第66回「雇用の概念が変わる時」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第66回「雇用の概念が変わる時」

安田

コロナで世の中が一変しちゃいましたね。

久野

はい。大変なことになってます。

安田

経営者にとっても、やるべきことはたくさんあると思うんですけど。プロの社労士さんから見た優先順位はどうですか?

久野

余裕のある会社は、とにかく採用したほうがいいと思います。新卒採用とか。

安田

ここで逆張りですか(笑)でも、そうでしょうね。

久野

今、内定の取り消しもすごいですし。説明会自体もどんどんなくなってます。

安田

そうですね。学生さんは大変でしょうね。

久野

学生の意思決定が早くなってます。

安田

それはどうして?

久野

とにかく「早く内定をくれる会社がいい」という感じ。

安田

なるほど。

久野

10社ぐらい回って「ここでいいか」って決めちゃう。

安田

その傾向はコロナの前からあります。超一流企業以外は腰かけになってて、2~3年で辞めるのを前提に就職してる。

久野

今は安定思考がすごく強いんですよ。公務員の応募もすごく増えてるし。

安田

公務員は強いですからね。とくにこういう時には。

久野

まったく給料も減らないし。

安田

で、こういう時こそ逆張りして採用するべきだと。

久野

はい。

安田

けど今回は「今までとは違う」ってみんな言ってますよ。

久野

リーマンの時も言ってました。。

安田

確かに。

久野

やっぱり今しかないと思います。まあ「今が採用のときです」って言ったら、しーんとなりますけど。

安田

そりゃそうでしょう。明日も見えないのに。

久野

やっぱり人間って、みんなが右に行く時に左に行くのは「無理なんだな」って感じます。

安田

「次は絶対逆張りするぞ」って、リーマンの後にみんな言ってましたけど。

久野

言ってましたね。言ってたけど実際にはできない。

安田

採用以外には何かありますか?いま経営者がやるべきこと。

久野

やっぱり労使紛争への対応でしょうね。放っておくと社員が不信感を抱くので。

安田

それは解雇されるとかで?

久野

「うちの会社大丈夫かな?」って思うじゃないですか。

安田

まあ心配ですよね。具体的にはどうすればいいんですか?

久野

従業員に「うちはキャッシュがこれぐらいあるから、絶対に雇用を守る方針だ」ってしっかり伝える。

安田

なるほど。

久野

キャッシュがなくなって事業が立ち行かなくなると、整理解雇の要件にも該当しますし。

安田

やっぱ「解雇されるかも」って考えるんですかね?社員は。

久野

なんとなく「うちもヤバいんじゃないか」ってみんな思ってる。だから従業員にはちゃんと説明しないと。

安田

まあ余裕のある会社は別でしょうけど。

久野

いや、余裕のある会社ほど伝えたほうがいい。安心感がないと人間は真剣に仕事しなくなるので。

安田

確かにそうですね。ちなみに余裕がない会社はどうすればいいんですか?

久野

社員を休ませて雇用調整助成金を申請するしかないです。

安田

支給額の9割が助成されるんですよね?

久野

4月1日から9割になりました。

安田

それでも100%雇用を守るって、なかなか難しいでしょう。

久野

内部留保次第です。

安田

中小企業に内部留保なんてあるんですか?

久野

あると思います。リーマンの時のトラウマが残ってるので。

安田

いざというときのために貯め込んでると。

久野

そうです。

安田

じゃあ今回はその内部留保を使う?

久野

そうせざるを得ないでしょう。

安田

そのための内部留保ですもんね。

久野

だと、思いたいです。

安田

じゃあ経営者としては、まず社員に「うちは雇用守るぞ」ってことを宣言する。少なくとも内部留保があって余裕のある会社は。

久野

言ったほうがいいですね。社員も安心感をもって働けるので。

安田

ですよね。

久野

そういう会社が危機の後に伸びるんです。

安田

でも守ってあげたにも関わらず、そのあと辞めちゃう社員っていますよ。

久野

切り込んできますね(笑)

安田

私も覚えがあるんですよ。阪神大震災のとき。休んでる社員に2カ月間給料を払い続けたんですけど「落ち着いたから辞めます」って言ってきた。

久野

まあ、そういう人もいます(笑)

安田

そういう人が増えてる気がするんですけど。今回は大丈夫でしょうか?

久野

従業員も立ち止まって考えるんじゃないですか。

安田

考えますかね?

久野

お互いに考えると思いますよ。

安田

お互い?

久野

会社は「本当にその社員が必要なのか」って考える。従業員も「本当にこの会社でいいのか」って考える。お互いに頭を冷やすいい機会。

安田

それで「やっぱここはいい会社だ」ってなればいいですけど。

久野

そう思ってもらうためにも、まずは守る姿勢を見せないといけないです。

安田

見せても私はやめられちゃいました。

久野

だいぶ根に持ってますね(笑)

安田

まあでも、ここで守らない姿勢を見せたら、一気に社員が離れていくし。

久野

そうです。とにかく不安にさせたらすぐいなくなっちゃう。

安田

冷静に考えて「やっぱりいらないな」と思う社員はどうするんですか?

久野

このタイミングで切るのはマズイです。

安田

ですよね。

久野

はい。他の社員も見てますから。

安田

じゃあこのタイミングで見極めて、落ち着いてから考えると。

久野

そもそも、そういう社員を雇っちゃいけないんです。通常の時でも。

安田

それは正論ですけど。増えていっちゃうんですよ。

久野

コロナはいい機会だと思います。ここで「いらない」と思う社員は、もう絶対に雇っちゃいけない。

安田

まあそうですよね。

久野

コロナによって中小企業経営者の雇用概念は変わると思います。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

1件のコメントがあります

  1. 優秀な人を雇うより優秀なロボットを買った方がいいような気がします。

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