さよなら採用ビジネス 第31回「組合が雇用をなくす?」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第30回「ベアからベーシックインカムへ」

 第31回「組合が雇用をなくす?」 


安田

中小企業には、ベースアップがないって話でしたけど。

石塚

はい、そうです。ありません。

安田

でも、定期昇給はあるじゃないですか?

石塚

定期昇給はありますね。

安田

素人すぎて、すみません。定期昇給とベースアップの違いを、教えてもらってもいいですか?

石塚

定期昇給は要するに賃金制度。「何歳がいくら」とか「昇格するといくら」とかって決まってるわけです。

安田

じゃあ、ベースアップは?

石塚

まず、ベースアップっていうのは、労働組合が存在する会社に限られるわけです。

安田

え!そうなんですか?

石塚

もちろん。世の中全員ベースなんかアップしませんよ。

安田

なんと!知りませんでした。

石塚

定期昇給っていうのは、各会社ごとに決めた賃金制度。安田さんも会社経営されてた時に、たぶん定期昇給させてましたよね。

安田

基準をクリアした人は昇給させてました。昇給する時期も決まってました。それが定期昇給ですか?

石塚

そうです。年次だけで上がっていく定期昇給もあります。

安田

年次だけで上がっていくのなら、ベースアップと同じじゃないんですか?

石塚

違います。定期昇給は、会社が決めた賃金制度というルールに基づく昇給。

安田

では、ベースアップにはルールがないと?

石塚

労働組合が「その賃金制度のベースを上げろ!」と交渉するのがベースアップ。

安田

「賃金制度そのもののベースを上げる」ってことですか?

石塚

そうです。賃金カーブに関係なく「基本給をアップさせろ」ってことなんですよ。

安田

だから交渉する「労働組合」がない会社は、ベースアップそのものがない?

石塚

その通りです。

安田

なるほど。でも、それでいったら、労働組合がない会社のほうが多いじゃないですか?

石塚

おっしゃる通りですよ。

安田

そしたら、労働組合がある会社とない会社の初任給とかに、もっと差が開きそうな気がするんですけど。

石塚

初任給に差がつかないのは、他の会社が合わせているからですね。でないと採用できないので。

安田

確かに初任給を決める時って、世の中の平均とか意識しますよね。

石塚

でしょ?でも2年目3年目の給料って、他社と比較してました?

安田

いや、してませんね。できる人とできない人で差がありましたけど、比較するのは社内の人間同士でしたね。

石塚

社内の規定に達しないと上がらないでしょ?

安田

上がりません。

石塚

でも労働組合がある会社では、全員上がっていくわけですよ。

安田

社内の規定に関係なく、頑張った人も頑張らなかった人も、全員上がる?

石塚

それがベースアップというものです。

安田

なるほど。ちょっとイメージが湧きませんね。

石塚

中小企業さんは、ベースアップなんて関係ないですから。

安田

でもベースアップって年1%とかですよね?

石塚

今は1パーセント上げられるかどうかも微妙ですね。ゼロ回答っていうのもありますから。

安田

ですよね。それでもそんなに大きな負担になるんですか?

石塚

だって毎年上がるんですよ。人数も多いし。すでに上げてきたベースアップ分だけでも、すごいことになってますよ。

安田

なるほど。初任給に大差がなくても、40〜50代になったらすごい年収になると。

石塚

はい。「もう全員抱えるのは無理」って金額になっちゃってますね。

安田

過去最高益って会社もあるみたいですけど。

石塚

それでもベースは上げたくないでしょうね。この先、何が起こるかわからないので、手元に流動性の高い資金を残しておきたい。

安田

そう言えばトヨタは「もうベアの金額を発表しない」ってニュースになってました。

石塚

そうみたいですね。

安田

他社の基準には、なりたくないってことですかね?

石塚

考えられる理由は2つしかありません。

安田

ふたつ?

石塚

はい。まず、ベースアップをやめようとしている、ということ。

安田

発表したら揉めそうですもんね。

石塚

もうひとつは、ベースアップが凄すぎて発表できない、ということ。

安田

なぜ凄すぎると発表できないんですか?

石塚

だって収集つかなくなるじゃないですか。「トヨタは5%も上げているのに他はどうなってるんだ!」とか「トヨタだけが儲けすぎだ!」とか。

安田

なるほど。どっちに転んでも、発表していいことはないと。

石塚

はい。

安田

でも、どっちなんでしょうね。上がってそうな気もしますけど。

石塚

いずれにしても、この先ずっとは無理ですよ。たとえ今回上がってたとしても。

安田

上げ続けたら会社がもたない?

石塚

そういうことです。

安田

きっと最後は組合も社員も条件を飲むんでしょうね。だって会社がつぶれちゃったら、しょうがないわけですから。

石塚

いや、そうとは限りませんね。

安田

潰れても譲らないってことですか?

石塚

六本木に全日本海員組合っていう、船乗りさんの組合があるんですけど。

安田

船乗りさんの組合?

石塚

はい。めちゃくちゃ強い組合で、商船三井とか日本郵船のような船会社に対して、徹底的に闘った歴史があるんですよ。

安田

船乗りさんの待遇を良くするための闘いってことですよね?

石塚

はい。たとえば、マラッカ海峡通過手当とか、赤道通過手当とか。

安田

通るだけで、手当が出るんですか?

石塚

しかも、すごい額が。休日出勤の報酬なんかもすごい。

安田

働く人にとっては、いいことですよね。

石塚

でもその結果、船長含めて乗組員の賃金が、世界一高くなっちゃったんです。

安田

それで、どうなったんですか?

石塚

価格競争で海外の海運会社に勝てなくなって、雇用がなくなっちゃったんですよ。

安田

なんと!

石塚

労働組合闘争を激烈にやった結果、雇用を失ったという典型的な事例です。

安田

でも、普通に考えたら、そうなっていきますよね。

石塚

雇用とは違いますけど、米価の値上げとかも同じですよ。

安田

コメですか?

石塚

農協が「ぜったいに平均米価勝ち取るぞ!」とかってやってるじゃないですか。あれも同じですよ。

安田

なるほど。労働組合と同じだと。

石塚

あんなことばっかりやるから、日本の農業はどんどん弱くなっていく。

安田

生産性の向上というのは、単に給料を上げることではないですもんね。

石塚

だから、「そろそろやめようよ」っていう話は、出てきてしかるべきなんです。

安田

そうですよね。

石塚

前回も言いましたけど、ベースアップに代わる落とし所って、ベーシックインカムしかないと思いますよ。

安田

じゃあ、大企業はベーシックインカム推進派ですか?

石塚

間違いなく、政府に働きかけているでしょうね。

安田

それに乗じて、ベースアップは終了する?

石塚

僕はそう睨んでます。だってそんな絶好のチャンスないですもん。

 


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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