泉一也の『日本人の取扱説明書』第35回「士の国(後編)」

この現場主義が武士たちの精神性の根本にあったからこそ、武家社会となってから貧しき大衆を救うという思想の新宗教が日本中に広まったのだ。武家社会の上に立つ将軍、副将軍、お奉行といった人たちが、火消しの居候となり、全国行脚するご隠居となり、入れ墨のある遊び人となって市井(現場)で活躍する時代劇は、現代日本人に大人氣である。下町ロケットに出てきた帝国重工の社長が金さん役だった杉良太郎さんだったのもサムライ文化を彷彿させる。おそらく武家社会は大衆から人氣があったから、戦国時代という混乱期以外、六百年間は平和で安定的な社会を維持できたのだろう。

明治以後、文明開化といって西洋の真似をしたことで文明は発展したが文化は大きく後退した。西洋の貴族に舐められないよう鹿鳴館を作り、貴族制を導入し特権階級の社会に逆戻りさせてしまった。逆戻りさせたのも元武士たちだったわけだが、それを目の当たりにした当時の士族たちの憤りと無念さは想像に難くない。

現代日本には国を統治する特権階級はないが、貧富の差による学歴格差、就職格差、さらなる所得格差という循環があり、そこから抜け出せない苦しさが増幅する装置となっている。この苦しさは、子供の虐待、いじめ、若者の自殺、半グレ集団を生み出し社会問題となっている。この悪循環装置から抜け出すための新しい装置が必要なのだが、貴族社会から武家社会に移行させた鎌倉武士たちに今こそ日本人は学ぶ時だ。まずはマクロスを見て学ぼう。「鎌倉、覚えていますか」この意味がわかるはずである。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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