さよなら採用ビジネス 第80回「もう、ここから出られない」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第79回『年賀状というDMはもうやめて』

 第80回「もう、ここから出られない」 


安田

ご存じですか?セブンの配置転換。

石塚

店舗に回すってやつですよね。

安田

はい。いま9,000人正社員がいるらしいんですけど。そのうち1,000人を店舗に回すそうです。

石塚

店舗じゃ人が採れないですから。

安田

でも社員さんにしてみたら「体のいいリストラなんじゃないか」って。

石塚

どうでしょう。それはネットの評判ですか?

安田

ネット民は割と社員に冷たいです。オーナーに恵方巻きとかを無理やり仕入れさせてきた張本人なので。「だったらお前らが売ってみろ」みたいな。

石塚

セブン&アイ・ホールディングスって、コンビニの中でもズバ抜けて訴訟を抱えてる会社なんですよ。

安田

そうなんですか?

石塚

はい。メディアは報じませんけど、オーナーさんからFC本部に対しての訴訟がいっぱいあるんですよ。

安田

へぇ。優良企業っぽいのに。

石塚

いやいや。たぶん、いちばんFCオーナーに優しくない本部です。セブンって。

安田

業績はズバ抜けてますけど。

石塚

言い方を変えると、厳しいからこそ業績がいい。背中合わせの部分があるんですよ。

安田

なるほど。じゃあ今回の配置転換の狙いは何ですか?

石塚

FCオーナーって非常に依存心が強いんです。ちょっと業績が悪くなると「どうしてくれるんだ」みたいなことを言ってくる。

安田

じゃあ素直に「現場のテコ入れ」だと考えればいいんですか?

石塚

基本的にはそうでしょうね。社員を店頭立たせて「ありとあらゆるテコ入れ」をさせる。

安田

でも社員さんは、あんまり前向きじゃないみたいです。言ったら管理職から現場に降ろされるみたいなものなので。

石塚

でもこの流れは、これから大企業で増えてくと思います。

安田

コンビニ以外の大手もですか?

石塚

たとえば損保ジャパンホールディングスは、本社や支店の管理職をグループ会社の介護事業にかなり配置転換した。

安田

そんなことがまかり通るんですか?

石塚

「これ問題じゃないか。不当労働行為だ」って訴訟になったんですけど。

安田

そりゃあなるでしょう。

石塚

でも東京地裁は「いやいや雇用は守るんだから大丈夫ですよ」って。

安田

なんと!

石塚

「こういう経済状況での配置転換命令は広く認めます」という判例が出ちゃった。だからこれからどんどん増えると思います。

安田

そうなったら企業はやりたい放題ですね。

石塚

はい。年齢層が上で管理職になってる「生産性の低い人間」をどんどん現場に出していく。

安田

でも介護なんて全く畑違いですよね。

石塚

まったく違う事業にも行ってもらう。要するに既存人材リソースの再配分。

安田

法的にはOKってことですか?

石塚

もうOKだと思います。ただ結果的にはこれ良い方向に働くかもしれません。

安田

それはどういう意味で?

石塚

使えなくなった人材に原点回帰させる。「意外に効果あるかも」って思います。

安田

だけど社員さんはぜんぜん乗り気じゃないですよ。

石塚

そりゃあ乗り気じゃないと思いますよ。しんどいですから。

安田

これで辞めちゃう人とか、結構出てくるんじゃないですか。

石塚

ほとんどいないと思います。

安田

え!そうですか?

石塚

だって平均年収1,000万円以上の人ばかりですからね。

安田

そんなに給料の高い人材をお店に張り付けて、元は取れるんですか?

石塚

だって残業代も発生しないし。管理職だから(笑)

安田

なるほど。

石塚

バイトの穴埋めも含めて、現場で「大車輪でやってくれ」ってことじゃないですか。

安田

そこまでこき使われても辞めないですか?

石塚

コンビニエンス業界って、いちばん転職でつぶしが利かない仕事のひとつなんです。

安田

そうなんですか。

石塚

コンビニエンス出身で転職に成功する人って、かなり少ない。

安田

でも店舗のマネジメントをしているわけでしょ。戦略を練って、商品を仕入れさせて、売れるように指導して。結構優秀な気がするんですけど。

石塚

作られた仕組みの中では優秀なんですよ。でもそれってコンビニエンスストアという巨大な仕組みの中でしか通用しないスキルだから。

安田

それ以外では通用しないと。

石塚

はい。外に出たときに通用しない。

安田

社員さんにもその自覚はあるんですか?

石塚

あります。先輩を見てるので。だからコンビニ業界って30歳を過ぎるとほとんど辞めないんです。

安田

ちなみに社員さんって、コンビニ現場では「売る力」があるんですか?

石塚

オーナーにもよるんですけどね。でもやることをしっかりやれば、一定の業績までは行くと思います。パッケージがよくできてるので。

安田

じゃあ社員が現場に入って、決められたことを真面目にやれば、成果は確実に上がる。

石塚

日販の回復は早いと思います。

安田

業績が回復したら本部に戻れるんですか?彼らは。

石塚

これは僕の勝手な先読みですけど。

安田

はい。

石塚

たぶん、ダブついた社員にFC買わせると思う。

安田

え!FCを買わせる?

石塚

買わせる(笑)

安田

社員に?

石塚

そうです。ダメなFCを社員に買わせる。

安田

でも、さんざんオーナーの苦労を見てきてるのに、買いますかね。

石塚

何か少しうまみを持たせるんじゃないですかね。

安田

早期の退職金を何千万か乗せるとか?

石塚

早期退職も乗せますし、最初の初期費用を免除するとか、加盟金をなくすとか。

安田

現場に行かされた1,000人が本部に戻ってきて、そこから出世するってことは考えられないんですか?

石塚

まあ1,000人にひとりぐらいはいるかもしれませんね。

安田

たったひとり?

石塚

いたとしてもですよ。基本的にこれは片道切符ですから。

安田

じゃあ、そのままずっと現場にいるか、自分でオーナーになるか、みたいな?

石塚

彼らに「辞める」という選択肢はないので。

安田

そうなんですね。

石塚

はい。もうセブン&アイ・ホールディングスの外には出れない。だから99パーセント受けると思います。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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