さよなら採用ビジネス 第27回「野球とベースボールの違い」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第26回「役職定年と大企業の苦悩」

 第27回 「野球とベースボールの違い」 


安田

いずれ「解雇規制」も緩和されるんじゃないかと、言われてますよね。

石塚

僕はそのほうがいいと思います。

安田

簡単に解雇できるようになったら、企業は「退職金」を払わなくなるんですかね?

石塚

いや、むしろ「お金を積んでお引き取りねがいます」ってなるでしょうね。

安田

そうですか?

石塚

お金で解決する方が、楽じゃないですか。

安田

変に揉めるより?

石塚

そう。「悪りぃ。お金払うから」みたいな感じで。

安田

なるほど。

石塚

「要件満たせば企業側から雇用契約を終了できる」という法令は、時間の問題で出来ますよ。

安田

その金額は、どのぐらいになると思います

石塚

うーん、どうでしょうね。算定したことはないんですけど大企業なら3,000万前後じゃないですか。業種にもよりますけど。

安田

結構払うんですね。

石塚

それくらい払えば揉めないでしょ。住宅ローンの残金払えて、老後資金で1,000万残るくらい。

安田

もし、そういう法改正が通ったら、40歳あたりが解雇のメドになるんでしょうか?

石塚

そのくらいでしょうね。

安田

会社から「君は残ってくれ」と言われるのは、何割ぐらいですかね。

石塚

1割いないぐらいじゃないですか。

安田

1割いない?

石塚

はい。

安田

じゃあ、40〜50代の会社員が、大量に社会に出てくる。その人たちは、どうなっていくんでしょう?

石塚

そのままだったら、溺死しますね。

安田

溺死する?

石塚

まず大企業を辞めた人が、また大企業に行ける可能性は、ものすごく低いですよね。

安田

それは低そうですね。

石塚

おそらく国は、そういう優秀な人を、まあ、何が優秀かって定義は置いといて……

安田

いい大学を出てる人たちですね(笑)

石塚

そうです。いい大学を出て、有名企業に入った人たち。それが霞が関の定義する優秀な人材。

安田

国は「そういう人たち」を、どうするんですか?

石塚

そういう優秀な人材を「中小企業にマッチさせよう」と考えてるわけですよ。

安田

やっぱりそうですよね。

石塚

はい。僕も何回か中小企業庁に呼ばれて、散々ヒアリングされました。

安田

どうでした?霞が関の人たちは?

石塚

一言でいうと、実態が全くわかってない。

安田

どういう部分が、分かっていないんですか?

石塚

まず「中小企業」と「大企業から出た人材」は、基本的にほとんどマッチしません。

安田

しませんか?

石塚

しませんね。

安田

どうしてなんですか?

石塚

仕事の質の違いに驚いて、ついてけないんですよ。基礎的なレベルが違いすぎるので。

安田

基礎的なレベル?

石塚

たとえば仕組み化もしてないし、マニュアル化も出来てないし、IT化も進んでない。仕事が属人的になっていて、何がどうなのかよくわからない。

安田

じゃあ「大企業での仕事」と「中小企業での仕事」は、まったく違うものだと思ったほうがいいですか?

石塚

まったく違います。中小企業でいちばん求められるのは、総合力と人間力ですから。

安田

それって、大企業でも必要なスキルじゃないんですか?

石塚

大企業は細分化されているので、求められるのはその分野の専門性。

安田

そうなんですか?

石塚

たとえば銀行出身の方って、なぜか全員「オレは経理ができる」って言うんですけど、はっきり言って出来ません。

安田

できませんか(笑)

石塚

出来上がった決算書をもとに分析することはできます。しかし、伝票起票から仕訳して、月次や四半期、半期、年次の決算を締めて税金を払う業務は、やったことがない。

安田

やったことないと、出来ないもんなんですか?

石塚

実務の経験がないと、まずついていけない。大企業出身者はすぐに「自分の下に1人つけて欲しい」と実務やる人を置きたがる。

安田

なるほど。自分では出来ないと。

石塚

大企業の40〜50代って、もう自分で実務やらなくなって久しいので。実務やってたのはせいぜい30代まで。

安田

実務ができなくなっちゃってる?

石塚

できなくなってますね。中小企業に行くとまったく逆で、1人で何でもやんなきゃいけない。

安田

人がいませんもんね。

石塚

普通の中小企業の経理責任者は、経理・財務・総務・人事・労務、このへんは兼務ですね。で、当然、主計業務から銀行折衝までやります。判断は経営者がやりますけど。

安田

逆はどうなんですか?中小企業で優秀な人は、大手に行っても通用するんですか?

石塚

まず採用されませんね。

安田

どうしてですか?

石塚

そもそもバカにしてますから、大企業は。

安田

どういう部分を、バカにしてるんですか?

石塚

「格が違う」って思ってるんですよ。

安田

格?

石塚

「下町ロケット」ご覧になりました?

安田

見ました!

石塚

まさに「帝国重工と佃製作所」みたいな関係なんですよ。

安田

見下してる?

石塚

今の20代はどうかわかりませんけど、少なくとも40代以上は「中小企業なんてオレが行ったらすぐできる」って全員思ってますよ。

安田

思ってますかね?

石塚

ぼくらの古巣のリクルートだって「中小企業の人事総務なんてすぐ責任者務まる」ってみんな思ってますけど、言っときますけど務まりませんよ。

安田

たしかに。採用責任者として引っ張られて「結果、何も出来なかった」という人、結構聞きますよね。

石塚

はい。実名こそ挙げませんけど、たくさん知ってます。

安田

どうしてなんでしょうね?ずっと採用に携わってんのに。

石塚

大企業と中小企業って、野球とベースボールぐらい違うんですよ。

安田

野球とベースボールって、同じじゃないんですか?

石塚

別のスポーツですね。だからメジャー流でやろうとすると、日本では通用しない。

安田

たまに通用する人いるじゃないですか。メジャーで通用しなかった人が日本に来て活躍したり。それは元々適性があったってことですか?

石塚

適応したってことだと思います。

安田

日本からメジャーに行って活躍する人も、そうなんですか?

石塚

あのイチローでさえ、最初からフォーム変えたじゃないですか。

安田

確かにそうですね。

石塚

でも、それができるのがすごいですよ。普通はあれだけ日本で結果出したら、フォームなんて変えられないです。

安田

なるほど。だから「通用する人としない人」がいるわけですね。

石塚

マー君もそう、大谷翔平もそう。通用する人って、みんな適応してるじゃないですか。

安田

ということは、適応力があれば「大企業出身者も中小企業で活躍できる」ってことですよね?

石塚

理論上は。

安田

現実的には無理だと?

石塚

今までのことを綺麗さっぱり忘れて「ゼロから中小企業でやり直します」なんて人、まずいませんよ。

安田

プライドの問題ですか?

石塚

それもありますし、みんな自分の専門性が通じると思ってますから。

安田

中小では通じない?

石塚

専門性で総合力をカバーできるほど、甘いもんじゃないんで。

安田

でもカバーできると思ってる?

石塚

リクルート出身者も、採用の専門性で「中小企業の人事総務」を補完できると思って行くから、みんな失敗するわけですよ。

安田

なるほど。

石塚

ただ、大企業出身の方でも、適応して成功される方が稀にいます。

安田

どんな人ですか?

石塚

そういう方に共通するのは、30代とか早い段階で「傍流とか子会社」に行かされて、修羅場経験を踏んでる人。

安田

子会社行く人って、主流から外れてるイメージがあるんですけど。

石塚

その通り。外れてます。

安田

それは能力の問題ではないと?

石塚

大企業って、べつに「能力があるから出世する」とは限らないんですよ。左遷もまた然り。

安田

どういうことですか?

石塚

たぶんに政治的なもの。「オレは役員の安田さんの虎の尾を踏んでしまった」とか。

安田

本当に、そんな「下町ロケット」みたいなの、あるんですか?

石塚

めちゃくちゃありますよ。だって、好き嫌いじゃないですか。基本的に大手の人事なんて。

安田

なんと!そりゃ業績おかしくもなりますね。

石塚

なるべくして、なってるんですよ。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから