「ハッテンボールを、投げる。」vol.62 執筆/伊藤英紀
会社を変革して成長するか、
現状維持で衰退するか。
さあ、どっち?
中小企業がこのような二者択一的、かつ
二項対立的な問いに直面している
ケースは、ままあります。
売り上げが落ち込んでいたり、
停滞感にモヤモヤと悩んで
悲観的になったり。
そんなとき、経営者自らが音頭を取って、
社員に対し「変革を急ぐぞ」と
迫るケースもあるけど、
コンサル企業から「変革しないと沈没する」
とシビアな提言を受けているケースも多い。
でも、「変革」という言葉は、
ときに危険なオモチャ。
不用意に振り回していると大ケガを負います。
なぜかというと、変革というのは抜本的に
ガラリと変えてしまうことだから。
根こそぎ変えようということだから。
つまり、企業の根幹が根腐れている
と宣言しているようなものだからです。
虫歯が悪化して歯が根元まで腐っている。
歯槽膿漏で歯グキまでバイ菌だらけで
炎症がひどくて歯がグッラグラ。
手の施しようがない。
そんなときに抜歯するじゃないですか。
「御社、そんな最悪の状態なんですか?
根っこからイカれているんですか?」
と尋ねたくなります。
「変革」は異常値の変化要請だと思う。
人や会社が生きている限り、健全に成長しよう
と願えば、「変化」はつきもの。
時は常に動いているから
会社が停まっていては、
そりゃ置き去りになるか古ぼけます。
というわけで、
「変化」は平常値の健やかな挑戦です。
企業が5年も10年も
まずまず堅調にやって来れたのは、
いいところがあるからです。
でなきゃ、とっくに潰れています。
だから多くの会社は、いいところを
もう一度はっきりくっきり把握して、
平常値の「長所進展」や「長所新展開」に
基づき、事業計画をしっかり描き
一歩一歩変化しながら着々と
実行していけばよくなると思います。
でも、変化しよう、改良しようではなく、
わざわざ異常値の「変革」という
イカめしい言葉をあえて使うわけですから、
「変革」の提言者には並並ならぬ、
「猛り」のようなものを感じます。
「今はダメダメだ!
ぶっ壊して創り変えるんだ!」と。
でももし、その企業にとって必要なのは
「変革」ではなく「変化や改良」だとしたら。
「変革」は、抜かなくてもいい歯を
強引に抜歯してしまうとか、
手術しなくてもいいのに強引に臓器を
切除してしまうとかの暴挙に等しいと思う。
わざわざ破壊的な最悪解を選んでしまった、
という自殺行為にもなりかねません。
非常に危険であり、悲劇です。
変革をクチにする主体は、
これまでをぶっ壊し捨て去る側の人間です。
反対に変革の対象域にいる人間は
ぶっ壊され捨て去られる土壌に立つ人間。
僕は、変革創造はときに
非常に重要だと思います。
必要なシーンで、変化が鈍い人間が
ハジかれることも、
営利企業であれば当たり前だと思います。
言いたいのは、「変革」が必要でもないのに、
やたら変革を主張したがるコンサルとかは、
破壊する側、捨て去る側の
痺れるような快感に耽溺している
可能性がないか、ということ。
人間は、闘争が好きな乱暴な生き物だし、
他者より上位に立ちたがる生き物です。
人の頭越しに
「さあ、壊してガラリと変革するんだあ」と、
正義の確信を持って主張するときの優越感は、
さぞや気持ちイイでしょう。
「変革か、さもなくば衰退か?」
なあんて二項対立的な二者択一を
迫られる岐路なんて、
じつは中小企業にはそうそうないと思います。
緩やかな改良改善で十分なことが多いのでは。
変革好きって、変態なんじゃないのか。
AかBか、さあどっち?
的な二項対立を問いかけるヤツは怪しいぞ。
僕はそう斜めに身構えて、
変革を選びそうな社長に再考や翻意を
強くオススメすることもあります。
ところで、最近こういうタイプが
人気政治家になったりするんですよねえ。
あぶねーあぶねー。