第55回「お坊さんの知られざる世界」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第55回「お坊さんの知られざる世界」

安田

お坊さんが残業代を請求してくる?それホントですか。

久野

本当です。たとえばお寺で除夜の鐘を叩くじゃないですか。

安田

はい。年越しの。

久野

それの深夜を手当くれとか。

安田

なんと!でも言われてみれば深夜ですよね。

久野

というか深夜にしか叩きませんから。除夜の鐘は。

安田

確かに。でもこういうことがあると今後はどうなるんでしょう。除夜の鐘。

久野

名古屋駅では「今年は除夜の鐘やりません」って貼り紙が出てましたね。

安田

それは労働法の問題で?

久野

周りがうるさいっていうことですけど。たぶん労働法の問題も絡んでると思います。

安田

坊主って基本的にどういう契約なんですか?

久野

オーナーかどうかで変わります。

安田

オーナー坊主と雇われ坊主がいるってことですか。

久野

そうです。たとえば実家がお寺で、修行のために使用人で来てるケースってありますよね。

安田

その場合はどういう契約になるんですか?

久野

労働契約です。

安田

え!修行させてもらってるのに労働契約を結ぶんですか?

久野

はい。普通に給与も貰ってます。

安田

なんと!じゃあ社会保険にも加入してるんですか?

久野

はい。ウチでもやってますよ。お寺の社会保険手続き業務。

安田

え。お坊さんって社会保険に入ってるんですか。失業手当とかも?

久野

もちろん。確定拠出年金を入れたりとか老後の支援もやってます。

安田

老後の金なんて貯めてるんですか。煩悩がありまくり。

久野

非正規雇用のお坊さんもいますよ。

安田

そっちの方が普通っぽいですけど。

久野

正規雇用の坊主ももちろんいますし、非正規雇用の坊主もいます。

安田

正規雇用の坊主と非正規雇用の坊主。ここにも格差が生まれてると。

久野

要はお寺という組織の中の正社員と、業務委託契約みたいな感じでやってる人と。

安田

外注ってことですか?

久野

そうです。「お葬式入ったから行ってくれ」みたいな。

安田

なるほど。つまりフリーの坊主ですね。

久野

でもたまに「これって労働契約じゃないか」って訴えてくるケースもあります。

安田

もうどろどろですね。

久野

どろどろですよ(笑)。「葬式が入ったら強制的に呼ばれてるじゃないか」みたいなトラブル。よくあります。

安田

法的にはどうなんですか。それって労働契約になるんですか?

久野

「何時にここに行け」って指示が出るわけなので。どう見ても労働契約ですね。

安田

なるほど。お寺も大変ですね。ちなみに住み込みの坊主はどうなんですか?

久野

住み込んでる坊主も労働契約の人が多いです。

安田

お寺って、朝6時ぐらいから小坊主が廊下拭いてるイメージなんですけど。それって労働なんですか。

久野

労働でしょうね。

安田

修行じゃないんですか?

久野

自主的に拭きたいと思って拭いてたら修行かもしれません。

安田

そんな人いないでしょ。じゃあ、お経はどうなるんですか?座禅とかも座ってるだけですけど、労働ですか?

久野

労働でしょうね。

安田

なんと!大変な時代になりましたね。

久野

今はそういう認識です。

安田

修行なのに給料を払ってると。

久野

契約形態にもよるんですけど。純粋な修行って現実的には少ないんですよ。

安田

純粋な修行だったらOKなんですか?給料を払わなくても。

久野

本当に修行だったらそうですね。

安田

たとえば私が境目研究家の弟子をとって連れ回したら?

久野

連れ回して色々やらせるでしょうから、実態は完全に労働契約ですね。修行と言ってるだけで。

安田

本人が納得していてもダメ?

久野

本人が訴えなければ大丈夫です。

安田

後から訴えられて「働かされていたぶんを払え」って言われたら?

久野

ほぼ負けますね。

安田

やっぱり弟子はやめておきます。

久野

どちらかが修行じゃないと思った瞬間から、本来の契約形態に引き戻される。

安田

なるほど。だから最近は、除夜の鐘を叩く時間も「残業手当払え」ってことになってるわけですね。

久野

やってる側がそう言ってきますから。

安田

じゃあ払わざるを得ないと。

久野

少なくとも深夜手当は払わないといけないですね。もう議論の余地がないぐらい明確なので。

安田

そりゃあそうですよね。じゃあ早朝手当はどうですか?お寺は朝が早そうですけど。

久野

深夜手当は22時から5時までなので。5時以降であれば早朝手当は不要です。

安田

朝5時を過ぎてたらOKだと。

久野

労働法的には大丈夫です。それで人が来るかどうかは別ですけど。

安田

なるほど。お坊さんの世界も大変ですね。

久野

大変ですよ。今の時代はどこでも大変。

安田

小っちゃいお寺なんかはどうしてるんですか?給料を払う余裕なんてないでしょ。

久野

はい。成り立たないです。だから大きなお寺に修行に行くんです。

安田

え?どういうことですか。

久野

要は自分とこの寺が儲かってないわけですよ。だから修行先で権利を主張して、できるだけたくさんお金をもらう。

安田

つまり雇用坊主のほうがいいってことですか?オーナー坊主より。

久野

雇用坊主になって、副業で自分の寺をちょこっとやる。

安田

そんな人に修行に来られても困りますね。

久野

たぶん安田さんがイメージしてる修行と、現実はかなり違うと思いますよ。

安田

粗食を食べて、座禅組んで、お経唱えて、とかじゃないんですか?

久野

まず坊主は座禅組まないです。それは一休さんの世界。

安田

え!じゃあ何するんですか?

久野

お客が来たら案内して、お布施の説明をしたり、お墓の説明をしたり、生前贈与の説明をしたり。

安田

もはやビジネスじゃないですか!

久野

そうですよ。「おい、客が来たぞ」って感じ。だから残業代も請求されちゃうんです。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから