泉一也の『日本人の取扱説明書』第5回「足し算の文化、引き算の文化」

 

こういった「気持ち悪さ」の中に、本来の価値が隠されている。気持ち悪さを反転させると、そこにピュアな感性があるからだ。

西洋は、足す文化。つまりプラス思考、ポジティブな文化。陽の文化である。
日本は、引く文化。つまりマイナス思考、ネガティブな文化。陰の文化である。

日本では「お陰様」といって、隠れたところに価値を見出すように、ネガティブが標準なのだ。マイナス思考やネガティブが「悪」みたいな風潮があるが、そこには日本的な豊かさが隠れている。日本で一番信徒が多い仏教の宗派は浄土真宗であるが、その開祖親鸞は「悪人正機説」といって悪人こそ仏の救済があると説いた。

お化けや妖怪はネガティブな存在なのに、ゲゲゲの鬼太郎に妖怪ウォッチといったエンターテイメントという豊かさに化けている。

日本は本来引き算の文化であるが、足し算の文化に無理に合わせていることで、重苦しく縛られる社会となっていないか。

 

 

西洋の社会では、問題が起これば法律とルールを増やし、信賞必罰で安定化を図り、
日本の社会では、問題が起こればそこで和合を図り、余計なしがらみを取り除く。

企業のガバナンスという気持ち悪い言葉があるが「問題が起こったら(起こる前に)ルール作って徹底させよ」である。なんて興ざめか。日本人はガバナンスやコンプライアンスに本音では興ざめなのに、正論だから嫌でも受け入れている。

問題が起こったら法律やルールにすぐに答えを求めるのではなく、その前にすることがある。それは和合。和して合わせるというプラスの言葉なのに、その裏にあるのは余計なものを引き、手放すことだ。余計なものを引けば和するとは意味深である。

会社の中に「和合」という余計な先入観やプライドを手放し、複雑な関係のしがらみを解きほぐす「引き算の場」を作る。これが日本流経営である。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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