さよなら採用ビジネス 第72回「そこに愛はあるのか」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第71回『沈みゆく百貨店・変わりゆくアパレル』

 第72回「そこに愛はあるのか」 


安田

ソフトバンクが大赤字だそうです。

石塚

「まっ赤っか」って孫さん自分で言ってましたね(笑)

安田

ちょっと前までは「あんなに儲けてるのに税金払ってない」って話題になってましたけど。

石塚

こんなこと言うと、また問題になるかもしれませんけど。今回の決算発表は租税回避だと思いますよ。

安田

そうなんですか?

石塚

租税回避のために赤字にしてるんだろうなって思います、僕は。

安田

実は儲かってると。

石塚

だって税法上は取られないけど、いっぱい資産持ってるじゃないですか、あそこ。

安田

まあ、そうですね。

石塚

だから、痛くもかゆくもないっていう。

安田

やっぱソフトバンクといえども、まともに税金払ったら大変なんですか?

石塚

と思います。

安田

高い税金を払ってると国際競争には勝てない?

石塚

孫さんはシビアにそう考えてるんじゃないですか。無駄だと思ってるんじゃないですかね。

安田

無駄ですか。

石塚

これは本当に僕の独断と偏見ですけど。孫正義さんって「日本にこれ以上税金なんか払っても何の意味もない」って割り切ってるんじゃないですかね。

安田

でも「日本の企業を育てる」みたいなことも、一方で言ってるじゃないですか。

石塚

うーん、どうでしょう。

安田

その割に日本のベンチャーには、あんまり投資しませんけどね。

石塚

しないです。日本でこれ以上何かに貢献することなんて考えてない。「CSRの立て付けさえしておけば」って感じ。本音と建前違う気がします。

安田

ということは「税金がかからない国に本社を移しちゃう」みたいなこともあり得る?

石塚

当然考えてるんじゃないですか。

安田

やっぱり考えてますか。

石塚

当然ですね。ただ実際にやるとなったら、総務省から圧力がかかるでしょうけど。

安田

どんな圧力ですか?

石塚

「おたく本社もう日本じゃないから、通信事業は営めません」みたいな。だから仕方なく日本に置いてるんじゃないですか。

安田

本社置いてても、ほとんど税金払ってませんけどね。徳井さんが問題になりましたけど桁違いですよ。

石塚

おっしゃるとおり。でもそういう大企業はいっぱいありますから。

安田

大企業は徳井さんと違って「合法的に処理してる」から問題にならないってことですか?

石塚

そういうことです。

安田

でも日本もこれだけ資金難なわけですから。「儲かってる会社からなんとか税金取ろう」って対策しないんですか。

石塚

そのへんは巧みにお金が流れてるんじゃないですか。あんまりソフトバンク叩いちゃうと困ってしまう人たちが、政治でも行政でもいらっしゃるんですよ。

安田

ということは、税金は払ってないけど権力者にはちゃんとお金を払ってると。

石塚

まあ、そうじゃないですか。

安田

ダークな世界ですね(笑)

石塚

あまりきれいにしちゃうと自分たちも被害被るんで。「マイナスもあるけどプラスが大きいからいいじゃないの」みたいな構図だと思います。

安田

なるほど。でも評価が分かれるところですよね。実際、通信料金が下がったりネットがこれだけ普及したのも「孫さんのおかげだ」って言う人もいますし。

石塚

まあ本当に「功と罪」半々なんじゃないですか。

安田

日本のインフラを支えてきたとも言える?

石塚

勿論いいこともしてる。でも決算とか見てるとめちゃくちゃっていう。

安田

それは税金だけじゃなく?

石塚

身の丈以上のファイナンスつけて、ものすごい買い物するじゃないですか。ボーダフォン買ったり。

安田
確かにギリギリの勝負ばかりしてますよね。
石塚

はい。日本の企業であの規模の買収をやって成功した会社なんてなかった。それを成功させたっていうのは、ものすごい能力の持ち主だと思う。

安田

子会社を「高いときに売って、落ちたらまた買い戻して」みたいなこともやってますよね。

石塚

はい。孫正義流の錬金術なんでしょうね。

安田

なんで他の人はやらないんですか?

石塚

小さな規模ではやってますよ。でもあの規模って日本だと孫さんぐらいじゃないですか。経営者をやってる投資家っていうのは。

安田

東芝は海外の原子力発電事業を買ったじゃないですか。

石塚

ウェスティングハウスですか?

安田

はい。

石塚

大失敗してますよね。

安田

してますね(笑)

石塚

だって自分の身銭切ってないですもん。

安田

まあサラリーマン社長ですからね。自分のお金じゃないし。

石塚

オーナー社長だったらあんな金額の投資、そう簡単にはできませんよ。

安田

「負けたらすべてなくす」みたいな勝負はできない?

石塚

できないですよ。孫さんは自分でゼロからつくってきたし、相場勘っていうか勝負勘みたいなのが、そこらへんのサラリーマン社長とは全然違う。

安田

孫さんって「1回負けたら終わり」みたいな勝負を仕掛けて、ことごとく勝ってるイメージですよね。

石塚

事業投資に関しては、たぶん日本のビジネス史上に残るぐらい成功率高いです。楽天なんか見てても上手くいかないじゃないですか。

安田

確かに。結果だけ見てると孫さんって「勝つべくして勝ってる」ように見えます。

石塚

後付けでしょうけどね。当時はみんな「無謀だ」って言ってましたから。やっぱり傑出した能力を持ってるんですよ。そこは評価しないといけない。

安田

海外から見るとどうなんですか?やっぱ孫さんって評価高いんですか?

石塚

評価はもちろん低くないでしょうね。ただTモバイル買ったときは、投資やってるアメリカ在住の知人はみんな「無理だ」って言ってました。

安田

へぇ。

石塚

でも彼が考えてることって、そのときのROIだけじゃないから。もっと先を見据えてる。

安田

もっと先?

石塚

歴史上の出来事を年表にして、ひとりで織田信長とか研究してるそうですから。

安田

織田信長ですか。孫さんらしいですね。

石塚

「天下布武こそソフトバンクの理念と合うんだ!」みたいなことを大声で叫ぶらしいです。考えてることが常人の物差しに合わないっていうか、ぜんぜん違う世界を見てる。

安田

世界の投資家のトップを目指してるんでしょうか。それとも日本に軸足を置いて勝っていく戦略でしょうか?

石塚

後者寄りだけど、前者も意識してるって感じじゃないですか。

安田

じゃあ、いずれは「世界の孫正義」と言われるようになる?

石塚

すごく評価の難しい人だと思うんですよ。倫理観がある部分欠落してるし、目的のためには手段を選ばない。でも結果的にインフラが開けたり、価格が安くなったり、いいこともしてる。

安田

「日本のため」っていう意識はないと。

石塚

「日本を愛してる」とか「日本のために」とか、そういうのは全く感じないです。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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