「ハッテンボールを、投げる。」vol.21 執筆/伊藤英紀
やる気次第だ!やる気だせ!と毎日せめ立てられる。
逆にやる気がしぼんでいく。でも、一瞬でも
無気力を見せたら、部長に吊るしあげられる。
だから、やる気一杯のフリして働くフリフリダンス。
事業目標とか、心の中では
「無茶だ。達成できるわけない」とあきらめているのに、
社長が怖いから、本気でめざすフリするフリフリダンス。
人間的成長とか、「いちいちうるせえなあ」と
内心では舌打ちしてる。でも給料が下がったらヤバイ。
意欲満々のフリするフリフリダンス。
会社の戦略、矛盾と違和感がすごい。が、
意見なんかしたら、干される。いじめられる。
空気を読んでお利口ちゃん。
従順なフリするフリフリダンス。
研修に金使うなら、給料上げろよ!が本心。
だがまさか、ホンネは言えない。
まあ流しておけばいいか、
とアリバイ参加して早5年のフリフリダンス。
経営者として、本当はたいして社員のことを
大事に思っていない。が、社員に恩を着せて働かせたい。
偽善的だがしょうがない。
社員思いのフリして人心を操るフリフリダンス。
嘘を重ねているのは政治家だが、
仕える官僚の私がそれをばらすわけにはいかない。
理不尽なことだが私自身に危険と損益が降りかかる。
心を殺して、損得考えて、
記憶にないフリをするフリフリダンス。
官僚にものすごい圧力をかけているのに、
正直に全部話してほしい、と二枚舌。
厚顔無恥なフリフリダンス。
新聞もあまり読まない。国の現状にもさして関心ない。
でも、それがバレてバカだと思われるのは嫌だ。
「国会審議しろよ」とネットで見た論調に
適当にあわせる。現実派ビジネスマンのフリ、
考えているフリするフリフリダンス。
勉強なんて大嫌い。塾で心がくたびれ果て、
学校ではいじめもあって、死にたい地獄の毎日。
でも、ママとパパには死んでも相談できない。
先生もクラスも見えないフリフリ。
ぼくの心は本当は死んでいるけど、
何食わぬ顔で生きているフリフリダンス。
痛ましく苛酷なフリフリダンス。
戦況は連戦連敗で、敗戦へと追いこまれている。
が、事実を伝えたら、国民の戦意が削がれてしまう。
戦意高揚こそお国のためだ!
愛国者を隠れ蓑に隠蔽と虚偽まみれ。
勝っているフリする大本営発表のフリフリダンス。
日本にはすばらしいところもある。
愚かなところもある。それは多くの国も同じ。
なのに、
「外人さんも日本大好き!驚きの国だってさ」
てな番組を、視聴率が取れるからタレ流すテレビ。
ニッポンサイコー!のフリフリダンス。
みんなあ、首を縦にフレ!
空気を読んで、まわりにあわせて腰をフレ!
ややこしいこと考えずに、
今日も前向きに、フリフリダンス!
フリフリダンスは、いつの世もある。
決してこの世から消えない。
僕もつい踊ってしまう。
でも、フリフリダンスなんてないよ、見えないよ、
というフリをしたら、
世の中おしまいだ。おしまいというか、お笑いだ。
とてつもない悲劇は、喜劇に似ているらしい。
ほら、フリフリダンスは、目の前に。
僕自身に。僕の隣に。
フリフリダンス、ちょっと止めようぜ。
今日は、世の中の、僕ら自身の、フリフリダンスについて、語ろうか。