さよなら採用ビジネス 第30回「ベアからベーシックインカムへ」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第29回「抜けられないソサエティー」

 第30回「ベアからベーシックインカムへ」 


安田

ベースアップ(ベア)の時期になりましたね。

石塚

はい。もう時代に合ってない感じですけど。

安田

会社側は「定期的なベースアップをやめて、働き方改革を進めよう」みたいなことを言ってます。

石塚

まあ、会社側はそう言うでしょうね。

安田

一方、労働者の側は「働き方改革とベースアップは別だ。給料はちゃんと上げろ」って言ってます。

石塚

まあ、労働側はそう主張するでしょうね。

安田

実際どうなんですか?会社側はもう、ベースアップなんてしたくないんですか?

石塚

「ぜったいなくしたい」と思ってますよ。

安田

そこそこの大企業でも?

石塚

全社思ってます。

安田

それはいつ頃からですか?

石塚

ベースアップっていう神話が、崩れた瞬間があるんですよ。

安田

神話が崩れた?

石塚

はい。経済が右肩上がりだった80年代は、みんな信じてました。

安田

「間違いなく給料は上がっていくものだ」と。

石塚

日経平均だって、ずっと上がり続けてましたから。「ベースアップが続いて懐具合もどんどん良くなっていくだろう」っていう。

安田

そういう発想っていつ頃始まったんですか?

石塚

おそらく戦後の池田内閣からですね。

安田

所得倍増計画ってやつですか。

石塚

そのとおりです。池田勇人さんの所得倍増計画。

安田

じゃあ、その政策に乗って、給料は上がり続けて来たわけですね。

石塚

神話が崩れるまでは。

安田

バブル崩壊までってことですよね。

石塚

そうです。

安田

実際、1980年前後と比べると、初任給は2倍ぐらいになってますよね。

石塚

はい。他の先進国はもっと上がってますけど。

安田

国内を見ても、たとえば同時期のプロ野球選手の平均年俸は、10倍ぐらいになってるそうです。

石塚

プロ野球は実力主義ですからね。

安田

実力主義ではなく、定期昇給で全員を上げて来たから、この程度しか上がらなかったってことですか?

石塚

それは、そのとおりだと思いますよ。

安田

なぜ実力主義にしなかったんでしょうね?

石塚

突出した個性とか能力を評価して、そこに賃金を連動させるって発想は、一部の職種を除いて日本にはなかったからです。

安田

でも、欧米企業を見習って「やっぱり実力主義だ」みたいなのって、一時期はやりませんでしたっけ?

石塚

それは2000年以降ですね。

安田

バブル崩壊後ってことですか?

石塚

バブルの崩壊からリストラになり、大企業が中心となって成果主義を導入した。ただし、かなり中途半端だった。

安田

中途半端?

石塚

本当はそこで、ベースアップを止めりゃよかったんですよ。

安田

なぜ止めなかったんですか?成果主義と矛盾しないんですか?

石塚

矛盾してますよ。だって、ベースは上がり続けるわけだから。

安田

ですよね。じゃあ、なぜ?

石塚

当然、労働組合の存在があるからですよ。「ベースアップを勝ち取る」ってのが労働組合の存在意義なので。

安田

でも最近は組合も変わって来てますよね。本気でベースアップを勝ち取ろうとしているようには見えない。

石塚

もう無理だって分かってるからですよ。でも高い組合費を払わせているので「もういいです」とは言えない。

安田

複雑な立場ですね。

石塚

だから、どんどん弱体化してるんですよ。むしろ今、政治からの圧力の方が強いです。
「利益が上がったら、もっと所得や設備投資に再投資しろ」って。

安田

でも企業は使わない?

石塚

使いませんね。驚くほど貯め込んでます。

安田

ですよね。先行きが見えないし、リストラするにもお金がかかるし

石塚

はい。何度も言ってますけど、人件費の高い従業員を抱えたままでは、もう無理なんですよ。

安田

じゃあ解雇規制が緩和されて、終身雇用がなくなったら、初任給はもっと上がりますか?

石塚

上がるでしょうね。今の収益からしたら。

安田

収益だけで考えるなら、初任給30万円でも不思議じゃない?

石塚

まあ業種にもよりますけど、不思議じゃないですね。

安田

中高年の人件費って、そんなに重いんですか?

石塚

めちゃくちゃ重いですよ。それこそベースアップで積み上がって来てますので。

安田

考えてみたら、全員の基本給が上がり続けるって、無理がありますよね。

石塚

評価とか、賞与とかで上がるぶんには、まだいいんですよ。

安田

できる人もできない人も、全員一律ですもんね。

石塚

そこに例外はないわけですよ。正社員であれば。

安田

今の社会には合っていないと。

石塚

「物価は下がってるのに、なんで賃金だけ上げなきゃいけないんだ」って話ですよ。

安田

どうなっていくんでしょう?これから。

石塚

結論は見えていて、行き着く先は結局ベーシックインカムしかないと思います。

安田

ベーシックインカムですか?

石塚

もう物価連動とかじゃなく「日本国民全員に一律300万配りましょう」っていう。

安田

そんな風になりますかね?

石塚

僕は、なると思います。

安田

300万円っていうのは石塚さんの試算ですか?

石塚

いえ、一人で食べてくだけだったら月20万でも可能でしょうね。

安田

家族がいたらどうですか?

石塚

夫婦で500万もありゃ十分じゃないですか。

安田

500万も配って、国は崩壊しませんか?

石塚

もちろん全部じゃないです。ベーシックインカムなので、おそらく25万×12じゃないですかね。

安田

じゃあ年間300万ぐらい?それを国が払う?

石塚

たぶん企業と国とで折半するんじゃないですかね。

安田

企業はそんなお金払いますか?

石塚

今だって払ってるじゃないですか。

安田

なるほど。給料の一部をベーシックインカムとして、固定するということですね?

石塚

そうです。その代わりに「ベースアップはもう終了ですよ」って。

安田

会社側もその方が負担は減ると?

石塚

それで手を打てるんだったら、喜んで払うでしょ。

安田

「月25万、年間300万を全社員に保証する。その代わりベースアップはゼロです」って感じですか?

石塚

大企業だったら、今よりかなり負担が減りますね。

安田

まあ、大企業だったらそうでしょうね。

石塚

大手の45歳以上の賃金負担って、ものすごいんですよ。人数もいるし。

安田

そのへんも全員300万で済みますもんね。

石塚

はい。あとは個別評価とか賞与とかで、できる人にはたくさん払えばいい。

安田

じゃあ、中小企業はどうなるんですか?

石塚

中小企業には、そもそもベースアップなんてないですから。

安田

え!そうなんですか?

 


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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