泉一也の『日本人の取扱説明書』第86回「コンプレックスの国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第86回「コンプレックスの国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

日本にある映画館には約3千のスクリーンあり、そのうちシネコンに約2千のスクリーンがある。既に2/3がシネコンということになる。

シネコンとはシネマ・コンプレックス。5つ以上のスクリーンがある複合型映画館である。コンプレックスというと劣等感というイメージであるが、com(共に)+plex(折る)が語源であり、「複雑に織り込まれたイメージ」を形容する言葉である。日本の伝統文化「折り紙」を連想させる。

複雑に織り込まれた心の状態が劣等感になるのだが、劣等感とは陰陽の両極が心の内側に織り込まれてしまった状態である。ややこしい話なので、解きほぐしてみよう。

例えば、あなたが「美しさ」への感度が高いとしよう。美的センスが高ければ高いほど、美しくない状態=醜さ、汚さが目立つ。光が強いと影が濃くなるのと同じで、その醜さと汚さをより意識できてしまう。そうすると、自分の醜さと汚さが浮き立つので、自分への嫌悪(影)が強くなる。これが美へのコンプレックスとなるのだ。

つまり、美的センスの高さ=陽と、自分の醜さと汚さ=陰が心の中に織り込まれると自己嫌悪のコンプレックスになるわけだ。さらに理解を深めるためにもう一つ例を出してみよう。

人前でうまく話せないことがコンプレックスの例だ。その両極とは、陽=「人の時間を大切にしたい、喜んでもらえる場にしたい、人に好かれたい」、陰=「自分には人を喜ばせる話力はない、人の時間を無駄にしてしまう、人から嫌われる」であり、この両極の心が複雑に絡んでしまい、人前で話すというシーンをイメージしただけで、自分が嫌いになり氣が滅入るのだ。

コンプレックスはネガティブな感情であるが、その裏にはポジティブな感性が隠れていて、その感性を活かせたら折り紙のごとく価値が生まれる。ゴッホが自らの耳を切り落とし、その自画像が圧倒的な価値に変わったように。

このコンプレックス理論を活用すると活性化の道が見えてくる。日本を活性化するためには、日本人に共通するコンプレックスを価値に変えればいい。日本は、大陸極東の僻地であり、小さな島国であり、背かっこうは小さく、顔はのっぺりしていている。幕末は270年も鎖国をしていたので、文化的流行から遅れ、近代文明からはるかに遅れていた。

このコンプレックスを価値に変えたのが明治・大正時代の文明開化であり大正デモクラシーであった。世界史上稀に見る勢いで欧米化と経済成長をした。戦後も同じエネルギーで成長を遂げた。しかし、ここ30年はパタリと成長が止まり、停滞期にはいっている。欧米化の目標をほぼ達成し、成長の原動力コンプレックスが底をついたからだ。

残っている日本人のコンプレックスがわかれば、成長の原動力が見つかる。それは何かというと「ルーツ」である。あまりにも急激に欧米化したので(一時期は強制的にさせられたので)、その間に日本のルーツを見失ってしまった。一体自分たちは何者なのか。今の日本の良さや悪さが一体どこから来ているのか。あまりにも知らない。外国人から聞かれても答えられない。

どこの国でも歴史を学ぶことで、そのルーツを知るのだが、日本の場合は受験のための歴史教育であるので、ルーツの学問になってない。縄文時代や弥生時代のことを知っても、現代の我々とは完全に切り離された「知識学習」である。たとえ詳しくなってもクイズ王になるのが関の山である。

今年は東京でオリパラがあるので、コンプレックスがより際立ち、ルーツを求める人が増えるはずである。であれば、先手を打ってルーツを価値に変える商品・サービスを作っておけばいい。商売になるのはもちろん、日本の活性化にも繋がる社会事業である。この取説コラムはその入口なのだ。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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