泉一也の『日本人の取扱説明書』第47回「洒落の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
和歌の良さが分かるだろうか。新元号「令和」の出典は、日本最古の歌集である万葉集。梅の句の序文から漢字二文字を取り出した。
「初春の令月(れいげつ)にして、氣淑(よ)く風和ぎ(やわらぎ)、梅は鏡前の粉を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香を薫らす」
その意味は、
「時あたかも新春の好き月(よきつき)、空氣は美しく風はやわらかに、梅は鏡の前に装う女性の白粉(おしろい)のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香の如きかおりをただよわせている」
新春の氣を、美しい女性の色香にたとえて表現をしている。令和は女性が輝く春の時代ということだろう。
ちなみに「令」という漢字は「命令」の印象が強いが「神様のお告げ」が本来の意味であり、そこから派生して命令という言葉が生まれた。よって令には高貴で喜ばしいというニュアンスがある。令聞(良い評判)、令嬢・令息(立派な娘、息子)という言葉からも分かるだろう。
その万葉集でこんなラップ調の歌が詠まれている。
淑(よ)き人の 良(よ)しとよく見て 好(よ)しと言ひし
吉野よく見よ 良き人よく見つ (詠み人:天武天皇)
意訳:昔のりっぱな人が、よき所としてよく見て「よし(の)」と名付けたこの吉野。りっぱな人である君たちもこの吉野をよく見るがいい。昔のりっぱな人もよく見たことだよ。
和歌はこういった「言葉遊び」がふんだんに使われている。言葉遊びを修辞法というが、同音の単語に二つの意味を持たせる懸詞(かけことば)、ことばの連想を促す枕詞、和歌の中に単語を隠す折句がある。これらの技法は知的で芸術性が高い。ラップでは韻をふんで芸術性を高めるが、和歌では音ばかりでなく、2重の意味を持たせ連想を促すなど暗号のごとくメッセージを隠す。暗号解読はパズルと一緒で高等な知的作業である。ここまで説明したら和歌の良さが分かっただろう。
言葉の数に制限があるなかで、芸術性と知性をどこまで満たせるのか。その作品が万葉集には4500首あり、天皇から農民に遊女まであらゆる層の人たちが詠んでいる。その芸術性と知性があることを「洒落ている」というが、その言葉は現代のオシャレに通じている。そして、ベタな洒落を駄洒落(ダジャレ)といい、おじさん層にこよなく愛されている。
「洒落ている」とは美しさと隠し味のようにある知性。令和の元になった序文の世界である。「ダジャレは」モロ出しだから美しくないが、知性はしっかりとある。ダジャレを言うおじさんは、知的な存在であるのだ。だから無下に扱わないで欲しい。
女性の時代に肩身が狭く、やらかしちゃうおじさん層のみなさん、礼はいいですよ。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。