お金にならないアイデア

 

人類がこれまでに考えたアイデアは、
どのくらいあるのだろうか。
ちょっとした思いつきや、実現されなかったアイデア。
そういうものまで含めると、
数えきれないくらいのアイデアが考え出されたはずである。

素晴らしいアイデア、陳腐なアイデア、
革新的なアイデア、二番煎じのアイデア、などなど、
多種多様なアイデアがそこには含まれている。
ではその中で、お金になるアイデアとは、
どのようなものだろうか。
巨大マーケットを生み出す、
iPhoneや癌の特効薬のようなアイデアだろうか。
それとも、利益に直結するような、
新商品や新サービスのアイデアだろうか。

実はお金になるアイデアなど無い。
というか、アイデアはそれ単体では意味をなさないのである。
例えるならば、アイデアとは金庫の鍵のような存在だ。
大金の入った金庫とセットにすれば価値はあるが、
金庫が存在しない単体の鍵には何の価値もないのである。

発想力に自信がある。
そういう人間に限って、
アイデアそのものをお金に換えようとしてしまう。
つまり、コンサルタントのような仕事を
イメージしてしまうのである。

確かに世界には、何億円も稼ぐコンサルタントが実在する。
だが彼らが売っているものはアイデアではない。
そこに気がつかない限り、
稼げるコンサルタントには、なれないのである。
では何故、アイデアは単体では価値がないのか。

答えは至って簡単だ。
それは、アイデアを買いたいという顧客がいないから。
つまりは、需要が無いからである。
たとえば市場に行って、あなたはアイデアを買うだろうか。
「このブリは、しゃぶしゃぶにすると絶品です」と言われて、
そのアイデアに金を払うだろうか。
金を払うのは、ブリしゃぶというアイデアではなく、
ブリの切り身に対してである。

アイデアを盗まれた!などと騒ぐ人がいるが、
アイデアなどは盗まれて当然のものなのである。
何故ならそれは、まだ誰のものでもないから。
飛行機を作って空を飛ぶ、というアイデアも、
原子核からエネルギーを取り出す、というアイデアも、
盗むのは簡単だ。

だが実際に飛行機を飛ばし、
安全に、時間通りに、運行することは簡単ではない。
原子力発電所を作り、
安価で安全な電気を供給することは簡単ではない。
価値があるのはアイデアではなく、
そのアイデアをお金に変える仕組みの方なのである。

斬新なアイデアを持ち込めば、
喜んでくれる経営者もいるだろう。
きっと、晩御飯くらいはご馳走してくれるに違いない。
だがそのアイデアから出た利益を、
山分けしてくれる経営者などいない。
ケチなのではなく、アイデアとはそういうものなのである。

アイデアをお金に変えたいのなら、
儲かる仕組みは自分で考えなくてはならない。
アイデアを商品化し、品質とコストを管理し、
売り方まで考える。
商品が売れ、利益を生み出す仕組みが整った時、
アイデアは初めて売り時を迎える。
だが、その時には売る気を失くしているだろう。
なぜならそれは、
膨大なエネルギーと情熱を注ぎ込んだ結晶なのだから。


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