泉一也の『日本人の取扱説明書』第67回「大化の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第67回「大化の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

「虫殺し」といえば、大化の改新。「蒸しご飯で祝おう!」で覚えた人もいるだろう。そう西暦645年にあった出来事である。おそらく日本人のほとんどは645年に何があった?と聞くと、大化の改新というだろう。国民のほとんどが知っているというのは、それだけ重要な事件だったはずであるが「なぜ重要な出来事だったの?」と問われると??になる。

中大兄王子(後の天智天皇)が中臣鎌足(後の藤原鎌足)と組んで、蘇我入鹿を滅ぼしたぐらいの知識しかなかったが、調べてみると日本史上の大事件であったようだ。結論から言うと、「権力」の政治から「権威」の政治に大きく変わった(化けた)大事件。ちなみに大化は現代の令和につながる元号の始まりである。この「大化け」から元号がスタートしたのには意味があったのだ。

当時、蘇我氏は仏像仏具の製造販売でぼろ儲けし、その財力でもって権力という国の意思決定権を得て政治を牛耳っていた。蘇我氏は権力で国を統率していたわけだが、権力組織では一人に権力を集中させると強固でかつ効率がよくなる。その一人が「好き・嫌い」で意思決定をし、配下の者に「Yes」と言わせれば、機動的でベクトルの合った組織となる。その一人が優秀な人物であれば、組織は成長しその恩恵に預かった人たちはさらに「Yes!」となる。

ただ、その権力者一人の好き嫌いの采配で、配下の人は人生を左右されることになる。そこに生計があるとしたら、「生殺与奪権(せいさつよだつけん)」となる。権力者がその与奪権をふるうことで、恐怖で支配ができるようになる。さらに「Yes!」の組織文化が生まれて、組織が統率されるのであるが、一つ大きな弱点を持つ。歴史がそれを教えてくれるのだが、権力組織は別の権力に滅ぼされるのだ。

恐怖による支配は、怒りや恨みを生む。その怒りと恨みの矛先が権力者に向き、攻撃を受けやすくなる。なので、権力組織に必要となるのは反乱を阻止する武力である。権力組織にするなら軍事力増強は必須となる。その軍隊自体も反乱を起こす危険性があるので、軍隊にも目を光らせ、権力を持ちそうな輩がいたらすぐに排除しなければならない。一党独裁の隣国では、外憂(外国への心配)より内患(国内の心配)の方が大きいが、権力社会では自然とそうなる。

この権力社会を変えたのが、中大兄皇子と中臣鎌足である。この二人がタッグを組み、天皇の「権威」を中心にした社会に大化けさせたのだ。その権威として元号が生まれ、1400年たった今に続く。

では、権威とはいったい何なのか。威光という言葉があるように、その光とは憧れと尊敬である。権力者と違って天皇という存在は好き嫌いを言えず、意思決定もできず、誰にも恐怖心を与えない。生殺与奪権などまるでない。そんなトップが「威光」でもって社会の中心に位置し、全体がその光に集まることで調和の統治がなされる。それが権威社会である。

ただ、権威社会は中心に憧れと尊敬がなければ、崩壊をしていく。大化の改新の50年ぐらい後に古事記と日本書紀という日本のルーツにまつわる書が生まれたが、これは権威を高めようとしたのだ。逆に言うとその当時は権威が弱まっていたに違いない。

その後も日本は歴史の中で権力と権威のバランスが崩れながらも、そこから持ち直して権威を中心にした社会を築いてきた。権威社会だったからこそ世界で一番長い王朝の歴史を築くことができたのだろう。

その中でも明治はグローバルな権力闘争(帝国主義)の中で、天皇に権力を与えて富国強兵に舵を切った。その権力が軍部の統帥権としてふるわれることになった。この権力と権威のアンバランスが太平洋戦争の大敗戦につながったのかもしれない。さらに焦土と化した状態での無条件降伏によって、アメリカという新たな別権力にさらされ、バランスを欠いたまま今に至っている。

歴史に学ぶとしたら、権威が弱まっていた古事記と日本書紀を編纂した時代である。古事記と日本書紀の本当の目的と価値を知れば、またこの国は「大化け」するかもしれない。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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