さよなら採用ビジネス 第29回「抜けられないソサエティー」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第28回「人材は資産から負債に変わる」

 第29回 「抜けられないソサエティー」 


安田

大企業の40〜50代の平均年収は、1,500万円くらいってことでしたよね?

石塚

そんなもんですね。

安田

でも、ネットとかで発表されてる平均給与を見ると、そんなに高くないです。

石塚

若手が入ってますから、当然ですね。

安田

でも1,500万円より、かなり低いですよ。若手であんなに抑えてるってことですか?

石塚

はい、そのとおりです。

安田

じゃあ40代後半は、もうみんな1,000万超えてますか?

石塚

上場企業だったら超えてますね。

安田

でも、それだけ取ってれば、結構貯蓄もあって、いざリストラされても意外と余裕ってことはないんですか?

石塚

そういう暮らし方してる人は、実感として100人中1人か2人でしょうね。

安田

みんな「それなりの生活レベルになっちゃってる」ってことですか?

石塚

昔、人材紹介を長くやってたので、副産物として色々分かることがあるんですよ。

安田

分かること?

石塚

年収いくらで、だいたいどのエリアに住んでいるか、生活レベルは、と企業名と年齢を言われれば、だいたい分かります。

安田

それは凄い!

石塚

で、すごく不思議な話なんですけど、1,200万超えると2,000万までぜんぜん貯蓄の金額が変わらないんですよ。

安田

「生活レベルが上がるだけ」ってことですか?

石塚

むしろコストがかかるんですよ。お金なんて残んないです。

安田

どうしてですか?

石塚

使うからでしょうね。

安田

単純に外食が多くなったりとか、そういうのですか?

石塚

まず、いいとこに住むじゃないですか。都心の近くに住みますよね。その辺りって生活コストが高いじゃないですか。

安田

たしかに。

石塚

で、次に教育費かけますよね。だから、住宅コストと、それにまつわる生活コストと、教育コスト。この3つのコストが押し上げる。

安田

3つのコスト高で貯蓄が増えないと。

石塚

年収の余剰分は貯蓄に回らず、ぜんぶ費消されてますね。

安田

何と。

石塚

黙っててもお金が貯まり始めるのって、3,000万超えないと無理ですね。だから月250万以上もらわないと。

安田

たしかにそうですね。年収1500万円くらいのころは、私もぜんぜん貯金がありませんでした。

石塚

大手の会社員さんも、大半はそういう状態なんですよ。

安田

僕らが就職活動した時って、大手の生涯賃金は3億5,000万とか、多いところだったら4億って言われてましたよね?

石塚

そう。そのとおりです。

安田

今はリストラや早期退職もあるし、役職定年もあるしで、下がってきてるんですか?

石塚

間違いなく下がってますね。

安田

どのぐらいなんですか?

石塚

ざっと半分くらいじゃないですか。

安田

半分ですか!でも大手に就職したい若者って、まだまだ多いですよね?

石塚

今の20代って、定年まで居ようなんて、ぜんぜん思ってないんですよ。

安田

でも大手に入る価値はあると?

石塚

新卒スタート時の給料も悪くないし、大企業だから出来る仕事ってあるじゃないですか。

安田

たとえば?

石塚

レバレッジをかける仕事は大企業でしかできませんよね。100億とは言わないけど、10億20億レベルだったら20代で経験出来ちゃうじゃないですか。

安田

なるほど。

石塚

仕事のダイナミズムや短期間で仕事の基礎を学ぶという点で、まだまだ大企業に就職するメリットはあります。

安田

入るメリットはあるけど、ずっといるメリットはないと?

石塚

優秀な人は、メリットを取った時点で辞めていきますね。自分でどんどん始めちゃう。

安田

それは何歳くらいの話ですか?

石塚

早いと20代で出ますよ。

安田

出世街道に乗ってるような、ど真ん中の主流人材でも、辞めちゃう人いるんですか?

石塚

大企業って主任・係長クラスまでは実力でいきますよね。

安田

そこから先は実力じゃないってことですか?

石塚

政治ですね。

安田

主任・係長までは実力で、その先は政治力?

石塚

はい。だから係長までは仕事やってても、めちゃくちゃ楽しい。実際に何百人と会いましたけど、彼らは仕事のモチベーション半端ないですもん。

安田

そうなんですか?

石塚

だって、そうじゃないですか。厳しいけどやった分きちっと評価されるし、給料もいいし。

安田

大手の20代の給料って、どのくらいなんですか?

石塚

30手前で800から900万。高いと1,000万もらってます。それは大企業ならでは、じゃないですか。

安田

中小でその金額は難しいですよね。

石塚

リクルートも給料高かったじゃないですか。やっぱりそのモチベーションってありましたよ。

安田

じゃあ、たとえば10年ぐらいで出ちゃう人って、ちゃんと貯めてたりするんですか?お金。

石塚

意外にしっかりしてます。今、車なんか買わないですよ。

安田

じゃあ、危ないのは上のほうの人ってことですか?

石塚

少なくとも40代後半以上はダメですよ。

安田

若い子に影響受けないんですかね?

石塚

会話が噛み合わないです。

安田

価値観が違いすぎるからですか?

石塚

この間も40代50代のおじさんと、30代前半の人とでメシ食ったんですけど。

安田

はい。

石塚

車の話になって、おじさんは車好きだから、車種のアルファベットと数字の記号でめちゃくちゃ盛り上がるじゃないですか(笑)

安田

はいはい。分かります。

石塚

若者はそれ聞いてポカーンですよ。「話わかる?」って聞いたら「ゴメンなさい石塚さん、もう何言ってるかさっぱりわかりません」って(笑)。

安田

車に興味がないんですか?

石塚

ないですね。実際、30代前半の出席者で車持ってる人は、誰もいませんでした。

安田

1人もですか?

石塚

はい。「車欲しい?」って言ったら「いりません」ってみんな即答。

安田

じゃあ、おじさんたちだけが、昔のままの感覚だと。

石塚

そのとおりです。安田さんは、社長じゃなくなった時、すぐに切り替えられました?

安田

いや、無理でしたね。会社が潰れてから金銭感覚が戻るまで、3年かかりました。

石塚

そうでしょう。

安田

でも、言ったら失礼かもしれませんけど、私の場合は経営者でしたから。会社員でもそこまで金銭感覚って狂うもんですか?

石塚

教育格差論ってテーマで話すときに「年収1,000万が損益分岐点だ」ってよく言うんですよ。

安田

教育格差論?

石塚

はい。結論から言うと、実感値・体感値として格差を味わえるんですよ、その年収で。

安田

なるほど。格差を実感して、それに溺れて行ってしまうと。

石塚

年収1,000万以上あると「住宅ローン」と「子どもを私立中学に行かせること」が両立できるんですよ。

安田

じゃあ、それ以下の人たちは、どちらかを選ばないといけない。

石塚

そう。だから優越感があるんですよ。

安田

だけど住宅ローンを払って、子どもを有名私立とかに行かせると、お金が残らないと。

石塚

結構苦しいと思います。旅行にいったりもするし、子どもは金のかかるスポーツをやるし。

安田

なんで、そんなに無理する必要があるんですか?

石塚

住む場所と子供の学校で、ソサエティが出来ちゃってるから。

安田

なるほど。一度入ってしまったら、そこから抜け出せないと。

石塚

そう、降りれない。「嫁ブロック」なんて言葉が最近出てますけど「今さら?」って思います。

安田

嫁ブロック?

石塚

転職の仕事してたら、配偶者のブロックって凄いんですよ。もう岩盤のように硬い。

安田

そんなに?

石塚

「夫がどこどこに勤めてる」というプライドと、「このソサエティを出るのは絶対に嫌だ」っていう反発。

安田

でも、そんなこと言ってられないでしょ?

石塚

たぶん、タイタニックと一緒で「氷山に激突するまで」は宴が続くんじゃないでしょうか。

安田

本当は、みんな切羽詰まってるんですか?

石塚

状況はそうなんですけど、本人たちはどこか他人事ですね。「ウチは大丈夫」「ウチに限って」みたいな。

安田

恐ろしい。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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