さよなら採用ビジネス 第21回「デフレがもたらす新世界」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい 第20回「お金の順位は明らかに変化した」


安田

人とお金の関係って、変わりましたよね。

石塚

ここ数年で、明らかに変わりました。

安田

昔はもっと、お金をありがたがってましたよね。「ははーっ」と拝みかねない感じ。

石塚

さすがに拝みはしなかったですけど(笑)。「お金は粗末にしちゃいけない」とか「血と汗の結晶だ」とか教えられて育った世代ではありますね。

安田

お札を曲げずに、方向を揃えて財布に入れておいたら、金持ちになれるとか。

石塚

そんな怪しいビジネス書も、いっぱいありましたね。

安田

それが今は「電子マネー」とかも出てきて、明らかにお金のイメージが変わった、というかお金の洗脳が解けてきたように感じます。

石塚

リアルさがなくなったからじゃないですか。

安田

リアルさですか?

石塚

はい。僕とか安田さんが子供の頃は、現金しかなかったですから。

安田

確かに。お年玉とかも、生々しかったですもんね。自分の部屋に行って、お札数えたりしてましたもん。

石塚

分かります(笑)。クレジットカードなんて考えられなかったでしょ?

安田

クレジットカードどころか、キャッシュカードも高嶺の花でした。

石塚

僕なんて、テレホンカードで興奮したぐらいですよ(笑)

安田

今じゃSuicaでお小遣いもらう子供もいますもんね。やっぱお金に対する感覚も変わりますよね。

石塚

変わると思いますよ、絶対に。お金のリアル感から遠いから「お金稼ぎたい!」という熱量も少ない。

安田

今の若者にとって、お金は「デジタル化された数字」という感覚なんでしょうね。まあお金なんて元々記号みたいなものですけど。

石塚

我々の時代は記号以上の重さというか、生々しさがありましたよ。

安田

今は私も、ほとんど現金使わないんですけど。でもやっぱり旅行いくとなったら、財布の中に現金入ってないと不安ですもん。

石塚

分かります。

安田

妻はまったく平気なんですよ。「なんでそんなに現金持って行くの?」って不思議がられます。

石塚

何かあったらと、考えちゃいますもんね。

安田

でも結局どこに行っても、だいたいカード使えるんで「ほとんど現金使ってないじゃん」ってなるんですよ。

石塚

若い子や女性は順応性が高いですから。現金持たずに普通に暮らしてますよ。

安田

おじさんはダメですね。「日本はセキュリティーが行き届いてるから、現金でも大丈夫なんだ」とか言い張ってますもんね。

石塚

現金信仰というか、それが変わるのが不安なんでしょうね。

安田

前回おっしゃってましたよね。「時給上げてくれなくてもいいです」という若い子がいるって。

石塚

はい。不思議なことにいるんですよ。

安田

職場が楽しいからって話でしたけど、とはいえ我々の感覚からいくと「職場楽しいのと給料は別でしょ」となりますよ。

石塚

我々や上の世代は「楽しい」とか「やりがい」とか、そういうものとは別のところに「お金」があるんですよ。

安田

でも「お金が特別だ」と感じる自分が、嫌でもあります。

石塚

それもわかります。

安田

お金を特別視しすぎると「お金払ってるほうが偉い」ってなるじゃないですか。

石塚

お客様は神様です、みたいな。

安田

でもお客さんだって、タダでお金をくれる訳じゃないですからね。「百円もらう代わりにアンパンを渡す」という等価交換にすぎないわけで。

石塚

「百円もアンパンも職場の楽しさも、同じじゃないか」っていう、まさにそういう感覚が若者にはあるんですよ。

安田

どっちが客だとか、どっちが雇っているとか、そういう感覚がもう古いのかもしれませんね。

石塚

間違いないです。そういう感覚を持っている会社は、すぐに見抜かれて敬遠されてしまいます。

安田

でもそうなって来ると、お金の立場はどうなるのでしょう?

石塚

緩くなって来るでしょうね。何時間とか、時給いくらとか、「いちいち、そんなのキッチリやんなくてもいいじゃんか」みたいな。

安田

緩いですね。でもそこにつけ込んでブラック企業とか出てきませんか?

石塚

彼らの嗅覚はすごいですから。本当に楽しいのか、装ってるだけなのか、そんなのすぐバレちゃいますよ。

安田

なるほど。シェアとかもそうですかね。「必要な人が必要なときに使えばいいじゃん」みたいな。「自分のものとして持っていたい」という熱量が少なくなってる。

石塚

欲望の度合いが低くなったとも言えますよね。

安田

低くなったんですかね。

石塚

低くなったんですよ。たとえるなら「猛烈にお腹空いてる人」と「あんまりお腹空いてない人」。

安田

欲望は、お腹の空き具合に比例すると?

石塚

はい。お金に関しても「あんまりお腹が空いてない」状態。低欲望社会というか。

安田

低燃費社会とも言えますね。

石塚

じつは若者に限らないんですよ。僕の周りの40代のお父さんとか、みんなすごく低燃費で楽しんでますね。

安田

家族で遊ぶときもお金使わずに、結構みんな工夫して遊んでますよね。

石塚

デフレが長く続いたのがボディーブローのように効いて、日本人の考え方、ライフスタイル、欲望の度合いまでも、かなり変えてしまいましたね。

安田

でも「お金なくても、そこそこ楽しく生きていける」ということがある一方で、みんな「不安だ」って言うじゃないですか。

石塚

言いますね。

安田

政府がこれだけ頑張っても、物価上がらないわけじゃないですか。たぶん、もう劇的に物価が上がるなんてことは、あり得ないと思うんですよ。

石塚

「物価が上がる」という不安では、ないんでしょうね。

安田

では何ですか?

石塚

世の中がもうずっと右肩下がりなんで「どこかで破綻するんじゃないか」という不安と「あんまり期待するのはやめよう」っていう諦めみたいなものかもしれません。

安田

でも、一方でそんなに悲観的じゃないですよね。結構楽しそうに生きてますよね。

石塚

だから、そこは「満足するラインを下げちゃった」ということでしょう。

安田

目指すものが高くないから、逆に悲観的にならないってことですか?

石塚

満足ラインが下がっていって「そこそこ楽しいじゃん」みたいなところに、最終的には落ち着く気がしますね。

安田

ということは「みんなでガンガン稼ぐぞ!」みたいには、もうなりませんか?

石塚

ならないと思います。

安田

たとえば中国の人とか見てると、まだまだそういう人多いじゃないですか。「稼ぐぞ!使うぞ!」みたいな。

石塚

でも中国だって、30年後はわかりませんよ。次の超高齢化社会は中国なんで。

安田

すでに成熟し始めてるって、言われてますもんね。

石塚

そうです。

安田

ブランド物とかも、売れなくなって来てると思うんですけど。

石塚

僕らの頃とは、様変わりしましたよ。

安田

無理して、背伸びして、買ってましたもんね。

石塚

アルマーニのスーツなんて、今の若い子は興味ないんじゃないですか。

安田

それって、どうしてだと思います?

石塚

所有欲が低くなったのと、あとは、見栄を張らなくなったんじゃないですか。

安田

見栄を張る必要が、なくなった気もします。

石塚

どういう意味ですか?

安田

だって僕らの若い頃は、無理して買ったブランド物でも「すごい!」とか言われたじゃないですか。

石塚

言われましたね。だから見栄の張り合いになっていく。

安田

はい。でも今は、無理してアルマーニとか着てても「ふ〜ん」って感じじゃないですか。いやむしろカッコ悪く見えてしまう。

石塚

確かに、そんな感じですね。ワークマンとかで十分盛り上がりますし。

安田

ブランド物を欲しがらなくなったのと、お金を欲しがらなくなったのと、構造は同じじゃないですかね?

石塚

「俺は金持ってるぞ!」という見栄を張らなくなったと。

安田

いかにも金もってそうなのが、逆にかっこ悪く見えちゃうとか。

石塚

そうかもしれません。

安田

昔は無理して高級腕時計買って、高収入を見える化してたじゃないですか。

石塚

ロレックスとベンツを合わせて「ロレベン」なんて言葉もありましたね。

安田

実際にそれでモテたりしましたもんね、昔は。お金の効果がわかりやすかったです。

石塚

高収入、高学歴、高身長の3高がモテた時代でしたからね。

安田

今だったら、借金して高級車買ったりしたら、逆にフラれたりしそうですね。

石塚

今は4低がモテるそうです。低姿勢、低依存、低リスク、低燃費。

安田

変わりすぎですよね。

石塚

僕はやっぱり、いちばん影響してるのはデフレだと思います。低コストで暮らしてみると「意外に悪くないよね」っていうことを、日本人全体が学習しちゃった。

安田

確かに。私も今、低燃費で暮らしてますけど、結構これが快適なんですよね。

石塚

そうなんですよね(笑)

安田

もしかしたら、この暮らしって世界の最先端かもしれませんね。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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