さよなら採用ビジネス 第71回「沈みゆく百貨店・変わりゆくアパレル」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第70回『ドレスコードが死語になる日』

 第71回「沈みゆく百貨店・変わりゆくアパレル」 


安田

オンワードの店舗撤退の話。いきなり600店舗って凄いですよね。

石塚

アパレル業界って「どこで売るか」というのがものすごく重要なんですよ。

安田

どこで売るか?

石塚

百貨店が場として好調だった時は、アパレルもすごく売れてたんです。でも今は百貨店でほとんど物買わないじゃないですか。

安田

たしかに。デパ地下しか行かないですね。

石塚

そう。百貨店で賑わってるのは地下と1階の化粧品ぐらい。2階から上なんてほとんど行かないでしょ?

安田

行きませんね。地方の百貨店も今どんどん閉鎖してますよ。

石塚

百貨店って、小売業じゃなくて実は不動産業だから。

安田

え?不動産業ですか。

石塚

専業でやってる百貨店ってあんまりなくて。電鉄会社とかバス会社がグループで持ってるところがほとんど。

安田

それが業績低迷と関係してるんですか?

石塚

はい。基本的に売れる不動産がなくなった時点で、もう終わりなんですよ。

安田

そうなんですか?

石塚

はい。沿線の土地の売買と、百貨店自体も不動産所有してるのでテナント賃貸ビジネス。

安田

なるほど。でも不動産としてなら、百貨店は立地がいいわけじゃないですか。

石塚

凄くいいですよね。基本的には駅前の一等地ですから。

安田

じゃあ貸す相手さえ変えれば「べつに閉じなくてもいいんじゃないか」って気がしますけど。

石塚

安田さんがいちばん大事にしてるのって、集客と販売方法じゃないですか。

安田

私ですか?そうですね、はい。

石塚

いつも安田さんが言ってるように「いい場所を確保して人を集める」っていう昔ながらのやり方が、もう時代と合わないんですよ。

安田

確かに。

石塚

そこに魅力を感じる人が年々減っているっていう。我々は百貨店世代だからまだ行く時もありますけど。

安田

でも我々でさえ、デパ地下以外ほとんど行かないですもんね。

石塚

子どもの頃はよく行ったでしょ?

安田

行きましたね、屋上とかレストランとか。楽しみでした。

石塚

いつまで買い物してました?百貨店で。

安田

30代ぐらいですかね。百貨店でスーツとか買ってましたよ。

石塚

僕も同じなんですよ。もう伊勢丹に年間いくら使ったか。伊勢丹のゴールドカード持ってましたよ、当時。

安田

私も伊勢丹はよく行きました。

石塚

でしょ?スーツ、ネクタイ、シャツからアクセサリーまで。

安田

はい。当時は伊勢丹メンズ館がすごく流行ってて、特に靴コーナーが充実してました。

石塚

東洋一の売り場でしたね。

安田

もうぜんぜん行かなくなりましたけど。伊勢丹自体に。

石塚

でしょ?伊勢丹もとうとう新宿店だけになりましたからね。

安田

じゃあオンワードに限らずってことですか?百貨店と共に店舗が減ってる現象は。

石塚

「百貨店をメインの売り場」にしている業界はみんなそうですね。特にアパレル業は影響が大きいです。

安田

なるほど。

石塚

でもファーストリテイリングって、百貨店にも出店してるけどそんなに影響はない。

安田

アパレル全部がダメだというわけじゃないと。

石塚

ZOZOだってそうだし、アパレル業界が全部沈没してるわけじゃない。昔ながらの「百貨店を中心に展開しているところ」はみんな厳しいって話。

安田

集客を「百貨店に依存してた」ところは厳しくなってると。

石塚

おっしゃる通り。

安田
駅前の百貨店よりZOZOに出店したほうが売れる時代ですもんね。
石塚

ネットの影響は大きいです。

安田

でもZOZOから撤退した会社もありますよ。確かオンワードも撤退したんじゃないですか。あれは経営判断ミスですか?

石塚

ネットとリアル店舗って、売るための筋肉の使い方がぜんぜん違うんですよ。多分そこに対応できないんでしょうね。

安田

でも600店舗も閉じてZOZOからも撤退して、何もしなかったら売上が激減しますよ。

石塚

もし安田さんが社長ならどうしますか。600店舗閉めた時点で何を考えます?

安田

私だったら、もうアパレルをやめるかもしれませんね。

石塚

僕も近いですね。「グーッと規模を小さくして、損益分岐点を下げて、新しいことをやろうか」って考えますよ。

安田

でもかなり難しいんですよ、これ。私もやったことがあるんですけど。だって人を全部入れ替わるわけにもいかないし。

石塚

そうですね。

安田

店舗でのアパレル販売しかやってこなかった社員を抱えつつ、「新しい事業に乗り換える」ってものすごく難しい。

石塚

ウルトラC難度でしょうね。

安田

そう思います。

石塚

既存リソースは「かつては資産だったけど今は負債」なんで。「負債を帳簿から落とすしかない」という判断になるでしょう。

安田

だからまず、店舗を閉めることで負債を減らしたと。

石塚

その通り。

安田

じゃあ次は当然、それに伴う人材になりますよね?

石塚

既存人材はバサッとリストラして、「店舗で物を売る」ってことにこだわらない発想の人を入れたいでしょうね。

安田

それってもう「全取っ替え」に近いですよ。

石塚

そうなるでしょうね。

安田

じゃあリアルな店舗はもうなくなりますか?

石塚

体験したり、カリスマ店員に会えたり、採寸したりする場所がお店。で「買うのはネット」っていう使い分け。「店舗の売上を追わない」という流れになるでしょうね。

安田

リアル店舗に大量の在庫を置いて「すべてのサイズ取りそろえてます」みたいなのは、もうビジネスとして成立しない?

石塚

しないです。

安田

そうなると、相当な数の社員をリストラしないといけなくなりますよ。

石塚

だから厳しいと思いますよ。

安田

今いる社員の半分以上ですよね?

石塚

半分で済めばいいですけど。たぶん社長は4分の3ぐらい入れ替えたいと思ってる。

安田

そんなに?

石塚

はい。まずは4分の3の“負債”をそぎ落とす。一方で若い人とかクリエイターさんを、雇用契約で縛らずにどんどんプロジェクトに巻き込んで行く。

安田

それで復活しますか?

石塚

たとえばオンワードなんて、「地下に眠ってる資源」がたくさんあるはずですから。

安田

それはブランドとかですか?

石塚

ブランドに限らず「これネタになるよ」っていう資源はたくさんある。

安田

じゃあ、なぜ今それを使わないんですか?

石塚

今いる人材ではそれを活かせないってことです。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

1件のコメントがあります

  1. とても細かいことで恐縮ですが・・・

    「7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、
     今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。」

    石塚さまの説明(今年に入って)が、
    もう、変わられたのではないでしょうか?

    (本当に細かいことで恐縮です…)

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