所有を超えるビジネス

スーパーでたくさん食品を買い込み、
冷蔵庫の中が食料で満たされる。
デパートでたくさん物を買い、
クローゼットの中がバッグや洋服で一杯になる。
その瞬間の満足感はなかなかのものだ。

さて今日は何から食べようか。
どの服を着ようか。
どのバッグで出かけようか。
選択肢があることは楽しい。
だから選択肢を増やすために
たくさんのものを所有していたい。
人間なら誰もが抱くであろう所有欲。
それを満たすことによる快感。

だがその快感は意外と長続きしないものだ。
嬉しかったはずの食料や衣服は、
だんだんと邪魔者になっていく。
賞味期限は近い。
早く食べなくちゃ。
もう着ない服。
そろそろ捨てなくちゃ。
詰め込んだ古い食料や衣服はなかなかか片付かない。
見るのも嫌になる。

コツコツと片付けて
すっかり綺麗になった空っぽの冷蔵庫。
ガラガラになったクローゼット。
元に戻っただけなのにこの快感はなんなのだろう。
余計なものが入っていない。
余計なものを持っていない。
その心地よさ。

人は人生の中で所有と断捨離を繰り返す。
持つ喜びと持たない喜び。
その両方が確かに存在する。
必要以上に食べるのは食料がなかった時代の
記憶がDNAに刻み込まれているからだという。
必要以上に所有したがるのも
物がなかった時代の影響なのかもしれない。

少し前まではたくさんのものを詰め込んだ家で
亡くなる人が多かった。
今は生きている間に整理して出来るだけ持たずに
死んでいこうとする人が増えた。
持つ快感は不快感に変わり、
持たないことが快適になった。

私たちは何かの線を超えたのだと思う。
必要以上に食べる人は減っていき、
必要以上に持つ人も減っていく。
モノからコトに消費が移っていったのは
モノに飽きたからだろうか。
旅や食事や映画やスポーツ。
コトをどんなに消費してもモノは増えていかない。

もうこれ以上私たちは
持ち物を増やしたくないのだと思う。
所有せずに使用する。
所有せずに見学する。
所有せずに利用する。
それで十分ではないかと
身に染みて分かってしまったのである。

自分の持ち物を増やさないという大きなベクトル。
それが今後の人間社会を根底から変えていく。
ビジネスのあり方も、会社の存在意義も、
根本から変化していくだろう。
必要最低限のモノしか持たず、
ひとつ買えばひとつ捨てる、
あるいは欲しい人に譲っていく。
所有を超越したビジネスが
次の主役になっていくのである。


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