泉一也の『日本人の取扱説明書』第9回「山との国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第9回「山との国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

日本は山国。年中、飛行機で日本中を移動しているが、窓から見る日本は山、山、山。国土の7割が山地か丘陵地。新幹線に乗っても、トンネルだらけ。そんな山間地に田んぼがたくさんある。平地と比べ何倍も労力がかかる山間地の田んぼ。岡山県美作市上山の棚田を何度となく訪れたが、そこには日本の原風景を感じる別世界がある。

日本人にとって山とは何なのか。朝、富士山が見えると自然に拝みたくならないだろうか。新幹線から富士山がくっきり見えると、なぜか天運に恵まれるような気にならないだろうか。富士山、立山、白山は三大霊峰というが、日本には山岳信仰がある。筑波山に高野山に比叡山と神社仏閣が山にあり、山を豪族のお墓(古墳)にしているところも多い。山は聖なる存在なのだ。京都の大文字山の送り火で「大」に点をつけて「犬文字」にイタズラした学生が、すぐさま退学職分になったという話もある。近いことをしたが、私ではない。

一方、ヨーロッパは山が少なく、平地が多い。以前スイスのアルプスに行ったが、山間地の教会はほとんど見なかった。アルプスはどちらかというと崇める対象ではなく、観光資源という感じだった。

山には森があり、谷があり、川があり、そこは食材が豊富で、木ノ実、川魚、猪に鹿に兎がいる。生活のベースとなる衣食住を山が与えてくれた。何万年もの間、山に生かされ、山と生きてきた日本人。しかし、今の山は荒れ、保水力が失われ斜面を支える樹木がなく、豪雨になれば簡単に土砂崩れを起こし、流された樹木が川を堰き止め洪水を起こす。山から熊に猪に鹿が人里に現れて田畑を荒らし、時には人を傷つける。

戦後、経済発展のために広葉樹を伐採し、針葉樹に変えた。当初林業は活気を帯びたが、安い外国産の木が大量に輸入され、日本の林業は急速に衰えた。結果、間伐など手入れされなくなり、ヒョロヒョロの木ばかりになった。山は豪雨に弱くなり土砂崩れと洪水を起こし、さらにヒョロヒョロの樹は花粉を大量にとばす。山の果実は減り、山の動物は人里に現れた。腐葉土が少なくなるので、それを通った地下水は栄養が不足し、川や海の魚が育ちにくくなった。なんと、今のこの状態を予見されていた植物研究者が、戦後のこの政策に反対されたそうだが、経済発展を優先とのことでご意見は取り入れられなかったそうだ。そのお方とは昭和天皇だったという。

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