泉一也の『日本人の取扱説明書』第60回「公の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第60回「公の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

世界一の発行部数を誇る新聞を知っているだろうか。それは讀賣新聞である。朝刊だけで847万部が日々刷られている。押し紙といって販売店に卸された部数なので実際の読者数ではないが、それを見込んでも相当の数である。さらには、第2位に朝日新聞、第6位に毎日新聞、第10位に日経新聞と続く。日本人は「どんだけ〜」新聞好きなのか。

ちなみに、私は子供の頃から母親に「新聞を読みなさい」と言われ続け、仕方なくTV欄をじっくり読んでいた。そのお陰でTVっ子になった。その母は孫に「こども新聞」なるものを買い与えている。新聞信仰と言わざるを得ない。

これほど新聞が日本で普及をしたのはきっと訳があるに違いない。新聞は世の中のニュースが主であるが、日本人はそのニュースを知りたい民族なのである。世の中がどうなっているのか、今どんな事件があり、どんな人が生きていて、最近面白いことはないのか、おっと驚くような刺激はそこにないのか。世の中のこと知りたがり民族と言えるだろう。

そしてそのニュースがネタになって、会話に花が咲く。一人一人がコメンテーターになって好き放題意見する。ニュースは酒の肴のごとく使われるのだ。ニュースには政治、経済、法律、科学、外交といった知識人たちが必要とする情報がふんだんにあり、一般ピープルも知識人モドキになれてしまう。ステテコを履いた庶民親父が若者を前にして、ビール片手に鼻息荒く政治談義をしているシーンは容易に眼に浮かぶだろう。親が子に新聞を読めというのは知識人になれそうな感があるからだろうが、政治談義の親父が成れの果てだ。

元に戻すが、つまりである。日本人は世の中と繋がりたいという欲求が強烈にあるのだ。繋がりたいというのは逆をいうと繋がってないと不安になる。その欲求と不安の頂点に讀賣新聞が君臨し、新聞帝国を作った。さらにその新聞各社がラジオ局とTV局を作り、電通をはじめとした広告会社と結託して日本のマスコミ業界を発展させ、流行と大量消費を促してきた。マスコミ業界が日本の内需を拡大させた貢献は大である。

本来、日本人が持つ「世の中と繋がりたい」といった欲求はどこから来るのか。それは「公」である。私と公の間で人間は生きているが、その公を感じとるセンサーが日本人は高いのである。周りの目を氣にしすぎるのも、公のセンサーと関わっている。

では「公」とは何か。その正体とは全体最適、全員幸せになるようにと考える「智」であり、それを願う「親心」である。智と親心が「公」を生み出し、生きている中で随所に「公」を感じ取るのである。天皇のお言葉からはその智と親心を感じるのは、天皇は公の象徴であるからだ。公を感じるからこそ、世の中のことが知りたい(智への欲求)、繋がりたい(親子愛)となるのである。

そんな公の意識が高いはずの日本人は新聞を読まなくなり、投票をしなくなった。特に若い世代は顕著である。これは世の中全体で公の視座が低くなっている証である。全体最適、全員が幸せになるための智と親心は消え、SNSでランチの写真をアップしていいね!で公と繋がろうとする「私」の国とならんとしている。なぜ公が消えかかっているのかは過去のコラムにゆだねるとして、その現実を眺めてみてどう感じるのか。

政治談義の親父たちの出番は今ここにある。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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