泉一也の『日本人の取扱説明書』第55回「伝承の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第55回「伝承の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 

現在に残る「世界最古の国」を知っているだろうか?それは日本である。なんと王朝が二千年以上続いている国なのだ。歴史ではなんとなく王朝が変わっているイメージがある。遷都をしたり、幕府が変わったりと・・幕府の長である征夷大将軍は天皇から任命された存在であり、幕府が変わるのは今の政権交代と同じである。その交代を起こすのが武力による戦争なのか投票による選挙なのかの違いである。ちなみに、征夷とは辺境の地を征服するという意味であり、天皇からその役割を任命されたということ。同じ読みである正位(正式な位)をイメージしてしまうが、意味は全く違う。

ちょうど元号が変わったので、なぜ日本は元号が必要なのかを考えるいい機会だったはずである。西暦に統一すれば変更がないので、様々な変更作業が減るから効率的なのに、と思った人も多いだろう。元号を続けるのは、日本が伝承の国である証拠。西暦というただ数字が増えていく暦よりも一つの王朝が続いている事に価値を置いているのだ。

伝承に必要なのは3つある。一つ目は「お家」。原則、長男がその家を引き継ぐという血縁のつながりがその伝承を確かなものにしている。生まれながらにして伝承を背負う宿命に向き合ってきた人物が長に就くことに意味がある。歌舞伎のような伝統芸能の世界でも同じことが見られる。そして二つ目は「品格」。磨かれた専門技術、磨かれた儀式(作法)、磨かれたコミュニケーションがそこにある。人として尊敬されるあり方といっていいだろう。最後は「伝説」である。伝説とは大切な価値を感じさせる物語のことである。そこに人間の業が描かれていれば「人と社会の理解」に通じ、美談や奇跡を起こした話があると「誇り」が生まれる。日本では神話がベースにあり、そこから民話が無数に生まれている。

このお家と品格と伝説を2千年間守り続けてきたということに価値がある。それが、日本という社会の核にあり、この国の強さでもあるのだ。仏僧を皆殺しにした織田信長ですら皇族を滅ぼそうとしなかったのは、守り続けてきた「威」に「力」では到底及ばなかったのだ。

 

では現代にその「威」は伝承されているのだろうか。確かに皇室というお家が続き、元号が存続し、その品格では各国のトップに尊敬を得ている。しかし、伝説はどうであろう。伝説を知っているだろうか。ほとんどの日本人はその伝説を知らない。伝説による「誇り」が消えたことで、国への誇りと日本人としての誇りが消えたといっていい。この誇りとは自己肯定感に通じ、自信の源となる。誇りがあれば、別に褒めなくてもいい。最近、もっと褒めようという動きがあるが、それは自己肯定感の低さから来ている。

太平洋戦争はこの伝説が間違った方向で使われ、その誇りが暴走し、世界中に特にアジア諸国に多大なる被害を生み出したという認識があるとしたら、この伝説は逆効果になる。もし逆効果となるならこの伝説は手放すしかない。そして同時に「人と組織の理解」も失うことになり、人と組織は目標達成のただの手段となる。敗戦の際、日本が二度と誇りを持って歯向かわないように国力を弱らせ、従順な手段(手先)となってもらいたいという強い意思が働いたのは想像に難くない。

では、これからどうしたらいいのか?それは伝説を自分たちから作ればいい。これまでの伝説をお手本にしながらである。例えば日本の国であれば伝説の価値を見出し、憲法を一から作り直せばいい。企業の活性化も同じで、先人たちの伝説を学び、見本にし、現代の環境でその伝説をリライトしていくのだ。実行する内容や手段は違っても、その底辺にある価値は変わらない。皇室にはお家と品格を守っていただき、民は民話を無数に作っていけばいい。いつかそれが、神話になっていくだろう。

場活とは人と組織の理解であるが、日本の伝説を基本にしている。30世代後に、私が場活神話に登場するかもしれない。酒飲みで熱苦しいから組織から煙たがられ、陰の国に流れついた荒んだ場活王として。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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