泉一也の『日本人の取扱説明書』第8回「発酵の国、日本」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第8回「発酵の国、日本」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 

エアコンの風がカビ臭い!

こうジメジメして蒸し暑いと、カビが生えて困る。スーパーの店頭にはエアコンを掃除するスプレーが所狭しと積まれている。

四方を海に囲まれた日本の夏は湿度が高い。そんな蒸し蒸しした気候だからこそ生まれた日本ならではの食べ物がある。納豆に味噌に漬物にお酒。発酵食品である。日本は発酵食品の種類もうまさも世界最高峰と言われている。

暑くてジメジメしていると食べ物は腐りやすいのに、その環境を逆に利用して発酵させると、保存の効くうまい食べ物ができる。ヤクルトを飲むとヤクルト菌シロタ株が腸内で発酵を促して体の免疫力を高めるように、また結核の薬となったペニシリンがカビから発見されたように、腐敗な存在(陰)から価値(陽)が生まれている。そんなヤクルトも発売当初は「菌を口にするとは!」と反発にあっていた。

世界でも幸せ感が低くストレスフルな日本人が長寿であるというのは、発酵食品のお陰ではないか。つまり発酵は、日本人を元気にさせてきたといえる。この発酵のプロセスを知り応用すれば、日本人の意識も人間関係も腐らず、いい味を出し保存もきく(長続きする)ようになるだろう。

発酵を陰陽論的に解説すると「陰極めれば陽となす」=「陽転」のことである。この陽転の過程では、「陰中の陽」となる存在が必要である。それが発酵菌と発酵させる環境だろう。陰陽を表す太極図を見ればイメージできる。陰が太く広がっているところに白丸のポチがある。これが陰中の陽である。

ヤクルト創始者の代田稔博士は、腸内でおこるこの過程に注目し、発酵菌である乳酸菌シロタ株を発見し培養に成功した。それを、薬ではなく子供達に飲みやすいジュースとして、それも人の手を介したビジネス(宅配という)として世界中に広めた。宅配するヤクルトレディさんたちはまさに発酵菌のごとく、家庭に職場にヤクルトを配達している。発酵の文化が世界に広がった素晴らしい事例だろう。

 

 

先日、ヤクルトの販売会社さんにて場活プロジェクトの打ち合わせを会議室で行なったが、そこに「天の時、地の利、人の和」と代田博士直筆の書が飾ってあった。ここに会社を発酵させる極意が隠されている。発酵のタイミング、発酵の舞台、人の関係性、この3つがそろった時、会社は発酵する。人も組織もいい味を出して長期に存続する会社になるのだ。さて、この3つの条件を会社は揃えているだろうか。

天の時とはタイミング。つまり、我々は自然の絶妙なタイミングの上に生きているがそのタイミングを感じているか。お酒をつくる杜氏さんたちは、季節の移り変わり、温度・湿度・気圧の移り変わりを肌で感じながら、手をいれたり放置したりする。このタイミングを掴む感覚。

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