第1回「病院のシステム化、本当に必要?」
お医者さん
どうやらウチの病院もついに電子カルテを導入するらしい。まったく、理事長たち経営陣はいつも勝手だ。どうせ、「他の病院も入れてるからうちも!」くらいの気持ちで決めたんだろう。
お医者さん
実際、システム化で現場が楽になるとは限らない。現場の阿吽(あうん)の呼吸でやってた部分を、システムは理解してくれない。結局、いちいち俺が入力しなけりゃならなくなる。
お医者さん
システム化で効率化、なんて、現場を知らないやつの言うことだ。まったく、頭が痛い…。
わかりますわかります。私が聞いてきたおやなみのなかで、これが最も多いケースかもしれません。
絹川
お医者さん
……君は?
ドクターアバターの絹川です。お医者さんの様々な相談に乗りながら、「アバター(分身)」としてお手伝いをしています。
絹川
お医者さん
ふうん。それで?
「システム化することで、むしろ現場の運用が複雑になるんじゃ?」と考えていらっしゃるんですよね。
絹川
実際、人対人でやっていたことが、人対システムになるわけですから、現場の運用は大きく変わることになるでしょう。「機械より人とやっていた方が楽」そう考える気持ちもよくわかります。
絹川
お医者さん
そうそう、そうなんだよ。
でもそれは、「運用のすべてがシステム化される」という思い込みのせいなんです。実際は「ここはシステムで」「ここは人の手で」と、使い分けることができます。むしろ、その使い分けをどう行うのかの<設計>こそ、システム化におけるもっとも重要な工程なんです。
絹川
お医者さん
たとえばどう使い分けるの?
たとえば、患者さんに渡す誘導表、ありますよね。最初はここで採血、次にここに移動してレントゲン、みたいな、指示と地図が一緒になったようなもの。ああいうものは、紙の方が運用しやすかったりします。
絹川
お医者さん
確かに、その都度ささっと書き込んだ方が楽だね。
そうなんです。つまり、システム→運用、という順番で考えると、いろいろと無理が生じてしまう。ここは常に、運用→システムの順番で考えていく。こうすることで、どこをどこまでシステム化するべきかが見えてくるというわけです。
絹川
お医者さん
それは病院によって、いや、部門によっても違ってくるというわけか
その通りです。病院のシステム化は、「しなければならないもの」じゃなくて、病院や各部門を「よりよい環境にするもの」なんですから。
絹川
第2回に続く(近日公開予定)
医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。
著者:ドクターアバター 絹川 裕康
株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。