人からスタートする経営

給料の額や、休みの日数など、
損得を基準に比較をすれば、仕事に優劣が生まれる。
誰から見ても給料は高い方がいいし、
休みは多い方がいいからだ。

だがこの指標を「好き・嫌い」や
「得意・不得意」に置き換えると、
優劣をつけることは難しくなる。
その基準は、人によって大きく異なるからだ。

たとえば人と話すのが苦手という人もいれば、
デスクワークが死ぬ程嫌だという人もいる。
書類整理が得意だという人もいれば、
受付業務が大好きだという人もいる。

ある人にとっての「好き」が、
他の人にとっての「嫌い」であったり、
ある人にとっての「苦手」が、
他の人にとっての「得意」であったり。
つまり仕事の優劣は、それをやる人によって変化するのである。

だったら「好きなこと」や「得意なこと」を仕事にすればいい。
素直に考えればそういう結論に至るはずなのだが、
現実の世界はそうなっていないから不思議である。

嫌なことでも我慢し、ストレスを貯めながら、
生活のために働いている。
そういう人が世の中にはたくさんいる。
しかも、給料や休みなどの条件も、
それほど恵まれているわけではない。
彼らはなぜ、そのような仕事を選ぶのだろうか。

それは私たちの中に「仕事とは辛いものである」という常識や、
「報酬は我慢と引き換えに受け取るもの」という常識が、
刷り込まれているからである。

とは言っても、そんな常識を誰かが意図して
刷り込んだわけではない。
現代社会における労働の仕組み自体が、
その常識を生み出してしまったのである。

現代社会における労働の基本は事業だ。
まず、誰かが何らかの事業を始める。
事業を推進する上で、必要な仕事がどんどん生まれて来る。
その仕事に値段をつけ、働く人を募集する。

採用された人は報酬と引き換えに、指示された作業をこなす。
労働条件で人を集め、労働条件で仕事を決める。
その結果、やりたくもない、
得意でもない仕事が、増えていくのである。

では、やりたい仕事や得意な仕事を増やすには、
何が必要なのか。
求められているのは、事業からスタートしない、
人からスタートする新世代の経営である。

そもそも人には、
変えようのない「好き嫌い」や「得意不得意」がある。
それならば、そこから仕事をスタートさせればいい。

まず、一人ひとりの
「やりたい」と「やりたくない」に注目する。
誰かにとっての「やりたい」は、
他の誰かにとっての「やりたくない」かもしれない。
ならばそれを、入れ替えればいいのである。

世の中の「やりたい」を集めて「やりたくない」と入れ替える。
あるいは「やりたくない」を集めて「やりたい」と入れ替える。
入れ替えることによって世の中から
「やりたくない」が減り「やりたい」が増える。

仕事の効率は上がり、入れ替え業者は儲かり、
働く人はハッピーになる。
いい事尽くめである。
では誰もやりたがらない仕事はどうすればいいのか。
そういう仕事こそ、
ロボットやAIに奪わせてあげればいいのである。

 


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