泉一也の『日本人の取扱説明書』第95回「同期の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第95回「同期の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

年齢を確認するときの会話。

A「Bさん、何年生まれです?」
B「昭和49年、だけど早生まれなんです」
C「じゃあ、学年いっしょやん!なんや、同級生かいな」

人との関係で年齢は意識しても「同級生」をここまで意識する国は他にないだろう。なので「早生まれ」の情報は大切である。おそらく「早生まれ」を表す外国語はない。

TVを見ていて芸人たちの会話でも「芸歴15年なんですが、Aとは同期なんですよ」なんて発言を耳にする。

浪人をして大学入学した時に、同じ年齢でも1学年上の先輩には敬語を使う。まして2浪以上すると年下に敬語を使うことになる。この頃に、日本人は年齢よりも学年の上下が強いと実感し、その分同期との関係が深くなることを知る。

ドラマのタイトルにもなった「同期の桜」という言葉があるが、これは日本を代表する軍歌であり、特攻隊員たちに大いに流行した。「貴様と俺とは〜♪」というフレーズを聞いたことがあるだろう。特攻隊員たちは「死」に臨む中で、同期という横のつながりを家族以上の絆として感じ、共にお国のために桜のごとく美しく散る「喜び」に転化したのだ。

同期とは「運命共同体」である。上下の関係を超え、個人の役割を超越した横の関係。この深い絆を結ぶことで死という恐怖にも臨めるパワーを得てしまう。そういえば若い頃、月に400時間働いていた時、深夜になって残っている人たちは、部署、役職、年齢を超えて同期感があった。その時間帯になるとなぜかざっくばらんに話ができ、疲れが癒されさらに会社の情報をよく知ることができた。運命共同体的なつながりがあったのだ。

特攻や深夜残業などといった究極の状態で同期になるのではなく、日常に同期関係を築いて活かせるはずである。しかし、今の企業組織には同期が消えようとしている。一括新卒採用、年功序列、終身雇用では同期関係は自動的に生まれたが、崩れ去ろうとしている。そのうち、プロパー・中途なんて言葉が日常から消えるだろう。

日本の企業組織に求められているのは、新しい同期を生み出す場である。その一つの解決策は「学友同期」である。一緒に学び成長する場。同じ時間と空間の中で、共通の難題に臨む。そこでは結果を出すことよりも互いに学び成長することの方に価値がある。ちなみに仕事は結果優先なので学友同期が生まれにくい。

学友同期の関係を作る場に人・モノ・金・時間を投資し、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を高めるのは経営者の仕事である。しかしそれに氣づいている経営者はあまりに少ない。私の経験から300社の場活の中で、学友同期を作る格好の機会である「場活」に参加した経営者はたった15人程度。5%である。社員と運命共同体になればどのくらい経営がうまくいくのかがわかっていないアンポンタンである。

最近では40代からのリストラが流行ってきているが、一括新卒、年功序列、終身雇用という慣習の中で甘やかされた日本の経営者95%がこれから一番のリストラ対象になるだろう。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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