第145回「雇用は誰が生み出すべきか」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第144回「10年雇用を基本とせよ」

 第145回「雇用は誰が生み出すべきか」 


安田

ゼロ・コロナを掲げる政治家って「何を考えてるんだろう?」って思いませんか。お医者さんが言うのは分かりますけど。

石塚

ゼロ・コロナなんて絶対ムリですよ。

安田

本気でやろうとしたら、ゼロになるまで家に閉じ込めなきゃいけない。経済が死んでしまいます。

石塚

僕はいつも「政治リスク」って言ってるんですけど。

安田

政治リスク?

石塚

「政府を信用してると、ある日突然ハシゴを外される」ってこと。「あんまり信じないほうがいいよ」って。

安田

信じてますか?国民は。

石塚

日本人はかなり信じてますよ。

安田

そうですかね。これだけいろんな癒着や裏金の問題が出てきて。重要なことは何も決めないし。何かあったらトカゲのしっぽ切りだし。これでも信じてますか?

石塚

それでも信じてると思います。

安田

へぇ~。それは「信じたい」という願望ですか?それとも長年の歴史のなかで「お上は正しい」みたいに思って。

石塚

圧倒的に後者ですね。

安田

なるほど。

石塚

だって学校で行われてる教育の内容を見たって、ひどいですよ。それでもみんな学校に子どもを預けるじゃないですか。

安田

それは他に選択肢がないからですよ。私も日本の学校教育は問題が多いとは思いますけど。

石塚

問題だらけですよ。

安田

だけど自分の子どもが小学生になったとき、学校に行かせず家で育てるかって言われたら、たぶんそうはしないだろうと。

石塚

小学校にもいろんな小学校があるし、経済的な問題はあるけれど選択肢はあるわけじゃないですか。

安田

まあ多少は。

石塚

安易に委ねすぎなんじゃないかと思う。コロナを見てて思うんですけど「最後は国が助けてくれる」と思ってる。給付金にしても何にしても。

安田

ネットでは政策への反論ばかりですよ。「飲食店にだけ6万払ってふざけんな!」みたいな。

石塚

だけど行動は何も変わらないじゃないですか。

安田

確かに。選挙をやったら自民党が勝ちますしね。文句は言うけど「最後は国が何とかしてくれる」と信じてるんでしょうか。

石塚

そう思います。自分の頭で考えないから。「人の言うことを鵜呑みにしない」っていう発想が希薄。

安田

「昔の政治家は偉かった」ってよく聞くんですけど。いつの間にかボンクラになっちゃったんでしょうか。

石塚

よく「政治家が劣化した」とは言うけど、政治家が劣化したというよりも、国そのものが劣化してるような気がします。

安田

国全体の劣化ですか。

石塚

はい。国民は国を映す鏡みたいなものなので。

安田

そういうご時世において、石塚さんが考える「いちばん大きな政治リスク」って何ですか?

石塚

やっぱり「雇用」だと思いますね。

安田

ほう。

石塚

政治リスクの最たるものは雇用。もしくは雇用を支える法律に甘んじること。

安田

「雇用を生み出すことが政治家の最大の仕事だ」って、政治家自身も思ってます。国民もそこを期待するし。

石塚

逆にいうと、政府が常に雇用を生み出すってことは、自分の頭で考えたり動いたりすることをしなくても済むっていうこと。

安田

そうですね。

石塚

終身雇用を約束してくれれば、リスクをとって何かをするってことをしなくなる。

安田

雇用を生み出すことが国の責任じゃなくなったら、個人の責任になるわけですよね。

石塚

もちろん。

安田

じゃあ、国はどこに責任をもてばいいんでしょう?

石塚

社会保障をしっかりやればいいと思う。

安田

病気や怪我で働けなくなったときの保障とか。

石塚

働けなくなったら保障はしますと。だけど僕の持論は現金支給をしないこと。ぜんぶ現物支給で「ちゃんと役に立つものをお渡しします」というのがあるべき姿。

安田

「住む場所と、着るものと、食料は支給します。けど、現金は渡さないよ」と。

石塚

はい。現金は渡さない。これだけでも相当違うと思う。

安田

とはいえ、ほとんどの国民は「生活保障の中に雇用も入ってる」と思ってます。

石塚

それが一番の問題です。

安田

「働く気があるのに雇ってくれるところがない。これは国の責任だ」って。

石塚

でも実際は完全雇用状態ですから。つまり求人数はたくさんあるんです。日本国内で仕事がないなんていうのはあり得ない。

安田

「あるのはブラックな職場か、誰もやりたがらないきつい仕事だけ」「もっとホワイトでみんながやりたい仕事をつくれ」って、みんな言ってます。

石塚

いつも言うんですけど「ホワイトな仕事」って何ですか。いわゆる現業系の仕事でもいい会社はいっぱいあるし、社員満足度が高い会社もある。

安田

ありますけど。みんなが入れるわけじゃないってことでしょう。

石塚

本当にそういう会社で働きたいんだったら、「どうすれば入れるのか」ってことをもう少し考えてもいいんじゃないかと思う。

安田

そこはやっぱり「国の責任だ」って思ってるんですよ。「お上が決めた制度が悪いんだ」って。

石塚

僕の理想は小さな政府。「必要最低限のことだけ」をやる。弱者切り捨てじゃなく保障はちゃんとしますと。その代わり現物支給ですよって。

安田

それ以上を求めるなら自分で頑張りなさいと。

石塚

7しかできないんだったら残りの3は応援する。「まずは自分の足で立つことをちゃんとがんばってくださいね」って。

安田

いつから日本人はこうなったんでしょう。「雇用先がないと働きたくても働けない」って。

石塚

戦後すべての雇用を会社が生み出したからですよ。

安田

なるほど。

石塚

その時間が長すぎたってことですね。親が会社に勤めているのが当たり前。だから「仕事といったら就職」という感覚になってしまう。

安田

自営業の人たちを「会社員になれなかった人」って目で見たり。

石塚

そうなんですよ。「たけし、ああいうふうになっちゃダメよ。ちゃんと勉強していい大学行かないと、ああいうおじさんになっちゃうよ」って(笑)

安田

その時代はもう終わったんじゃないかと思いますけど。

石塚

おっしゃる通り。会社が長期雇用を保障できなくなった。

安田

ですよね。

石塚

ビジネス環境の変化が速すぎて、長期的な見通しなんて立てられないです。

安田

 5年先もどうなるか分からないですもんね。

石塚

10年保障がせいぜいじゃないかと思います。

安田

たとえばGoogleやAmazonでも10年後は不安でしょうか?

石塚

何が起こるかなんて誰にもわからないです。一瞬にして変わることもありますから。

安田

ましてや日本企業は厳しいでしょうね。

石塚

最大のジョークは銀行の倒産ですよ。「日本長期信用銀行」なんて名前までつけて。なんとあっけなかったことか。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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