収入の上限が47万円だったんです。

安田

47万円以上月収がある人は年金が減額されてたと。

久野

はい。その基準が今回51万円に上がるという話ですね。

安田

そもそも、なぜ引き上げるという話になったんですか?

久野

年金カットになるんだったら「47万円以上は働かない」って、高齢者の労働意欲をそぐことになるから。

安田

だから引き上げようと。もっと働いてもらうために。

久野

建前上はそうですね。

安田

じゃあ本音は選挙対策でしょうか?

久野

はい。高齢者の票は大きいですから。

安田

ネット世論は大反対でしたね。

久野

若い人には今でも高齢者を優遇しすぎに見えるので。

安田

そうみたいです。「払ったものを増やせとは言わないけど、払った分ぐらいは戻してくれ」って。なんでマイナスになるの?って。

久野

自分で貯金してるほうがいいじゃんみたいな。

安田

まさにそんな感じです。51万どころか47万でも払いすぎだって。年寄りはそんなに金いらないだろうって。

久野

ちょっと分かりづらいんですけど。在職老齢年金って、年金と今の給与と賞与の平均額を合わせて、47万円を超えると減額が始まってくんです。

安田

年金と収入を合わせて47万なんですか?

久野

そうです。合わせて47万円。

安田

なるほど。じゃあ47万の月給があるわけじゃないと。

久野

そうです。年収360万円なら1カ月30万で、年金を10万もらってたら40万だから減額はされない。

安田

合計だったらあっという間に超えてしまいそうですけど。

久野

でもそれって65歳以降の話じゃないですか。65歳以降で47万円を超えてくる人って、まぁまぁな年収だと思うんですよ。

安田

確かにそうですね。時給仕事してる人のイメージじゃないです。

久野

65歳超えると大手でもめちゃくちゃ給与下げられますから。たぶん役員クラスしか対象にならないです。

安田

あとは自営でやってる人とか。

久野

そうですね。中小でいうと役員か社長。だからすごい大騒ぎになってるんですけど、そんなに対象者がいない気がします。

安田

じゃあ47万円が51万円になっても、あまり結果は変わりませんか?

久野

そう思います。だって4万円の差でしょ?稼いでる人ってもうそれを振り切ってるので。

安田

じゃあ何のために4万円上げるんですか?

久野

もともとこれって廃止する予定だったんですよ。

安田

え?減額自体を廃止するってことですか?

久野

はい。でも廃止したら「金持ちのお金をさらに増やす」って話になるじゃないですか。

安田

年収2000万でも年金もらえるってことですもんね。

久野

だから4万円という、すごく中途半端なところに落としたんだと思います。

安田

4万円増やしても対象者があまり増えないから?

久野

はい。

安田

なぜ廃止にならなかったんですか?お年寄りは喜びそうですけど。

久野

若い人から、ものすごい批判を浴びまして。

安田

そりゃあそうですよね。

久野

ふざけるなって話になって。

安田

それで廃止するのをやめたと。

久野

やめたんですけど、その代わりに4万円アップしたと。

安田

選挙対策で?

久野

はい。お年寄りに「頑張れば年金も、お給料ももらえますよ」「4万円引き上げましたよ」って言えるので。

安田

ということは、若者の反発が強いので廃止にはできないけど、お年寄りの票を得るために4万円だけアップしたと。

久野

そうです。ただ私の個人な意見としては、やっぱり若い人にお金残してあげるのが大事だと思います。

安田

じゃあもっと上限を引き下げるべきだと?

久野

はい。現役世代ぐらいお金もらってるんだったら、年金は一切払う必要ないと私は思います。

安田

じゃあ久野さんが決めるとしたら上限はいくらにしますか?

久野

35万円。

安田

年金合わせて35万ですか?

久野

いえ、35万円以上給料もらってたら年金払わないみたいな。

安田

年金って大体いくらぐらいなんですか?

久野

年収400万円で35年間ぐらい働きますと、年間147万円ぐらいですね。

安田

じゃあ月10万ちょっと。

久野

そうですね。12万円ぐらい。

安田

月12万円だとしたら35万と合わせて47万じゃないですか。じゃあ前ぐらいの基準がちょうどよかったってことですか?

久野

そうですね。

安田

35万以下だったらさすがに払ってやれよと。

久野

正直、国の予算を考えたらそれもしんどいですけど。

安田

でも自分で払ったお金ですから。

久野

全部が積立という訳じゃないので。

安田

みんな積立だと思ってますよ。

久野

年金ってかなり複雑なんですよ。国民年金と厚生年金があるんですけど。

安田

厚生年金は企業が払うやつですね。

久野

企業は厚生年金しか払ってないんですけど、国民年金も納めたことになってるんです。

安田

そうなんですか?

久野

はい。で、65歳を超えると国民年金と厚生年金を両方もらえる。年金が止まるっていうのは厚生年金だけが止まるんです。

安田

なるほど。国民年金は止まらないと。

久野

はい。満額で78万円は止まらない。40年間ちゃんと年金納めてれば全てのお年寄りが5~6万はもらえます。

安田

もうそれ以上はほしがるなと。

久野

それなりの所得がある方は、若者に回してあげようよと。

安田

いや、僕もそう思いますけどね。

久野

若い子がお年寄りを支えてる図を見たことあります?

安田

年寄り3人ぐらいを若者が1人を支えてる図ですよね。

久野

あれを逆にしないといけないです。厚生年金を放棄して、年寄り3人で1人の若い人を支える構図に。

安田

確かに。

久野

それが本当の意味での未来投資ですよ。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから