僕は、神仏が多い環境で育った。
特に神仏の教え、
に洗われたわけではなく、
日常的体験として、
視覚的に風情的に情緒的に、
神仏に取り巻かれていた。
幼少期にはお釈迦さんの
誕生日に甘茶を飲み、
日曜日にはお寺に通って
機械的に正信偈を唱え、
寺の境内で友だちと遊ぶ。
冬休みには
朝5時頃だったと思うが、
お寺のお経よみに通った。
友だちと早朝に待ち合わせ、
1時間ほど正座を我慢したあと、
冴えた冬気の静寂の中、
火鉢の炭に囲まれながら、
朝の精進料理を
住職や檀家のじーさん
ばーさんといただく、
という非日常感が、
ジミ～に楽しかった。
親戚に滋賀の山寺があって、
葬式や法事があると
“おっさ”と呼ばれる坊さん
（おじいちゃんの弟）がやってきて、
般若心経を唱える。あれ？
日曜の親鸞のお経と違うぞ。
はじめて宗派の違いを体感した。
実家は禅宗の臨済宗なので、
袈裟などの装いはカラフル。
カーッ！と喝を入れる
パフォーマンスもハデで
なかなかイカしてた。
親鸞、栄西、観音菩薩、
弥勒菩薩、阿弥陀如来、釈迦如来、
由来も違いもわかってないが、
とにかく多数の宗祖と仏様に遭遇。
小学校、中学校の通学路には
お地蔵さんなどの道祖神があり、
気まぐれに頭を下げたり、
水を手向けたり。
友だちと野球する神社には、
八幡様の名を関した祭りで
担がれるお神輿が鎮座する。
故郷は三重県なので、
伊勢神宮の天照大神の
神札が和間に置かれ、
親戚が商売人
だらけだったので、
正月には叔父に連れられ、
えべっさんに大黒さん、
破魔矢や熊手など
高価でデカめの縁起物の
オトナ買いにつきあう。
八百万というやつだが、
私のそれは神仏だけじゃなかった。
遊星仮面、鉄腕アトム、鉄人28号、
ビッグX、宇宙少年ソラン、
グズラ、ヤダモン、孫悟空、
ジャングル大帝レオ、
魔法使いサリー、ムーミン、
ウルトラセブン、星飛雄馬、
矢吹丈らも、
凡庸や日常を超越した
八百万の存在であった。
中学高校大学では、
古今東西の小説家などの
書き手やミュージシャン、
映画監督や
映画の役どころが
八百万の超越的存在として、
私の退屈な日常に水と花をくれた。
つまり僕には、なんだか
よくわかっていないけど、
人間を超える菩薩や如来が
幼少期からそばにいるし、
（掛け軸は達磨大師だった）
圧倒的に個性的な異人キャラや
畏敬を抱く優れた創造者が、
働き始める前に八百万、
僕を取り囲んでくれたのである。
だから、働き始めて
部長や課長に怒られたり
指導されたりしても、
さほど身に沁み入ってこない。
聞いていないのではなく、
ボブディランなら
これをどうとらえるのかな？
三島由紀夫ならどう返すだろう？
黒澤明の椿三十郎に
こういう官僚的俗物出てくるなあ。
こいつに、バカボンのパパの
ユーモアがあればなあ。
そんな見通し、
思い込みすぎじゃないか？
諸行無常、時代は流転する。
八百万のセンセーがたが、
僕にそう囁くのだ。
流行りのビジネス書も
それなりに目を通していたが、
幼いころに触れた八百万や、
好んで見聞きした八百万が、
ヒエラルキーの糸に
絡み取られるメンド臭さから、
僕を遠ざけてくれた気がする。
こんな部長、なんぼのもんじゃい。
気にすんな、と。
ビジネスは
人生の一面に過ぎないのだから、
その一面が全面かのような
ビジネス観なんて、
ビジネスとしても
大したことないぜ、と。
会社は、その構成員を
会社の意志のもと、
統合しようとするものだ。
しかし、統合されるばかりの
構成員を集めても、
会社は成長しないという
皮肉な逆理もある。
成長する会社には、
統合不能な多様な八百万が
必要なのだと思う。
統合されて会社員Aに
なってしまい、
交換可能な
存在の薄さに耐えがたい
空虚を覚えたくないなら、
八百万をまわりに
どうですか、
と言いたいのです。
八百万という名の
多様な価値観は、
ビジネスのありがちな
慣習や価値と
衝突する。凌駕する。
そんな衝突価値を、
自分の中に持っておけば、
ビジネスの陥穽に
転落するリスクもちっとは
抑えられるのかなあと。
怠慢で薄弱な私は、
八百万のセンセーに
ずいぶん助けられています。
しかし、冗漫な文章だ。
推敲する時間も気力もないので、
ままよ、ということで、
すみません。
短く書くことは、難しいですね。
