さよなら採用ビジネス 第34回「外資と転職と終身雇用と」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第33回「運とコネと嫁と」

 第34回「外資と転職と終身雇用と」 


安田

大企業の出世競争は、コネと運で決まるって話でしたけど。

石塚

はい。その通りです。

安田

そんなことしてたら、優秀な人が入って来なくなるんじゃないですか?

石塚

大手に入らなかったら、どこに入るんですか?

安田

外資とか。初任給40万円の中国企業だってあるじゃないですか。

石塚

外資に流れる人材は、昔から常に一定数います。

安田

何割ぐらい、いるんですか?

石塚

10パーセントぐらいじゃないですかね。

安田

今は増える傾向にありますか?

石塚

いや、ほとんど変わらないですね。

安田

転職して外資に行く人はどうですか?増えてませんか?

石塚

いや、増えてないですね。そのまま組織に残る人が圧倒的に多いです。

安田

嫌にならないんですかね。運とかコネとかで出世する組織が。

石塚

転職する人は、増えないどころか減ってる感じですね。

安田

減ってる?

石塚

はい。人材紹介ビジネスの会社を売却したのも、そこが最大の理由です。

安田

バリバリの実力主義で「ガチンコで行きたい」って人は、実はそんなに多くないんですか?

石塚

多くないですね。

安田

起業を前提に大手に就職した人とかは、どうなんですか?そういう人はガチンコを好みそうですけど。

石塚

本気で起業を考えてる人は、学生時代にすでに始めてますね。

安田

じゃあ、就職しない?

石塚

はい。「どうする安田、就職する?俺、もう自分で始めるわ」みたいな人は、確実に増えてます。

安田

不安じゃないんですかね?我々の頃って、まずは就職して、経験を積んで、みたいなステップでしたけど。

石塚

今は起業しやすいですし、就職しなくてもネットでググれば大体のことは分かりますから。

安田

確かにそうですね。私も今だったら、学生のうちにやり始めるかもしれません。

石塚

本気の人はそうでしょうね。だって卒業するまで待つ必要がないですから。

安田

会社側はどうなんですか?「起業家精神」みたいなのを持った人を、採りたいんじゃないですか?

石塚

もちろんその通りです。でも現実問題として採れません。

安田

大手と言えども?

石塚

逆に、聞きたいんですけど、そういう人はどうやって採りゃいいんですか?相当変わった人ですよね。

安田

変わった人なんですかね?

石塚

イノベーションを起こすって、口先だけで言う人はたくさんいますけど。本物のイノベーターを新卒の時に見抜くのはかなり難しいです。

安田

確かに。単なる変なヤツと紙一重ですもんね。

石塚

でしょう?本物のイノベーターなんて採れませんよ。

安田

じゃあ、就職せずに起業する人は、増えてるんですか?

石塚

学生ベンチャーは有象無象も含めてかなり増えてます。

安田

そういう人たちって、外資系金融とかと相性良さそうですけど。「ちょっと外資に行っとくか」みたいに、ならないんですか?

石塚

新卒で外資の金融系って、よっぽど優秀じゃないと採ってくれません。

安田

たしかに、外資自体が新卒求めてませんもんね。即戦力を求めてますもんね。

石塚

ええ。

安田

大手から外資に転職する人も、1割ぐらいしかいないんですよね?

石塚

1割いるかいないかですね。

安田

じゃあ、圧倒的に多くの人は、べつに外資に行きたいと思わない?

石塚

思わないし、転職しないです。

安田

「外資に行ったら確実に収入が増える」という人でも?

石塚

収入は増えるけど「また転職しなきゃいけなくなる」ってことを、よく知ってますから。

安田

実際そうなんですか?

石塚

はい。新卒で外資に入るってことは「必ずどこかで転職をしなきゃいけない」ってことです。

安田

それが分かってるから、外資には行かないと?

石塚

その覚悟がない人は行きませんね。外資と日系大手に内定をもらって、日本の会社を選ぶ最大の理由はそこです。

安田

じゃあ、終身雇用がなくなったら、日本企業に行く意味もなくなっちゃいますね。

石塚

そうなりますね。

安田

ちなみに外資はなぜ、勤め上げるのが難しいんですか?

石塚

必ず何年かに1回、グローバルで「ダウンサイジングしろ」って言われますから。

安田

それはどうして?

石塚

利益を最優先したら、自然とそうなるんですよ。事業には必ず成熟期と衰退期がありますから。

安田

なるほど。では日本企業の方が不自然だと?

石塚

昔はそれで良かったんですよ。事業寿命も長かったですし、ビジネスモデルもそんなに大きく変化しませんでしたから。

安田

今は事業寿命が短いし、ビジネスモデルも根底から変化しますもんね。

石塚

だから無理があるんですよ。同じ人を30〜40年も雇い続けるなんて。

安田

このままだったら、絶対に外資に勝てないですよね?

石塚

それは経営陣も自覚してると思います。

安田

だからリストラ費用を溜め込んでいると?

石塚

それしか方法がないですから。

安田

でも皮肉ですよね。終身雇用が目的で日本企業を選んだのに。

石塚

仕方ないですよね。ここ20〜30年で、世の中は激変しましたから。

安田

大企業といえども、今後はどんどん「人を入れ替えて行く」ということですか?

石塚

そうせざるを得ないでしょうね。収益率の低くなった事業は、売るかダウンサイジングするしかないですから。

安田

新規事業にも回せない?

石塚

無理でしょ。新規事業なんてできる人材がいないし、そういう教育もしてない。

安田

じゃあ、終身雇用を求める人材は、どこに行けばいいんですか?

石塚

どこにも行けませんね。30年先がどうなるかなんて、誰にも分かりませんから。

安田

そうですよね。アップルやマイクロソフトだって、30年後にはなくなってるかもしれませんもんね。

石塚

大手は今の企業群と様変わりしているでしょうね。逆にそうじゃないとグローバルでは生き残っていけないです。

安田

考えてみたら終身雇用ってすごい仕組みだったんですね。

石塚

だって何万人、何十万人という人員を、生涯保障するんですよ。

安田

そんなのが続くわけがない?

石塚

絶対に続きませんよ。

安田

じゃあ、必ずどこかで終わりが来る?

石塚

そんなに遠くない未来ですね。

安田

でもそれって、悲観することでもないような気がします。

石塚

社会全体で見たら、ぜんぜん悲観することないですよ。たぶん大手の若年層の年収は、かなりアップすると思います。

安田

そうですよね。中高年の人件費が要らなくなったら、かなり払えますよね。

石塚

余裕で払えます。

安田

終身雇用がなくなったら、転職も増えるんじゃないですか?

石塚

若い人は増えるでしょうね。リアルなスキルアップのための転職みたいなのが。

安田

ひとつの会社でしか通用しないスキルって、怖すぎますもんね。

石塚

でも、そういう人が、大手の中には今たくさんいるわけですよ。

安田

その人たちは、どうすればいいんでしょう?外資は採ってくれませんか?

石塚

絶対にムリです。

安田

たとえば都銀でキャリア積んだ人とか。外資系金融には入れないですかね?

石塚

入れません。そんな高度な仕事をやってませんから。

安田

これって、もしかしたら国を挙げての大問題なんじゃないですか?

石塚

だから、前からそう言ってるじゃないですか!(笑)


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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