さよなら採用ビジネス 第18回「なぜ優秀な銀行マンは辞めないのか」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい 第17回「副業と熟年離婚」


安田

大企業の組織は2:6:2から1:0:9になって、最終的には0:0:10になるんじゃないか、という話がありましたよね。

石塚

はい。すでに1:0:9までは来ています。

安田

その1の人材について聞きたいのですが。

石塚

何でしょう?

安田

彼らって「俺、会社の中でも結構できるよね」っていう自覚はありますよね?

石塚

多分あるでしょうね。

安田

そういう人たちって「会社を出た方が稼げる」と既に思っているのか、それとも「俺はここで出世するんだ」と思っているのか、どちらですか?

石塚

業界によりますね。

安田

ほう。

石塚

あくまでも石塚式に大企業を分析すると、まず新卒純血主義にこだわるかどうかで二つに分かれます。

安田

新卒純血主義?

石塚

はい。新卒純血主義の会社って、すごく排他的で中途採用がない。日本を代表する経団連銘柄って、ほとんどそうなんですよ。

安田

途中からの参入者はいない?

石塚

そうです。つまり外敵が襲来しないんですよ。

安田

外敵がいないと、どうなるんですか?

石塚

同期の間引き合戦になります。

安田

なるほど。同期の間引き競争に勝てば、確実に上にいけると。

石塚

そうです。だから純血主義有名大企業のエリートは、酔うと「俺は同期の中で一番早く出世して来た」と言いたがる。

安田

純血主義でない会社は違うと?

石塚

はい。外部からどんどん人が入って来ますし、下手したら社長を外から招聘したりもする。だから、それほど同期に対しての特別意識が強くない。

安田

なるほど。

石塚

それと、もうひとつ。純血主義とは別に、大きな指標があります。

安田

何ですか?

石塚

職種の多さです。

安田

職種の多さ?

石塚

そうです。社内での職種が非常に多いのか、それとも限りなく単一に近いのか。

安田

単一に近い?

石塚

職種が非常に少ない会社の代表例は銀行です。

安田

なるほど。確かに少ないですね。

石塚

この「新卒純血主義」と「職種の多い少ない」で、大企業はマトリクス化する事が出来ます。

安田

マトリクス化すると何かが見えてくると?

石塚

はい。縦軸に「新卒純血度の高低」横軸に「職種の多い少ない」を持って来ます。このマトリクスの中でメガバンクはどこになると思いますか?

安田

純血単一職種ですよね。

石塚

はい。この純血単一職種の会社は、優秀な人が辞める確率が極端に少ないのです。

安田

へぇ~。

石塚

逆に辞めると「おい、安田やめるってよ」と同期300人位みんな集まって来て「何があったんだ」と送別会で大騒ぎになる。

安田

気が触れたのか、と?

石塚

(笑)まあ、正直なところ、そんな感じですね。

安田

中途採用が多い会社は違いますか?

石塚

入ってくる人が多いということは、出て行く人も多いんですよ。

安田

なるほど。職種の多さはどう関係があるんですか?

石塚

職種が多いところ、例えば自動車メーカーなんかは、人の出入りも多いんですよ。

安田

へえー。

石塚

某横浜本社の自動車メーカーは、社長ですら途中で入れて来たわけですから。

安田

確かにそうですね。

石塚

自動車メーカーって、製造、販売、マーケティング、設計、品質保証、などなど職種が物凄くたくさんあるわけですよ。

安田

まあ、そうですね。

石塚

だから、それぞれに秀でたスキルを持った人が必要になって来る。

安田

だから社外から引っ張って来ると。

石塚

引っ張って来やすいし、引っ張って来る必要もある。

安田

中途採用が増えて行く?

石塚

その通り。ところが銀行って、総合職で入ったら仕事はひとつしかない。

安田

確かに。

石塚

そして、その仕事の細かいルールを、全て把握していないといけない。

安田

それって銀行によっても違いますよね?

石塚

そうなんです。だから潰しが利かない。あとはもう、競争に勝ち抜いて本店に行くしかない。

安田

みんなが本店を目指すんですか?

石塚

基本は支店スタートです。まず支店のトップを目指す。その中の一部エリートが本店を目指す。どちらにしてもポストを目指すしかない。

安田

なかなか、しんどいですね。

石塚

しんどいですよ。

安田

そんなにしんどくても、優秀な層の人たちは、やっぱり辞めないものなんですか?

石塚

辞めませんね。

安田

でも銀行入って3年位で辞めちゃう人って、結構いるんじゃないですか?

石塚

もちろんいますよ。

安田

それは同期のトップ組ではないと?

石塚

はい。違います。言わば脱落していった人たちです。

安田

全員ではないでしょう?

石塚

優秀な人が辞めるのは、極めて稀です。自分で起業した人を除けば、僕の知る限り1人だけです。メガバンク出身で、頭取賞までもらったのに、30くらいで辞めた方。その方は今、某成長企業の役員です。

安田

たった、ひとりですか?

石塚

仕事がめちゃくちゃ出来るのに辞めちゃった。そういう数少ない例ですね。

安田

でも、そのくらい優秀なら当然他社でも活躍できますよね?

石塚

それはどうでしょう。

安田

優秀でもその銀行でしか通用しないと?

石塚

実際、30歳ぐらいでメガバンク辞めて、そこそこの会社で役員レベルにまでなった人って、私はその人しか知りません。

安田

30歳くらいなら、まだまだ他社でも通用すると思いますけどね。

石塚

実際に通用するかどうかは分かりません。何しろ優秀な層は辞めないので。

安田

どうしてなんでしょう?銀行は長期的に人を減らしていますよね。

石塚

減らしてますね。

安田

窓口も減ってるし、システム化も進んでいるから、人が要らなくなる。先細り業界じゃないですか。

石塚

はい、ものすごく先細りですね。融資枠の査定なんかは、もうすべてシステムが決めますから。だから資料揃えるのは正直、誰でもいいんですよ。

安田

それが分かっていても、優秀な人は辞めないんですか?

石塚

辞めないですね。

安田

それはどうしてなんですか?

石塚

同調圧力が強いからでしょうね。

安田

辞めるなんて考えられないよ、っていう同調圧力ですか?

石塚

そうですね。辞める人はもっと早い段階でさっさと降ります。

安田

30歳まで持たない?

石塚

入社してすぐに辞めます。そういう人は銀行ではエリートとは呼ばない。

安田

30歳まで社内競争に勝ち続けて来たエリートは、もう辞めない。

石塚

現に辞めないです。

安田

本当に同調圧力だけなんでしょうか?

石塚

と、おしゃいますと?

安田

「ここが素晴らしい」というよりも、「外に出たら通用しない」と薄々感じているからじゃないですか?

石塚

もちろん、そういう人もたくさんいると思いますよ。

安田

ですよね?

石塚

でもトップ層は違うと思います。「通用しない」というよりは「俺はここに居るべき」と思っている感じ。

安田

俺の居場所は絶対に無くならないと?

石塚

はい。そう思っているでしょうね。

安田

なるほど。システムにどんどん置き換えられていっても、本当に優秀なトップの人間は必要であると。そして自分はその優秀な人間であると。

石塚

ふふふ(笑)その通りです。ずっと勝ち続けて来た人たちなので。

安田

でも、もったいないですね。その優秀な人たちもそうですけど、途中で脱落する人たちだって世の中的にはかなり優秀な人材ですよね?

石塚

僕は昔から言ってますけど、銀行業界は優秀な人材を一番粗末に使っている業界なんですよ。

安田

もっと早く会社を出るように、石塚さんが説得したらどうですか?

石塚

いや、無理です。「絶対出た方がいいのに」って思う方でも、まず出ません。

安田

ヘッドハンターとして、銀行員口説くのは難しいですか?

石塚

めちゃくちゃ難しいですね。あんな保守的な人いないです。

次回第19回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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