小さなブルーオーシャンに出会う旅 第10回「『職人』を将来なりたい職業の1位にすることに挑む企業」

このコラムについて

小さなブルーオーシャン?
何だかよく分からないよ。ホントにそんなので商売が成り立つの?

と思っている方は多いのではないでしょうか。何を隠そう私もそのひとりでした。私は人一倍疑り深い人間なのです。そこで・・・私は徹底的に調べてみることにしました。小さなブルーオーシャンなんて本当にあるのか。どこに行けば見られるのか。どんな業種なら可能なのか。本当に儲かっているのか。小さなブルーオーシャン探求の中で私が見つけた答えらしきもの。それはきっとみなさんにとっても「何かのヒント」になるはずです。

第10回「『職人』を将来なりたい職業の1位にすることに挑む企業」


中高生が未来のヒントに出会う場所ということで「13歳のハローワーク」というサイトがあります。ここに中高生の人気職業ランキングがあるのですが、人気職業の第1位は何だと思いますか?

1位は公務員[一般行政職]だそうです。(2020年3月1日〜31日の回)

さて、100位以内に「職人」と呼ばれる職業は何位に入っていると思いますか?

41位 大工
64位 パン職人
89位 楽器職人
97位 和菓子職人

「ものつくり大国ニッポン」と呼ばれている(呼ばれていた?)日本ですが、メーカーさんの工場は海外に移っていったり、あるいは輸入に頼ったりするようにになって、工場で働く「職人」を目にする機会が少なくなりました。
昔、職人が人気だった、とは言いませんが、職人をカッコいいと思う人はいたはずです。
ところが、現在は、カッコいいとも思われることがなくなってしまったのかもしれません。

ある中小企業の製品が全世界で使われている。その社長の夢は…

埼玉県入間市にある株式会社industria(インダストリア)さんは、従業員数40名のいわゆる中小企業です。しかし、同社の主力製品を、全世界の名だたる企業が使用しているとのこと。
その製品とは、液体からゴミを取り除くエレメントレスフィルター「FILSTAR」。工場ではさまざまな用途できれいな水が求められます。通常の浄化フィルターは短時間で目が詰まり、頻繁に交換する必要があるんだそうです。一方、「FILSTAR」は遠心分離の原理を使い、交換なしで使い続けられるといういうことで、手間やコストを軽減でき、環境負荷も少ないオンリーワンの商品なんだそうです。

もちろん、この製品だけを見ても、小さなブルーオーシャンっぽいのですが、今回、私が目をつけたのは、製品の方ではなく、社長の目指しているところなのです

小さなブルーオーシャンを生み出しているものは何なのか?

一般的にBtoB製品はスペックやコストで選ばれることが多く、ブランドイメージは重視されません。しかし、株式会社industriaの代表である高橋一彰氏は、ブランディングにもこだわりを持っています。
前述した同社の主力製品「FILSTAR」も、性能が高く評価され、名だたる企業で採用されていることは間違いありません。しかし、高橋社長はブランド力を活用して自社製品の品質をアピールしようと考えているのです。
実際に、株式会社industriaの本社建物は、埼玉県入間市郊外で、人家もまばらな一角に、ショールームと見間違うような建物らしいのです(行ったことがないので、あくまでも人づてなのですが…。機会あればぜひ行ってみたい!)

このブランディングが、小さなブルーオーシャンを生み出している、と私は考えています。

同社は、高橋社長のお父様が創業した会社。つまり現社長である高橋社長は二代目ということになります。もともと高橋社長は、油まみれの仕事に嫌気が差し、家業を継ぐつもりはなかったそうです。しかし、安い外国製品が流入。そのあおりで会社の仕事が激減。「身内なら人件費がかからない」ということで、実家に戻ったんだそうです。そこで目にしたこと。それはメーカーから1000円の製品の図面が来ても職人は自分が納得するまでつくりこむ。ヘタをすると1万円のコストをかけることもある。

「ただ、ものづくりにこだわる職人の姿は素晴らしいとも思いました。それならば、1万円かかっても売れるものを自分たちで企画開発して売ればいい。そう考えて、まず設計から手がけ始めました」

(高橋社長のインタビュー記事から抜粋)

合理化してコストダウンを図るより、職人の感性を活かして高付加価値のものを開発して、ブランディングしたうえで売る。

「ものづくりに根づく3Kのイメージを変えたい。職人はホントはかっこいいんです」という高橋社長。そして、現在の工場を改装して、全面ガラス張りにすることが社長の想い。工場の前は、小学生の通学路だそうで、ガラス張りにすれば、職人の働く姿を外から見ることができるんだそうです。

「この地域で、『職人』を将来なりたい職業の1位にしたいんです。ものづくりには、それだけの魅力があると信じています」(高橋社長談)

B to Bであり、名もない中小企業。おそらく、ほとんどの人は、この会社のことを知らないでしょう。凄さもわからないでしょう。しかし、いつか、この株式会社industriaが日本を代表する企業になるんじゃないかと、ワクワクしていまうのは、私だけでしょうか。

 


佐藤洋介(さとう ようすけ)
株式会社グロウスブレイン 代表取締役

大学(日本史専攻)を卒業後、人材コンサルティング会社に16年間勤務。ソフトウェア開発会社、採用業務アウトソーシング会社、フリーランスを経て、起業。
中小企業の人材採用、研修に携わる一方で、大学での講義、求職者向けイベント等での講演実績も多数。人間の本質、行動動機に興味関心が強い。
国家資格キャリアコンサルタント、エニアグラムファシリテーター、日本酒ナビゲーター。

 

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