泉一也の『日本人の取扱説明書』第74回「無常の国」

生物とは生と死の間にいる。命はその間で輝く。エビデンス、見える化、論理といった世界に埋没すると、間がなくなり命は輝きを失う。西洋かぶれをした日本は、間を失い本来の輝きが消えそうである。

企業の研修で、受講者が求めるもの。それは「どうしたらうまくいくのですか?」「どうしたらそれができるようになるのですか?」ハウツーと成功法則である。原因と結果の間の答えが欲しいのだ。ハウツーも成功法則も自然現象の中で風化するものであり、その答えを聞いた瞬間から「死」に向かうのに。

自然が無常だとすれば、無常にこそ答えがある。ということは答えがないということだ。この論理的矛盾の間に、命の輝く世界がある。

結局はこのコラムも無常であり、書いてあることに意味はない。もちろん価値もない。価値があるとしたら、読んだ人の心の間にある。読者自身の自分との対話があり、そこから生まれた泡こそが価値なのだ。その泡も消えて無くなるが、それでいいのだ。

絶対的正義や絶対的教義などない。絶対的答えを求めても、何も得られない。無常を感じる自分のあり方の中に泡のような答えがある。どっちみち消えて無くなる答えである。それに捉われなければ、自然の流れに乗ることができる。よって絶対的な教えをする組織や講師がいたら要注意である。

話を本題のビールに戻すが、居酒屋で生ビールを頼んだときに、泡の全くない生中が出来てきたらどうだろう。すごく損をしたような氣持ちにならないだろうか。たいして中身は変わらないのに、泡が必須なのだ。ほぼ空氣な存在で、置いていたら消えてしまう泡に価値を感じる。泡をいい加減に扱う居酒屋が儲からないのが納得できるだろう。

無常は探しても見つからない。両極の世界の間に自然と生まれるもの。両極を知れば、それが無常なのである。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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