泉一也の『日本人の取扱説明書』第92回「お灸の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第92回「お灸の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

「言うこときかなんだら“やいと”すえるぞ」

子供時代、親によく言われた。そんな脅しにも屈せず、親の言いつけを守らなかったので、ついには “やいと”をすえられることになる。うつ伏せで全身を押さえつけられ、やいと(もぐさ)が背中におかれる。そしてシュッとマッチをする音が背中越しに聞こえる。親は火を付ける振りをしただけだろうが、その時の恐怖感は40年たった今でも体が覚えている。それぐらいの恐怖を与えないと言うことを聞かないぐらい強い意思のある子供だったのだろう。

一般的には厳しく戒めることを「お灸をすえる」というが、そもそもお灸とは健康にいいものである。お灸とはツボに熱とエキス(精油)を与えることで氣の流れを良くし、血やリンパの流れを促し、さらに免疫力を高める“痛み”であるが、その視点から見ると児童虐待的な“やいと”も、違った景色に見えてくる。それでも自分の子供に“やいと”はしないが・・

お灸の凄いところは身体的な氣の流れをよくするだけでない。煙とその香りが心を癒す。似たものに線香があるが、故人にお線香を上げることで、その匂いを嗅ぎ、立ち上る煙を見ながら故人を失った悲しみを癒す。お灸は仏教とともに中国から伝わったと言われているが、線香とそのルーツを同じするのだろう。

多くの物質は焼けて灰になり、その灰が土に戻ってまた新しい命を生み出すが、その循環の中に人間の身体もある。そして魂さえもその循環の中にいる“輪廻”を説いたのが仏教なので、線香と灸が仏教の教えと繋がってくるのがわかる。

我々の身体と心はエネルギー=氣で動くわけだが、その氣の本質は生と死の循環にある。その循環を促して健康を生み出すために“痛み”を伴うのが東洋医療の思想であるが、その視点から見ると現在世界的流行を見せている新型コロナウイルスによって引き起こされる“痛み”はどんな循環を促しているのだろうか。

新型コロナによって世界のお金、モノ、人という流通が止まっているので、循環を促しているとはまさか思えない。感染したら2週間は隔離もされてしまう。お金・モノ・人の循環が止まっても、循環が止まってないものがある。それは情報。より情報は活性化している。在宅勤務となりその分、遠隔で情報を交換する必要が出てくる。遠隔でも衆知を集めて新しい価値を生み出す必要も出てくる。

世界全体が新型コロナによってお灸をすえられているとしたなら、情報という氣の流れをよくすることで、新しいお金・モノ・人の循環を生み出す健康社会に変われという厳しい戒めだろう。満員電車という濃厚接触は意味をなさず、うわさ、悪口、批判、自分だけが利を得るといった情報を流通させても、何も生まれないと知る時がくる。痛みという陰が極まって始めて健康が得られる。つまり、新型コロナがトリガーとなって、お金・モノ・人が循環をしなくなり「死」という痛みに直面してはじめて健康的な情報が循環をし始めるわけだ。

我々は本当の情報革命の真只中に生きているのだろう。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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