第147回「破壊的イノベーション」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第146回「終身雇用の番人」

 第147回「破壊的イノベーション」 


安田

星野リゾートさんが「自社の倒産確率」を社員に発表しました。

石塚

星野さんらしいな、うまいなと思います。

安田

すごい優良企業ですけど。さすがにコロナで倒産の危機みたいなのがあったのか。

石塚

基本的には社内施策ですよ。

安田

社員さんも「うち大丈夫なのか?」という不安があるらしくて。

石塚

でしょうね。この状況ですから。

安田

で、社員さんに「うちはこのままだったら〇〇%の確率で倒産する」って発表しちゃった。

石塚

はい。じつにうまいと思います。

安田

うまいですか?確かに記事では「逆に社員が安心して働くようになった」とは書いてありましたけど。

石塚

細かく見ればいろんな反応はあるんでしょうけど。総じて良い結果になってると思います。

安田

「このままいくと、いつキャッシュがなくなる」みたいな発表ですよ。

石塚

それを共有したことによって「がんばらなきゃいけない」という気になった。がんばった結果が「ああ、成果に結びついてる」という実感もある。いい施策です。

安田

何年も先まで「資金繰りが見えてる」中小企業なんて、ないですよね。

石塚

ないですね。

安田

だからやろう思えばどこでも出来ます。「このままいったら、うちは半年後の倒産確率が〇〇%ですよ」って。

石塚

星野さんみたいに割り切れる社長って、そんなにいないから。

安田

まあ怖いですよね。逆に社員がやる気を失くしたり、辞めちゃったり。

石塚

社員の意識を変えるにはいちばんいいと思うけど。

安田

私は会社をつぶした経験があるので、よく知ってるんですけど。不安になると社員って営業できなくなるんですよ。お客さんに勧められなくなる。

石塚

そういう人も出てくるでしょうね。

安田

「お客さんに迷惑かけたらどうしよう」って。仲がいいお客さんほど勧めにくい。営業できないから売上が下がり、さらに不安になって、さらに売れなくなる。

石塚

マイナスの連鎖ですね。

安田

倒産確率なんて発表したら「そうなるんじゃないか」という恐れがあります。

石塚

これは採用から考えるべきなんです。

安田

採用から?

石塚

はい。どういうタイプの社員を集めていくかが大きく影響する。

安田

へえ〜

石塚

いわゆるソーシャルスタイルでいうヒツジ型は、面倒なことや難しいことに後ずさりする。このタイプの社員が多いとこういう施策はマイナスになる。

安田

なるほど。

石塚

難しいことに対してチャレンジングな姿勢が強いのがライオン型。このタイプの社員、もしくはサル型の社員をたくさん集める。

安田

サル型とは?

石塚

ワクワク感で何でも楽しむ、何でもプラスに感じてしまう社員。そういう社員が多ければ逆に「こんなにピンチだからこそ、俺がヒーローになってやる」ってなる。

安田

なるほど。

石塚

すべての施策は、どんな社員がいるかによるんです。

安田

そういうタイプが日本人に多いとは思えないんですけど。安定志向で「守ってくれるなら言われた通りやる」って人が多そう。

石塚

国民気質という意味ではおっしゃる通りですね。

安田

コロナでも「国は何をしてくれるんですか?」って、みんな思ってるし。政治家も「国民は何をしてくれるんですか?」って言うばかりで。

石塚

だから採用が大事なんです。

安田

ライオン気質の人ばっかり採用できますかね。

石塚

そういう社風であることをしっかりオープンにすること。その結果やめていく人は逆にやめてもらったほうがいい。

安田

それでも組織は成り立ちますか。

石塚

直接雇用で足りなければ外注するなり、契約形態を変えるなりすればいい。

安田

なるほど。

石塚

で、取引先にも正直に言う。「うちはいつも倒産確率を示しています。だからがんばるんです」って。

安田

お客さんが不安になりませんか。

石塚

日本人って判官贔屓だから。「なるほど。だったらうちも付き合うよ」という気質があるんです。

安田

へえ〜

石塚

財務内容をオープンにするのはメリットのほうが大きいです。

安田

だけど新卒の時点で「半年後にキャッシュアウトする」とか言われたら、そこに入ろうとは思わないですよ。

石塚

採用のやり方次第ですね。もう終身雇用はやめたらいいと思う。最長10年までの契約社員にすべきです。

安田

やっぱりそこですか。

石塚

「2年契約でこういうピンチを味わってみないか」って言ったら、「いい経験だから、ちょっとやってみよう」って人もいるはず。

安田

日本人には少なそうですけど。でもそうなるべきだとは思います。

石塚

かなり高いハードルだけど越えなくちゃいけない。

安田

超える気あるんですかね。学校教育を見てるとそう思えないですけど。法律もそうなってないし。

石塚

いずれ、そちらに向かわざるを得なくなります。

安田

できるかなあ。

石塚

みんな忘れてますけど、日本人って元々壊してつくる文化なんですよ。

安田

そうなんですか?

石塚

関東大震災で崩れても、東京大空襲で焼けても、あっという間に復興しているじゃないですか。

安田

自分で壊したわけじゃないですけどね。

石塚

一回壊した方がいいです。

安田

今の日本人がはたして何割ついてこられるか。

石塚

我々は政治家じゃないから、全員を救済する必要はないと思う。行動変容するきっかけを会社がつくればいいんです。

安田

政治家では、もはや何も変えられないですもんね。

石塚

『宇宙戦艦ヤマト』もそうじゃないですか。「白色彗星が近づいてきて、地球滅亡するかも」っていう地球の危機からすべてが始まった。

安田

やっぱ外的環境ですよね。日本人の場合は。

石塚

こんなに激しく外的環境が変化するときにこそ、マイナスを共有して前に進むべきなんです。

安田

そこは大賛成です。経営者は怖いでしょうけど。

石塚

怖いけど、やらないともう企業はもたない。

安田

白色彗星が来たら慌ててやるんでしょうね。

石塚

いやいや。もう、すぐそこまで接近してますよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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