さよなら採用ビジネス 第84回「温情はどこまで続くのか」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第83回『働かないおじさんは、どこから来た?』

 第84回「温情はどこまで続くのか」 


安田

大塚家具の業績が「もう建て直し不可能」ってところで、ヤマダ電機が現れました。

石塚

はい。ギリギリでしたね。

安田

社長続投ってことになったんですけど。あれは「山田会長の温情だ」って言われてまして。どう思います?

石塚

そのとおりだと思います。

安田

温情でお金を出して、続投もさせたってことですか?

石塚

そのとおり。

安田

へぇ。ヤマダ電機ってもっとドライなイメージですけど。

石塚

山田家って不審な死に方が何回もあるんですよ。お身内の方が。

安田

そうなんですか?

石塚

はい。会長は似たような年齢の娘さんも亡くしてるんですよ。あと、「この人を後継者に」っていう人を事故で亡くしたりとか。

安田

それが久美子社長と被ったと。

石塚

久しぶりにテレビで山田会長を観ましたけど。老けたなあって。たぶん亡くなった娘さんにどっか重なるんじゃないですか。

安田

私はヤマダ電機さんとは直接仕事したことないんですけど。取引ある人に聞いたら相当シビアな会社みたいですよ。下請け叩きもすごいし。

石塚

基本的にはそういう会社です。「嫌だったら取り引きやめてもいいよ」みたいな。

安田

ですよね。

石塚

ただ会長も、年齢とともにいろんな心情変化もあるし、昔ほどシビアさだけで割り切らないんだろうと思います。

安田

とはいえ事業シナジーもあるわけでしょ?上場企業なわけですし、温情だけだと株主総会も揉めるでしょうし。

石塚

大塚家具の店舗とか、店舗を運営するためのインフラが手に入るので。まあ、かなり割高かなとは思いますけど。

安田

店舗といっても不動産を持ってるわけじゃないですよ。

石塚

仕入先との繋がりもできてるし、意外と社員も辞めてないんですよ、大塚家具は。

安田

いい社員は全部「匠大塚」に移ったとも言われてますが。

石塚

言われてますけどね。もし自前で家具事業をやるとして、1からあのレベルであの人数を集めようとしたら、いまの時代とてもじゃないけど無理。

安田

ものすごいお金がかかると。

石塚

はい。だからリソースをあの値段で買うのであればまあありかな、と。ヤマダ自体はキャッシュも豊富ですし。

安田

じゃあ、人材、店舗、商品の仕入先、ブランド、そのへんを考えると安いと。たしか40億ぐらいでしたよね。

石塚

いや、買値は高いと思います。

安田

高いですか?じゃあ、なんでもっと叩かなかったんですか?

石塚

そこがやっぱり、高齢化による温情じゃないかと思うんですよ。

安田

温情ですか。

石塚

はい。

安田

昔だったらもっと買い叩いてた?

石塚

買い叩いて社長交代してたでしょうね。

安田

へぇ。

石塚

やっぱり、どっかで娘に重なるんじゃないですか。

安田

でも「買い叩かれて社長交代」だったら、久美子社長も売ってないと思うんですけど。

石塚

とは言えもう、これしか選択肢はなかったんじゃないですか。

安田

これまでにも数々そういうオファーがあって、断り続けてるじゃないですか。

石塚

まあ今回は社長のポジションを約束してくれたわけですから。

安田

約束してくれたから売ったんじゃないですか。

石塚

どうでしょう。確かにラジカルな改革を「すぐにやれ」ってことはないですけど。でも1番の理由は売値がそれなりに高かったからじゃないですか。

安田

高いですよねやっぱり。妥当なところでいったら、どんなもんですか?

石塚

20億ぐらいじゃないですか。

安田

半分ぐらい。

石塚

普通だったら20億ぐらいで買って、いろんなリソースをつぎ込んでバリューアップさせる。

安田

なるほど。でも結局、過半数の株を持つってことは、ここから先は実質オーナーじゃないですか。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

ということは、資金繰りをヤマダ電機が回すことになるわけでしょ?

石塚

その通り。

安田

じゃあ、べつに20億でもよかったんじゃないですか。足りなかったらどうせヤマダ電機が金を出すわけなので。

石塚

逆じゃないですか。40億出しても「株を持ってればどうせ自分の金だし」みたいな。

安田

じゃあ温情でもないですね。

石塚

いや、そんなことないです。久美子さん個人の連帯保証は外れるので。

安田

そんなの温情って言えますか?

石塚

何十億も個人保証を入れるって、ああいうお嬢様育ちにはたぶん耐えきれない。

安田

そんなもんでしょうか。

石塚

私はすごい温情だと思いますね。

安田

なるほど。ちなみにヤマダ電機との連携で、大塚家具は黒字になりますか?

石塚

都市部は厳しいですけど、地方だったらシナジーが出るのかなと思います。

安田

じゃあ黒字にできる算段があって、買収したってことですね。

石塚

当然ですね。山田会長なりの「そろばんのはじき方」があるんでしょう。

安田

事業が黒字転換したら、久美子社長は続投することになるんでしょうか?

石塚

いや、2年ぐらいしたら辞めるんじゃないかと思います。たぶん軌道に乗れば社長からは外す。

安田

ほぉ。それはどうしてですか?

石塚

もう用済みだから。

安田

でも温情があるわけでしょ?本人がやりたいんだったら続けさせるんじゃないですか。

石塚

「連帯保証債務を外して、会社も軌道に乗った。あなたは元に戻りなさい」みたいな。

安田

そこで終了ってことですか?

石塚

はい。「申し訳ないけど経営者としては荷が重いです」と。

安田

じゃあ経営者として認めてるわけではないってことですか?

石塚

経営者として能力がないのは、もう周知の事実なので。

安田

本人的にはどうなんですかね。確かにいま辞めたら「ダメな社長」で終わっちゃいますけど。

石塚

そうです。だから「大塚家具のV字回復をやりとげました」という形で終わらせる。あとは本でも出して悠々自適に。

安田

まあ生きていくのに困らないぐらいの資産はあるでしょうからね。

石塚

はい。困らないし、結構いい年齢ですし。

安田

本人もその辺りで身を引くつもりなんですかね。

石塚

「社長として結果を出したい」っていうのが一番大きいと思いますから。このままだと世間からずっと笑われるので。

安田

でも、これで黒字になって「実力があった」と世間が認めてくれるかどうか。

石塚

まあ微妙ですよね(笑)

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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