アートの売り方

絵画やオブジェなど、
アートという商品を扱うビジネスは、日本にも存在する。
アートビジネスに必要なのは目利きだ。
作品の真贋を見極める目、
そして、アーティストとして大成する素材を見極める目が、
このビジネスには不可欠なのである。

ヨーロッパでは、純粋に絵やオブジェが好きで、
お金を払う人が一定数存在する。
だから無名のアーティストでも、
路上に並べた絵画が売れたりする。
彼らにとってアートは身近な存在であり、
気に入った絵を衝動買いして家に飾ることは、
普通のことなのである。

だが日本では事情が違う。
お金を出して絵を買うという習慣も、
買った絵を飾るという習慣も、一般的ではない。
そもそも日本の住宅は狭すぎて、絵を飾るに足る大きな壁や、
オブジェの似合う大きなリビングが、圧倒的に少ない。
だから日本では、資産として価値のあるアート以外には、
ほとんど買い手がつかないのである。

資産として価値のあるアートは、
売ろうと思えばいつでも売れる。
つまり、換金性が高いのである。
それは、マーケットにおいては金やダイヤモンドと同じ。
だから絵を買う習慣のない資産家も、投資として、
あるいは飾れる資産として、絵を購入する。
だからこそ、作品を見極める目は、
このビジネスには絶対に不可欠な要素となる。

ではこのようなマーケットにおいて、
資産価値のないアートを売ることは不可能なのだろうか。
あるいは、目利きの出来ない経営者が、
アートをビジネスにすることは不可能なのだろうか。
実はこの、アートを売るという能力こそ、
これからの時代の経営者には不可欠な能力なのである。

それは言い換えるならば、
価格や機能という、
分かりやすい価値を持たない商材を売る力。
モノが溢れ、価格が下落し尽くした日本において、
利益を生み出せる商材。
それは正に、アート作品なのである。

自分ならどうやってアートを売るのか。
それを真剣に考えなくてはならない。
なぜならその答えは、
そのまま自社のビジネスに生きてくるからだ。
特別な機能を持つわけでもない、決して安くもない、
いや、そもそも安くても買わない。
そういう商品を、どうやって売るのか。

そんなモノが売れるはずがない、
と多くの経営者は考えている。
いや、考えていない。
思考は停止している。
だが現実に、そのような商品は売れているのである。
そして、さんざん値下げし尽くした、
価値のある(と思い込んでいる)商品が売れ残る。
その現実を、受け止めなくてはならない。

安くもなく、立地が良いわけでもないのに、
顧客が絶えない外食店や美容室。
そこにはアートと共通する販売戦略がある。
なぜその店には人が集まるのか。
なぜ人は価値のないアート作品を買うのか。
それは、集まる戦略、売れる戦略が、
出来上がっているからである。
アートに興味のない経営者こそ、展示会に行くべきである。
そして、経営者の頭で考えるべきなのだ。
売れるアートと、売れ残るアートは、
いったい何が違うのかということを。


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