vol.67【『ソマ龍』|ほしい龍が見つからなかった温泉旅館の会長】

 この記事について 

自分の絵を描いてもらう。そう聞くと肖像画しか思い浮かびませんよね。門間由佳は肖像画ではない“私の絵”を描いてくれる人。人はひとりひとり違います。違った長所があり、違った短所があり、違うテーマをもって生きています。でも人は自分のことがよく分かりません。だからせっかくの長所を活かせない。同じ失敗ばかり繰り返してしまう。いつの間にか目的からズレていってしまう。そんな時、私が立ち返る場所。私が私に向き合える時間。それが門間由佳の描く“私の絵”なのです。一体どうやってストーリーを掘り起こすのか。どのようにして絵を紡いでいくのか。そのプロセスをこのコンテンツで紹介していきます。

『ソマ龍』|ほしい龍が見つからなかった温泉旅館の会長

「龍と言えば門間さん。龍を描いていただけますか?」

ある日、1通のメールが届きました。依頼者は勉強会で名刺交換したKさん。そのただ一度のご縁でした。Kさんは真言宗の僧侶。言語学者の井筒俊彦著『意識と本質』にて、本質=神仏でもあると述べているのを思い出しました。

井筒俊彦は、幼少時代に父から特別な修行を受けた体感から、「本質」を花や川など名付けする【表層】と、神仏や無やプラトンのイデアなど【深層】に区別しています。

絵を描き続けることで心の深層を感じるようになり、『意識と本質』を愛読していたので、Kさんに親近感を持っていました。

Kさんからのメールを読み進めると、
「旅館の会長から、誰か龍を描いてくれる人を知らないか?と言われて、門間さんを思い出したのです。絵の好きなひとで、画家をたくさん知っているのですが、ほしい龍を描いてくれる人がいなくて困っているのです。
実は、名刺交換のあと、時折SNSを見ていました。いくつか龍の絵も見ました。門間さんの龍なら、きっと気にいると思います。
描くにあたり、旅館の温泉にどうしても入ってほしいのです。那須塩原に来ていただけませんか?もちろん、泊まりでゆっくり。理由は来たらわかります」

いろんな画家がだめだったものを、私で大丈夫だろうか?と素朴な疑問がありましたが、数年絵を見ていたKさんがいうのだから、きっと行く価値があるだろう、と足を運ぶことにしました。

那須塩原駅から車で案内いただくと、最初に旅館の女将が出迎えてくれました。「会長は今、外で作業しているので、少しお待ちくださいね」

会長が外で作業とは、なんだろう?と思いつつ、持ってきた金龍の下絵を開きました。「『気にいる龍が見つからなくて呼ばれた』と聞いたので、私で本当にいいのか、確認いただくために、他のオーダーで描いた下絵を持ってきました」

お茶を出してくれた女将が、見た途端に「まぁ!素敵な龍。きっと会長、気に入ります。わざわざ持ってきてくれてありがとうございます」笑顔になりました。程なく、会長が現れました。

70才をすぎているのに、若々しくキビキビとした動き。笑顔で近づいてきました。そして、テーブルの上の金龍に気がつくと、満面の笑みになりました。「いい龍ですねぇ」この一言で、那須塩原まで呼ばれたお役目が果たせる、と胸を撫で下ろしました。

「龍というと、皆、鋭い爪があって怖いのを描きたがるのです。それが一般的かもしれないけれど、うちがほしいのは違う。カタチじゃなくて、どう感じられるかが大事なのです。手も玉もいらない。【強くてその中に優しさを感じさせる龍】です。旅館には、感覚の鋭い常連たちがいます。その人たちが喜ぶような龍が必要なのです」

魂を呼び覚ますような龍がほしいのだと伝わってきました。

「【目に見えないけれど、確かにあるエネルギー】を龍に具現化してほしいのです。その理由が温泉にあるので、門間さんに泊まってもらうのです。
ちょっと説明が長くなりますが、うちは源泉掛け流し100%のお湯。30年ほど前に、自分で地下1200メートルを掘り、温泉を作りました。自分で掘れば、経費を抑えられます。できることは何でもやる。数トンの石組もやりました。今でも土木作業は当たり前で、旅館を改善し続けています」

女将が「会長は作業している」といった意味が分かりました。ゼロからイチを創り出すのを骨の髄まで知っている人。一般的な型にハマった龍ではIさんが満足しない理由がわかった気がしました。

「最初は、源泉100パーセントで、掛け流しの温泉を自慢にしていました。多くは源泉を薄めるとか、掛け流しではないのです。しかし、知らないうちに『病気にいい』との口コミが広がって、気がついたら湯治に来る人が増えていました。中には医者にダメといわれて、うちで治る人もいました。
なぜだろう、と、いろんな温泉を調べたり大学教授など専門家を訪ねたりしました。すると、マイナスイオンがケタはずれに多いのがわかりました。そして、古代ソマチットという、まだ科学では認められていない微少生命体の関与があると思いはじめています」

この言葉で、科学者の中谷宇吉郎の『自然現象は非常に複雑なもので、われわれはその実態を決して知ることができない。ただ、その中から、われわれが自分の生活の中に利用し得るような知識を抜き出していくのである』を思い出しました。解明されなくても存在するものはある、と、絵を描くことでも実感してきました。

「ソマチットは目に見えないけれど、きっと門間さんは、うちの温泉にゆっくり入ったら感じてくれる、そう思って泊まってほしいと思ったのです」

これで、宿泊の理由がわかりました!

さて、いったい、どんなお湯なのだろう。たいして温泉に行かない私にわかるのだろうか。また新たな不安が胸をよぎります。しかし、ともかく為せばなる。入ってみるしかありません。落ち着いた気持ち良い和室に通され、用意された浴衣を手にお風呂場に向かい、温泉に触れた途端に、不安は感動に変わりました。

潤いある手触り。素人の私でもすぐにわかりました。そして、絵のイメージをつかむのに十分でした!

翌日、笑顔で迎えてくれたIさんに伝えました。
「おっしゃる通り、温泉に入ったらイメージがわきました。地下深くから、温泉と一緒にソマチットがあがってくるように、龍がぐるぐると螺旋(らせん)を描いて地表に登ってくる。そして、地表にでて、旅館の天高く登る‥‥」
「まさに、私が思い描いていたのとぴったりです。やっぱり、温泉に入っていただいてよかった、そのとおりです、それでお願いします!」
温泉を通じて得たものは、共通イメージとしてすぐに伝わりました。

旅館の龍です。大きさに見合うような、大画面に躍動する姿となって絵に現れていきました。

そして、完成した絵を届けると、旅館の常連さんたちにすぐ取り囲まれました。「すごい!生きている」「見た瞬間、金縛りにあったみたいに動けなくなりました。エネルギーが伝わってきます」「夜な夜な絵から抜け出して天空を舞っているようですね」

その様子を見て、「みんな喜んでいる‥‥。門間さん、ありがとう」Iさんがしみじみいいました。

この絵を描くのに、Iさんから特別な絵の顔料を託されたのですが、それはまた別の物語です。

 

今回完成した作品 ≫「ソマ龍」

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 著者の自己紹介 

ビジョンクリエイター/画家の門間由佳です。
私にはたまたま経営者のお客さんが多くいらっしゃいます。大好きな絵を仕事にしようと思ったら、自然にそうなりました。

今、画廊を通さないで直接お客様と出会い、つながるスタイルで【深層ビジョナリープログラム】というオーダー絵画を届けています。
そして絵を見続けたお客様から「収益が増えた」「支店を出せた」「事業の多角化に成功した」「夫婦仲が良くなった」「ずっと伝えられなかった気持ちを家族に伝えられた」「存在意義を噛み締められた」など声をいただいています。

人はテーマを意識することで強みをより生かせるようになります。でも多くの人は自分のテーマに気がついていません。ふと気づいても、すぐに忘れてしまいます。

人生

の節目には様々なテーマが訪れます。

経営に迷った時、ネガティブになりそうな時、新たなステージに向かう時などは、自分のテーマを意識することが大切です。
また、社会人として旅立つ我が子や、やがて大人になって壁にぶつかる孫に、想いと愛情を伝えると、その後の人生の指針となるでしょう。引退した父や母の今までを振り返ることは、ファミリーヒストリーの貴重な機会となります。そして、最も身近な夫や妻へずっと伝えられなかった感謝を伝えることは、絆を強めます。そしてまた、亡くなった親兄弟を、残された家族や友人と偲び語らうことでみなの気持ちが再生されます。

こういった人生の起点となる重要なテーマほど、大切に心の中にしまいこまれてカタチにしづらいものです。

でも、絵にしてあげることで立ち返る場所を手に入れることができます。

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