泉一也の『日本人の取扱説明書』第19回「他力の国」

明治になって文明開化という名の下、西洋的な個人主義(個人の権利、自由・平等・博愛)が日本にドーンと入ってきて、その魅力的な部分ばかりがクローズアップされ自力社会へとかわっていった。個人主義は自立を促し、権利を守るという意味では素晴らしい思想であるが、その分、他力社会の良いところを失わせてしまった。わざわざ具体例を書くまでもないが、例えば自らを「みずから」と読むのが標準となり、「おのずから」という読みがほとんど使われなくなったように。

他力とは「おのずから」である。自然といってもいいだろう。その自然を仏法に見出したのが法然さんだった。おのずから事が自然に流れていく。おのずから大自然は多様性に富んだ美しさと豊かさを産んだ。そして我々は大地に太陽に雲に風に海に山に川に生物に大自然という無料の先生が身近にゴマンといる。八百万の神のごとく。自然界の原理原則にあわせれば、自力で無理をしてブラック企業にならずとも、優劣や貧富の差をつけて頑張らせなくとも、豊かさが得られるのである。なんてことをいってるからお偉い役員さんから出禁にされるやわ(笑)

企業の研修はほとんどが不自然である。とって作られた感じ。その場だけの感じ。優等生ばかりが注目される感じ。講師はまるで牧師さんのように綺麗な教義をスピーチする。現場感覚と乖離している。個人主義の魅力に目がいったように、研修の魅力に真面目な教育部門は目が眩む。他力社会の日本に、こうした欧米型の研修は合わない。囲炉裏を囲み、膝を付き合わせ、語り合いながら全員が八百万の神となり、おのずから学んでいくのが他力社会の学習スタイルなのである。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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